中学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
数学

ICTを活用した対話的な学びの充実を目指した学習指導の工夫

伊方町立瀬戸中学校 中島 慎二郎

1.はじめに

2021(令和3)年1月に中央教育審議会より「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~[答申]」が示され,「主体的・対話的で深い学び」の実現を目指して,1人1台端末を活用した授業改善が求められた。

本校は,日本で最も細長い自然豊かな佐田岬半島の中央付近に位置する中学校である。全校生徒20名余りの小規模校で,穏やかで真面目な性格の生徒が多い。本研究対象の学年(6名)は,1年生の頃から切磋琢磨し合いながら様々な活動に意欲的に取り組むことができていた。どの教科の学習においても,積極的に挙手をして意見を発表したり,熱心に問題解決に取り組んだりする姿が,授業中などで見られた。

しかし,生徒数が少なく,多様な考えに触れることができず,話し合い活動が充実しないという課題を抱えており,思考力・判断力・表現力等を育成する機会が十分ではないと感じている。そこで,本研究では,生徒がそのような力を身に付けるために,Web会議システムを利用したオンライン授業や話し合い活動等においてICTを有効活用し,対話的な学びの充実を図ることとした。

2.研究の目標

ICTを効果的に活用し,Web会議システムを利用したオンライン授業等の実践を行うことにより,対話的な学びの充実を目指す。

3.研究の仮説

ICTを効果的に活用し,Web会議システムを利用したオンライン授業等の多様な考えに触れる機会を増やせば,生徒が意欲的に学習に取り組み,対話的な学びの充実につながるだろう。

4.実践の内容と方法

(1)デジタル教科書(指導者用)やタブレット端末を活用した実践

(2)Web会議システムを利用したオンライン授業の実践

5.授業の実践

(1)デジタル教科書(指導者用)やタブレット端末を活用した実践

(ア)デジタル教科書(指導者用)の活用

本校の普通教室は,黒板をホワイトボードに変え,プロジェクターを備えた電子黒板として利用している。数学科では,ほぼ毎時間デジタル教科書を使用して授業を行っている。デジタル教科書(啓林館「未来にひろがる数学」)は,生徒が使っている教科書をそのまま投影できるだけではなく,問題のところどころにフラッシュカードが組み込まれ,それを活用して,効果的に話し合い活動等を行い,習熟させることができる(資料1)。

資料1-1:教科書の拡大図

資料1-2:フラッシュカード

(イ)協働学習の充実

本校では,1人1台端末の環境が整備され,様々な教育活動が展開されている。数学科では,「ミライシード(Benesse)」というタブレット学習のオールインワンソフトを活用して,一斉学習や協働学習,個別学習を行ってきた。

教科書「未来にひろがる数学(啓林館)」中には,「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた「説明しよう」コーナー(資料2)や,「話しあおう」コーナー(資料3)がある。

「説明しよう」は,考えたことや分かったことなどを他の人に伝えることで理解を深めることを目的としている。また,「話しあおう」は,みんなで話し合うことで理解を深めたり,自分一人では気付かなかった考え方に出会ったりすることができ,学びが広がることを目的としている。それらの教材をスキャナで取り込み,タブレット端末を利用して協働学習に活用した。

資料2:「説明しよう」

資料3:「話しあおう」

授業ではまず,「ミライシード」の協働学習アプリ「ムーブノート」中のデジタルノートである「私のノート」で,一人一人に課題を提示し,タブレット端末専用のタッチペンやキーボード等の様々な方法で,自分の考えを書き込ませた(資料4)。その後,共有スペースである「みんなの広場」に自分の考えを送信させた。生徒たちは,自分で考えたことを図や式や言葉で表現し,言語活用能力が向上した。図には様々な着色もできるため,分かりやすく表すことができた。また,「みんなの広場」では,瞬時に多くの友達の考えを確認することができた。そのことで生徒は,一つの課題に対して,様々な考え方があることを知り,多様な数学的な見方・考え方を働かせることができた。その際,他の生徒の解答に共感したり,コメントを書き込んだりする機能も活用し,タブレット端末内で意見交換させることができた(資料5)。また,課題に対する練り合いをスムーズにさせるために,グループ活動を取り入れた(資料6)。その後は,その場で自分の意見を発表させたり,前面のホワイトボードに自分の解答を大きく映し,前に出て発表させたりした(資料7)。

資料4:タブレット端末への書き込み

資料5:コメント等意見交換

資料6:グループ活動

資料7:発表

「ミライシード」の他に,Googleの付箋ソフト「ジャムボード」を活用し,協働学習を行った(資料8)。この機能は,個人の考えが色分けされ,一つの画面に解答が集約されるため,6名という少人数の授業では,とても有効であった。

また,タブレット端末のカメラ機能を使うと,生徒のノートやプリント等に書かれた考えを,そのまま前面に映し出す(ミラーリングする)ことができる(資料9)。さらに,タブレット端末の「AirDrop」機能を利用して,生徒の解答を写真として撮影し,他の生徒にその画像を送り,解答を共有することができた。それらの機能を生かして生徒たちは,自分の考えを堂々と表現することができていた。

