中学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
英語

中学校・英語の授業実践における創意工夫~小中連携のために~

大阪市立茨田中学校 林 譲治

1.はじめに

1992年に大阪市立味原小学校と真田山小学校で国際理解教育の一環として外国語体験の時間が始まり,2017年の5,6年生の教科化以来,小学校英語授業のレベルアップは目を見張るものがあります。中学校は,その成果を無駄にしてはなりません。当然,大阪市立茨田中学校でも,楽しく英語学習をしてきた新入生のモチベーションを下げないように,小学校の英語を「使う」形(外国語活動)を引き継ぐようにしています。

2.帯学習

“How are you?” や “What day is it today? How’s the weather today?”等,疑問文による簡単な応答は,小学校で十分慣れてきているので,毎授業の初めに一定数の疑問文を使ったquick responseの練習をしています。“Thank you.”や“I like dogs.”のように,一切日本語を介することなく,反射的に利用できるフレーズを,今年は40文覚えようとしています。

覚えるべき応答文の中には,“Who do you go to school with?”のように,前置詞を忘れがちになる文や,いわゆるキーセンテンスとしていまだ教科書に出てきていない,様々な疑問詞やdoes, did, will等の助動詞も含んでいます。

そもそも小学校では文の構造など関係なく,この項の1行目に書いたような英文を,使用してきているので,それが少し難しくなったぐらいでは何の違和感もないようです。この状況を活用して,後ほど教科書に出てきたときに詳しく勉強しなおすという,ヘリカルな学習方法をとらないのは全くもったいないと思いますし,難しそうに見える英文を,逡巡することなく口にする癖をつけてくれている小学校英語に感謝します。

3.音節を意識した単語学習

小学校ではabcd(アブクドゥ)を行ってくれていますので,中学校ではそれを受けて,音節を意識するようにしています。単語のスペルは一文字ずつ覚えるのではなく,音節で覚えさせるようにすると覚えやすくなりますし,音節を意識することで,発音は良くなり,同時にリスニングの力も伸びます。長い英文を聞いたり話したりするときのための基礎学習として“絶対に”必要なことです。道具としてPPTを使います。

4.英文の語順のまま理解する

英文法の学習をしていますと「後置修飾」という言葉が出てきます。関係代名詞を挟んで後ろから先行詞を修飾とか,英語を母語とする人でこんな意識をもっている人はいるのでしょうか。英語は基本的に後ろへ後ろへ足していく構造をしています。“a book on the desk”のような前置詞句はもちろん,a(an) ですら,数えられる一つの名詞の「前」にあるのではなく,a の「後」に不特定の何かが来ると教えます。

昨今チャンクリーディングが普通になってきているように思いますが,英文の下に線を引き,後ろから前に矢印を書いて,英文の「日本語として」の構造理解を促すという授業をいまだに見かけます。もちろん,構造の複雑な英文を理解するために,または精密な訳をさせるためにそのようなことをするのもひとつの方法かもしれませんが,私はしません。英語は後ろへ後ろへ足していくものです。

5.少しだけ無理をする

中一の1学期でdictoglossをすると言うと,たいていの人は驚かれるでしょうが,出来ます。もちろん,完全な結果を期待しません。あまり書けなくても,聞き取る力のある生徒はいるし,協働学習にもなります。これだけ早い時期にさせる一番の目的は「間違う(できない)のがデフォルト。外国語なんだから」ということが普通であるようにするためです(この点,本来のdictoglossの在り方とは違うということは横に置いておいてください)。生徒達には“I like dogs.”の順で単語を並べてみること,カタカナで書き留めた単語の綴りはパソコンで調べてもいいし,先生に聞いてもいいしで,5月初めのC-NET(大阪市ALTのことです)との授業で,C-NETの自己紹介スピーチを聞きとらせました。これも「無理だー。できないー。」と口では言っていましたが,スピーチを聞きながら,すぐにとりかかりました。

一番の目的は「間違う(できない)のがデフォルト。外国語なんだから」ということが普通であるようにするためと上に書きましたが,既に小学校でそういうことは身につけているみたいで,取り掛かりに時間がかかりません。再び小学校に感謝します。

左側がC-NETの話を聞いた時のメモ。右側がメモを元にした出来上がりの一例です。4人1班で行っています。ところどころ間違えていますが,ここから教科書に沿って修正をかけていきます。一度使った教材は複数回使用します。ヘリカルな学習です。まだこの時点で教科書に出ていない3人称単数や助動詞ですが,上記帯学習の文の中に入っているので問題なしです。帯で繰り返し口にしている英文から,自分たちで気づくようにさせます。

6.ゲーム要素も取り入れる

学習における喜び・楽しさとは,わからなかったことがわかった時,できなかったことができるようになり,自分の進歩を自覚できた時に感じるものだと思いますが,それでも小学校からの「英語の授業は楽しい」という気持ちを萎えさせないために,ゲーム性のあることもします。特にKahoot!とJamboardは使い勝手がよく,しょっちゅう使いますし,Teamsの「音読の練習」も生徒たちの音読に対するモチベーションを上げるのにとても便利な機能です。

Kahoot!は単語や文法の復習ゲームとして楽しいですし,生徒の授業理解度を測るクリッカーとしても非常に有用です。復習ゲームの時はワァーワァー言いながら行いますし,クリッカーとして使うときは,一つひとつ解答結果を見て,正解した生徒に説明させたりします。Kahoot!で何より良いことは,全員が恥ずかしがらずに参加できると言うことです。

Jamboard は個人で使わせることもできますし,ペア学習,グループ学習,全体学習のいずれでも使えます。
右上図は,3単限の学習をしたとき。黄色い付箋をドラッグ&ドロップで左右に移動させます。
右下図は,教科書本文を読む前に,テキストボックスに入れたバラバラの文を,ドラッグ&ドロップで並べ替えさせ,教科書通り,または意味の通る文にさせる課題です。
これができたら,いちいち全文訳が必要でしょうか。その時間に別のことをします。
Formsは,Kahoot!やJamboardを使ったあとに,個別に理解度を測定するのに便利です。解答から統計まで自動で行ってくれます。Kahoot!やPPT等を使って学習したことと同じ問題を授業の最後に一次確認として使います。他のICT教材と連携して使うことで,タブレットを出したり片づけたりという手間が減るので,時間短縮にも有効です。
Teamsの「音読練習」は,生徒の「読み」を採点し,ちゃんと読めていない単語の発音を矯正するシステムまでついています。下の画像は同じ生徒が同じ英文を5回読んだ後の進歩です。

7.まとめ

なぜ英語を話せるようにならないのかという質問は,職員室でも他教科の先生からよく出されますが,私の答えはいつも同じです。「使わないからですよ。」

職務上使わなければならない立場になったとき,レベルの差はあれ,たいていの人が使えるようになっているはずです。使う必要が,過去に勉強したおぼろげな知識を外に向けて出してくれます。英語学習にはInputはもちろんOutputがとても大事です。そのアウトプットの練習時間を最大限にするために,ノートに写した教科書本文の下に線や矢印を書いて「後置修飾」と書かせている時間がもったいないです。その点では,英語の4領域の「話す」を「発表をする」と「やり取りをする」の二つにし,5領域としたことは,とても良いことだと思います。英文の構造をノートするのではなく,英文そのものを書かせ,話させることが大事です。