第1学年 6章「空間図形」
~日常事象から問題を見いだし解決する授業の創造~
札幌市立新陵中学校 戸谷 真由子
1.はじめに
「中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 数学編」の「第3章 第1 節 第1学年の目標及び内容」におけるB(2)立体図形の表面積や体積の求め方を考察し表現すること(アの(イ),イの(イ))には,「このような立体図形の求積では,ある立体の表面積や体積を求めるためには,どのような図をかいて,どの要素が分かればよいか,そのためにどのような性質や関係を用いればよいかを調べていくなど,目的を明らかにして,そこから逆向きに考えて解決していくことが考えられる。」と明記されている。
空間図形・平面図形の学習において主たる学習活動として立体の面積や体積を求めることが重視されることが多いように感じる。しかし,単に求積するだけでは,目標を達成できたとは言い難い。そこで,自ら目的を明らかにし,そのために必要な図や要素,性質や関係を見つけ出すことができるような授業を実践した。
2.授業実践
(1)教材 1学年 第6章 空間図形 2節 図形の計量
(2)数学的活動
- ア 日常の事象や社会の事象から問題を見いだし解決する活動
- ウ 数学的な表現を用いて説明し伝え合う活動
(3)教材の捉え方
2つの立体を比較するために,体積に着目して立体を捉えようとするが,どちらの立体も正確には「円柱」「円錐」にならない。そこで,モデル化した立体として,図に表していくことで見通しをもつことが必要になる。
解決に向かう際,実際に測定して計算するのではなく,教師側で提示したおよその値で計算するよう促す。解決の過程でどこを求めれば,必要な部分の体積になるか考えていくことになる。
本時の学習活動において,基本的な図形の計算の仕方,図形の書き方を理解している必要がある。また,を用いて計算を行うため,文字式の計算の力も必要となる。単元の中で,本時に必要な力を身に付けさせ,その学習と本時を結び付けることで,それまでの学習の価値を実感させることができると考える。
3.学習計画
- (1)いろいろな立体
- (2)投影図,立面図,側面図
- (3)多面体
- (4)直線や平面の位置関係,空間の距離
- (5)回転体
- (6)展開図
- (7)表面積
- (8)おうぎ形 球の表面積
- (9)体積
- (10)円柱・円錐・球の関係性
- (11)きのこの山とたけのこの里の比較 (本時)
4.本時の目標
- 日常にある立体を,既習の立体と結び付けてモデル化することで,問題を解決することができる。(思考・判断・表現)
5.展開(11/11)
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〇生徒の学習活動 *生徒の反応 |
・教師の働きかけ・留意点 |
導入 3分 |
- ○きのこの山とたけのこの里,どっちが好きか。
- *おいしい方が好き
- *見た目や形がかわいい方が好き
- *チョコが多い方が好き
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- ・どちらのチョコが好きか,問いかけ興味を持たせる。
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【問題】きのこの山とたけのこの里のチョコの量が多いのはどちらか。
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展開 10分 |
- ○どちらの方が,チョコの量が多いか。
- *きのこの山23名 たけのこの里7名
- *形をみて多そうだ
- *食べてみたときの感覚で多い方
- ○どうやって比べるか。
- *重さをはかる
- *チョコを溶かす
- *パッケージやHPに書いてないか
- *計算する→体積を求められないか
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- ・どちらのチョコが多いか予測させる。なぜそう思ったか理由を問う。
- ・比較するための方針を立てさせる。数学的に考えられるよう,どの比較の仕方が適しているか考えさせる。
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共有 10分 |
【学習課題】どのように体積を求めればよいだろうか。
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- ○2つの体積をどのように比較するか。
- *計算して求めたい
- *体積を比べるには...
