人工知能(AI)の飛躍的な進化など様々な変化は,私たちの雇用のあり方,学校において獲得する知識の意味にも大きな変化をもたらしている。令和3年より全面実施となった新学習指導要領は,このような状況の中で身につけるべき力の再認識を示してくれた。特に,人工知能がどれだけ進化し思考できるようになったとしても,その思考の目的を与えたり,目的のよさ・正しさ・美しさを判断したりできるのは人間の最も大きな強みであるとも言い切れることができる。
では,このような中で数学教育を通して身に付けさせたい力はなんだろうか。答えは無数に存在するが,その1つは「数学を利用して考える力」であると私は考えている。従来の数学の学習に対するイメージといえば,公式を覚え,練習問題や演習授業で繰り返し類題を解き,高校入試・大学入試問題を演習していく…といったイメージであろう。実際にこのような指導は,多くの中学校・高等学校で行われており,入試を突破することを重視している指導方法であるとも言える。このような指導方法は新学習指導要領のいう,いわゆる「生きる力」を身につける指導方針とは逆方向であるが,現実的には必要な指導であることも実感できる。
このような中で,中学生から本格的に学び始める統計の単元は,「数学を利用して考える力」を育成するのに長けている単元であると私は考えている。統計分野が他分野と最も異なる点は「推測」を行えることであり,明確な答えのない事実を推測するために数値を利用しなければならない。推測していく改定の中で,必然的に中学1年時に「数学を利用して考える力」に触れていくことができる。また,中学1年生という成長過程に応じた指導,すなわち楽しみながら数学を学ぶことがしやすい学年であることも活用すると,よりこの力は大きく伸ばせるのではないかと考えている。
授業内容・学習内容 | 演習問題 | |
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1 |
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(・単元テストの返却,解説)
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主に教科書を用いて,ベースとなる知識・技能の定着をはかる。
その際に,以下の点に注意しながら指導を行った。
まず生徒達が最も疑問に思うのが,「なぜこんなに度数分布表などはこんなに種類が多いのか」ということである。この点を最初から意識させておかないと,8校時における「最も適切な表・グラフを選ぶ」ということができなくなってしまう。それぞれの表やグラフのメリット・デメリットはある程度のもので構わないので,対話形式で生徒の口から発言させることが最も学習定着度が高くなると思われる。以下,今年度行った授業における生徒がまとめた内容である。
データの羅列 | ◯正確な平均値・中央値が求められる。 ×データが多いとまとめたり,計算することが難しい。 |
度数分布表 | ◯多くのデータをたった1つの表にまとめることができる ×100%な平均値・中央値を求めることができない。 |
相対度数 | ◯合計数が違っていても,2つのデータを比較することができる。 ×平均値・中央値を求めることが,度数分布表よりも難しい。 |
累積度数 | ◯50未満など,基準以下・以上のデータの数がすぐに分かる ×平均値・中央値を求めることができない。 |
度数折れ線 | ◯目に見える形でデータの傾向が分かる。 ×平均値・中央値を求めることができない。 |
それぞれの表やグラフの良し悪しを理解した上で,それらを比較・検討することができなければ,適切な判断をすることができない。具体的には,メリット・デメリットを述べさせるうえで,「〇〇〇と比較したうえで,メリット・デメリットは△△△である。」という形で発言させると,自然に比較・検討することができる。また,プリントを用いる演習においても,解いた直後に「この問題だと,どの表・グラフを使うとよいのだろう?」と一言質問を投げかけることで,生徒が判断する機会を増やすことも意識した。
生徒たちに紙飛行機を作成させ,どの班の紙飛行機が最も飛ぶ紙飛行機であるかどうかを,データを用いて判断させた。このとき,データを用いて判断させるために「100cm,100cm,100cm,200cm,1000cmの紙飛行機Aと,300cmが5回の紙飛行機Bとでは,どちらの方がより飛ぶ紙飛行機であるといえるのか」という平均値・中央値と関連のある話を導入として行うことで,改めて得られたデータを根拠として判断することの必要性を確認した。
以下,6~8校時の授業実践の内容をまとめる。
時間 | 授業内容 | 注意点など |
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10分 |
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5分 |
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35分 |
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今回の授業では,「データを用いて判断する」ことを重視したため,度数分布表にまとめる作業などはExcelを使用することにより割愛した。左表に実際のデータを入力し,階級の幅・最小値を入力すると自動的に度数分布表にまとめられるよう関数式を入れたデータを,各生徒に配布した。データを度数分布表にまとめる力をつけさせたい場合,白紙の表を配布することで対応することができる。
時間 | 授業内容 | 注意点など |
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10分 |
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30分 |
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10分 |
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実際に,グラウンドで紙飛行機の飛距離の計測を行った。本来ならば体育館など雨・風の影響がない場所での計測が理想的であるが,今回の授業では他教科の都合および天気が良かったこともあり,グラウンドでの計測を行った。教員の準備として,体育科から50mまで計測できるメジャーを借りていた。また,分析・推測をするにあたって十分なデータ量が必要であるため,今回は「最低でも100回以上,可能ならば200回以上」という制限を設け,生徒たちに計測を行わせた。紙飛行機を飛ばしている際に破損や紛失もあるため,6校時で同じ種類の紙飛行機を複数個用意させている。
時間 | 授業内容 | 注意点など |
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5分 |
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20分 |
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20分 |
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5分 |
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各班でまとめたデータを表やグラフにまとめさせた。今回の授業では,各班の試行回数が異なるといった理由をあげて「相対度数分布表」が最も適切ではないかと判断し,度数折れ線にまとめた。しかし,実際に度数折れ線にして検討してみると,非常に比較しにくいと判断してくれた。そのため,再度「累積相対度数分布表」を用いて検討した結果,先程よりも比較・検討しやすいものとなった。まとめの段階では,複数種類の度数分布表がなぜあるかを再度認識させ,本単元のまとめとした。また,実際に最も飛ぶ班の紙飛行機を決定させたが,生徒同士が根拠をもとに説明し納得できるような結果であれば,多少誤った内容であっても構わないこととした。他にも,より議論を中心とした授業を行いたい場合,度数分布表にまとめる作業を宿題として課し,グラフに表す時間を短縮することで,実践することができる。