資料8:ジャムボード

資料9:ミラーリング

(2)Web会議システムを利用したオンライン授業の実践

(ア)第1学年「平面図形」

合同で授業を行った近隣の中学校は,本校とほぼ同じ規模の中学校であり,当該学年には5名の生徒が在籍していた。

(イ)第2学年「図形の調べ方」

「ミライシード」の協働学習アプリ「ムーブノート」は,共通の課題を同じ「ムーブノート」を導入している他校の生徒にも送ることができる。本校で作った課題を近隣校の教員や生徒に送り,両校の生徒全員の考えを「みんなの広場」で共有した。そうすることで,より多くの考え方を一度に確認することができた。

本時ではまず,資料20にあるようにブーメラン型の図形において,三つの内角の和は,外側の角の大きさに等しいことを,様々な方法で説明させた。

資料20:ブーメラン型の外側の角度の求め方の二つの例

資料21:教室環境

本校の生徒だけでも五つの解法が出たが,近隣校からは,別の解法が発表され,本校の生徒は,その発表を興味深く聞いていた。資料21にあるように,発表する場合は,パソコンの前に来て行った。その際,相手校の画面にはどうしても顔が暗く映ってしまうため,専用の照明器具を用意した。また,テレビ画面には,パソコン画面のGoogleミートの画面を,前面のホワイトボードには,ムーブノートの「みんなの広場」のそれぞれの解法を映し出して,授業展開した。 ブーメラン型の角度について論理的に説明し合うことは,思考力・判断力・表現力等を高めるだけでなく,次の星形五角形の先端にできる五つの角の和について考える際に働かせる数学的な見方・考え方の一助となる。つまり,星形五角形の角の性質を考える足掛かりとなる。

本時後半の星形五角形の先端にできる五つの角の和については,ヒントカードを生徒に提示した(資料22)。デジタルばかりでなく,リアルでも有効な教材は多く,組み合わせて使用している。そして,タブレット端末に専用のタッチペン等を使用したり,タイピング入力したりしながら解法を記入させた(資料23)。この問題に関しても,本校の生徒にはない解法が近隣校から出され,多様な数学的な見方・考え方に触れることができた(資料24)。

資料22:ヒントカードの提示

資料23:タブレット端末への書き込み

資料24:本校からは出なかった二つの解法

(ウ)近隣高等学校の公営塾講師による評価

本時の授業は,Googleミートを活用して町内の県立高等学校の公営塾ともつなぎ,授業の最後に評価をしていただいた(資料25)。生徒たちは,講師の専門的なアドバイスを食い入るように聞いていた。また,この学習後の発展的な内容等,高等学校の学習につながる話などを聞き,更に数学の学習に意欲を高めた。

資料25:公営塾講師からの評価

6.研究の考察

(1)デジタル教科書(指導者用)やタブレット端末を活用した実践

下記のような意見が生徒からあり,タブレット端末等のICTを活用した授業改善により,生徒の意欲的な活動や数学的事項を論理的に説明し合う対話が生まれ,「主体的・対話的で深い学び」へとつながったと感じている。

  • 〇 ICTを利用すると,自分の考え方以外のやり方も勉強できる。
  • 〇 オンライン交流授業でたくさん発表し,説明できる力が付き,学力が向上した。
  • 〇 グループで考えると,様々な問題を友達と教え合うことができるので楽しい。
  • 〇 以前より,家庭学習での数学の内容が,分かるようになってきた。

(2)Web会議システムを利用したオンライン授業の実践

下記の感想にあるように,全員の生徒が楽しく活動でき,内容も理解できたようだった。オンライン交流を通して,友達の意見を参考にしながら,自分の考えを発表することで,数学的な思考力・判断力・表現力が身に付いた。また,初めはタブレット端末の操作に不慣れな生徒もいたが,徐々にうまく操作できるようになり,生徒のICT活用能力の向上を図ることができた。オンライン交流授業に対しては,徐々に肯定的な意見が多くなり,楽しみながら学習することができた。ICTを活用することにより,「学びにはへき地はない。」ということを実感した。

  • 〇 自分たちの学校では出なかった意見が出たので参考になった。
  • 〇 答えは同じなのに,やり方が全く違うことに関心を持った。
  • 〇 自分の意見をしっかり発表することができた。
  • 〇 タブレット端末の操作に慣れた。
  • 〇 以前より,自信を持って発表することができるようになった。

7.今後の課題

今回の実践研究から,次の2点が課題として挙げられる。

〇 Web会議システムを利用したオンライン授業について

小規模校の生徒が多様な考えに触れる機会として,とても有効な授業形態であるが,準備や打合せ等に多くの時間が必要になる。両校の教員が,効率よく授業の準備ができる方法を研究していくことが課題である。

また,両校の学習進度を合わせなくてはならないため,それぞれの教員が,日頃から連絡等を密にしておかなくてはならない。そして,同じ時刻に授業を進めるため,両校の校時も一致させる必要がある。各校の教務主任とも連携し,学校全体で共通理解を図っていかなければならないと感じた。

〇教師のICT活用指導力の向上

Society5.0時代の中で,生成AIの活用等,今後,情報化がますます進んでくると考えられる。このことから,様々なICTを活用した業務改革や更なる授業改善が課題である。ただし,ICTを活用すること自体が目的化してしまわないよう留意する必要がある。また,効果的なリアルとデジタルのベストミックスについて,更に研究を深める必要があると感じている。

【参考文献】

【今回取り上げた題材】

※「ミライシード」は,㈱ベネッセコーポレーションの協働学習・一斉学習・個別学習それぞれの学習場面に対応した三つのアプリケーションからなるタブレット学習オールインワンソフトです。「ムーブノート」は,その中の協働学習支援ツールです。