- *図にかく
- *長さが知りたい
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- ・実際に図に表すために,「どんな立体に似ているか」を考えさせ,既習の立体に置き換えて考えさせる。(モデル化)
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展開 15分
共有 10分
まとめ 2分 |
- ○モデル化して,立体に表してみる。
- *きのこの部分は円錐か,半球か
- *きのこの傘の部分は円柱に見えるな
- *たけのこは,円錐をもとに考えられそうだ
- ○大きさの条件を決める(縮図としてとらえる)。
- ○実際に計算してたしかめてみる。
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- ・どこまでがチョコで,どこまでがクッキーか,分けて食べてみた経験がないかを問いかけ,イメージして共有部分も修正を加える。
- ・ワークシート②(A4の4分の1サイズ)を配布し,のり付けさせる。求めたい部分の長さを確認させる。(具体化)
- ・文字式の計算,式の値の計算を用いて解決へ向かわせる。(文字式の有用性,分数の有用性)
- ・求めたい部分を確認し,式にして確認していく。
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- ○さらに=3.14を近似値として代入する。
- 【課題解決の姿】
- ・日常にある立体を既習の立体にみなして考えることで体積を比較できた
- ・身の回りに空間図形があふれている
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- ・式の値の考えを用いて,より比較しやすくする。
- ・今回はただ計算するだけでなく,図示すること,計算手順,文字式や分数の有用性などに気付いて取り組むことができているかもみとる。
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6.目標に対する評価について
- 日常にある立体を,既習の立体と結び付けてモデル化することで,問題を解決することができたか。(思考・判断・表現)
7.成果と課題
【成果】
- (1)分数の有用性
今回の計算を通して,小数よりも分数で計算することのほうが計算しやすくなることに気付いた生徒が多かった。面積の計算についても,三角形の面積は小学校で「÷2」で計算していたが,中学生になると約分の利点から「×」にして計算している。体積の計算においても,角錐や円錐は「×」を使用することから,小数を使って計算しようとすると,割り切れなくなったり,分数と小数が混在していまう。計算が複雑になればなるほど,分数の有用性に気付いた生徒が多かった。
- (2)身の回りのものを既習の立体とみなしてとらえ直すこと
身近なものを数学の世界にある「円錐や円柱」などにモデル化することで,「自分たちの知っている立体にみなして考えると計算できる!」と,びっくりしていた生徒が多数いた。全く同じ形でなくとも「モデル化して考える」ことで比較したり,計算できることで「他のお菓子なら」「クッキーの体積ならどうか」「他の立体に置き換えることはできないか」と,さらに発展して考えることができていた。
- (3)文字を使って計算することの有用性
最近この章で「」を習った1年生からすると,1年2章で習った1次式の文字式の計算の「有用性」に気付くことができたようだ。3.14を使って計算していれば,割り切れなかったりさらに複雑な計算になることが多く,①で述べた「分数」と「小数(3.14)」が混在してしまう状況になる。そのため,を使い,文字式を用いることで「文字式として体積を計算する」方が計算しやすいことに気付いた生徒も何人かいた。
- (4)単元のつながり
2章で習った「1次式の計算(を使った計算)」や「式の値(のちにに3.14を代入することから)」が今の6章にも生かされていることが実感できたようだ。
【課題】
- (1)見えてない部分を図や文字として表すこと
今回の計算の肝である「チョコの体積を求めるためには,クッキーの体積を引いて考えなければならない」ので,「どこまでがチョコか,どこまでがクッキーか」を予想して考えていた。チョコの厚みやクッキーとチョコが刺さっている部分がどれくらいの長さなのかを予想して考えながら図示していたが,実際の問題の図を見てみると「思ったよりクッキーが刺さっている」「意外とチョコの厚みが大きい」など,見えてない部分をどう捉えて表現していくかがカギになっているようだった。
- (2)ただ計算して終わりにならないようにすること
はじめから立体として与えてしまうと,ただの計算問題と変わらなくなってしまう。「図として捉える」ことや「どんな立体にみなせるか」「どの長さが必要か」など,自分で数学の世界に引き込んで考えさせる必要がある。身近なお菓子を数学の立体として捉え,また「他のお菓子は?」「他の立体は?」と考えることで「問題発見・解決の過程のサイクル」の2周目を回せるのではないか,と考える。
- (3)解決後に次につなげて考えること
比較して考えてみた後に,「他のお菓子なら」「クッキーの部分なら」と考えることができた生徒が多かったので,実際に自分で課題を決めモデル化して取り組むことでさらに深い学びにできると感じた。ただ,比較して計算するだけにならないよう工夫していきたい。
- (4)批判的に考えること
今回与えた図では「円錐・円柱」が用いられているが,学習が進んでいくと「半球」や,クッキーの部分も「円柱と半球を組み合わせたもの」として考えることができる。学習が進むことで,「もっと正確に求めたい」「本当にそれでいいか」と数学の世界と日常の世界を行ったり来たりしながら取り組めるとなお正確に比較できるのではないか。
8.板書計画
9.生徒のワークシートから
【参考・引用文献】
- ・文部科学省(2017)『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 数学編』
- ・第100回全国算数・数学研究大会(東京)大会(2018)にて,株式会社明治 配布チラシから