桃山学院は1884年に創立して以来,ミッションステートメントに基づく,時代に即した教育を目指してきた。桃山学院中学校は2008年に開設され,中高一貫の6年間で独自のカリキュラムと授業システムで難関大学に進学できる学力の伸長を図り,世界に飛躍する人材となるための知性を養うことを教育方針として掲げている。本校の生徒のうち,入学前に英語の塾に通っていた生徒の割合は全体の10分の1ほどであり,ほとんどの生徒が中学生になってから英語の学習を始めている。中学校教科書では啓林館の『BLUE SKY English Course』を採用しており,生徒たちの英文法知識における段階的な定着に非常に役立っている。この授業実践報告では現在中学3年生の生徒たちが1年生の頃から実践している活動の報告をさせていただきたい。
大学入試のため,高校の定期考査のための勉強に留まらないよう,中学生の時期の間に基本となる英文法(語彙)のイメージの定着に焦点を当てた。例えば中学校で始めに習うbe動詞は意味を「~です/ます」と教えるだけでは進行形や受動態の単元に入ると生徒たちは理解に時間がかかってしまうため,授業では「~です/ます」の意味と同時に『数学の(=)イコール』のイメージを伝えた。のちに学習する進行形や受動態において主語がどのような様子/状態であるかをイメージすることができたため,中学英文法においてbe動詞を用いる新しい単元が出てきた時,それらを解説する際に生徒たちが理解するまでの時間は経験上少なかったと言える。また,一般動詞を初めて生徒が習う際には動詞の目的語と主語がイコール関係にないことも理解させ,be動詞と一般動詞の役割の違いの説明にも役立った(直後に補語がくるものを除く)。高校入試レベルや時に大学入試レベルの問題を見せながら自分たちが現在学習している単元がどのように入試問題で扱われているかを確認することで生徒たちの学習姿勢にも効果的であった。
また,品詞に関する知識に中学生の内から触れておくことで,多くの高校生が苦手とする関係詞の単元の説明に時間がかかり過ぎることはなかった。私の担当する学年ではS(主語),V(動詞),O(目的語),C(補語),M(修飾語)に加え,( )で形容詞句(節),< >で副詞(句)節,[ ]で名詞節を表して,それぞれの語句が文中において何の役割をしているかを考えさせた。本格的にこれらの記号を使っての説明をしたのは中学2年次の1学期後半頃からで,すべての文型を説明した頃から,扱う長文の内容を精読するのに非常に役立ったと言える。また後述するリスニング力の向上にも想像以上に役立った。
文法解説の例
どの教科に限らず,間違えた問題の見直しにどれほど時間をかけるかが重要である。授業では新しい単元を説明後,確認問題に取り組む前にあえて間違いを示す時もある。そうすることで生徒たちは自分たちはどのような間違いをしやすいのかを理解することができ,同時に間違えた際には自ら確認をすることが可能となる。英語が苦手な生徒はついつい間違えた問題を赤で訂正し,そのまま提出することが多いが,上位層の生徒の取り組み方とを比べると成績の伸びに大きな差があった。中学生の内に間違いを自分で正すことのできる力を養うことは必要であることがわかる。
生徒たちには授業で解説をすると共に2色のペンを使わせており,正しい答えと自分なりのメモを記入するように指示している。テスト前には自分のメモを見返して確認させた後にもう一度取り組ませることで成績の向上が見られた。「なんとなく分かる」ではなく明確な理由とともに理解する習慣を中学生の間に付けていきたい。
やり直しの例
課題手順
1分ほどの短い対話文や説明文を何度も繰り返し聞き,全て書きだすというディクテーション課題を週1回で課した。空欄補充のディクテーションだと,空欄の語のみに集中してしまうが,全文を書くためには1文を全て聞かなければならない。単語1つ1つで聞き取ろうとしていた生徒たちは,慣れてくると1つの文章で聞き取ろうという音声の聞き方に変化が見られた。また,発音におけるリンキングやリダクションをこの課題を通じて経験することができる。”I’ve been to ~.”という現在完了形の文章を例にあげると,vの発音はほとんど聞こえず,”I been to ~.”のように聞こえる。しかし文法上では主語 I の直後に過去分詞形の been が来ることはあり得ず,生徒たちはディクテーション課題に取り組んでいる中で「聞こえていないけれどもこれは現在完了の文章なのではないか」と推測できる生徒も増えた。課題としてはかなり時間のかかるものではあったが,本校生徒の全国模試の得点率を見るとリスニングは文法の得点率とほぼ同じで,全国推移を超える数値を出すことが出来た。
リスニング(ディクテーション)課題
英文法が少しずつ定着し始める中学2年生頃から,アウトプットトレーニングの一環としてオンライン英会話や質問カードを用いたペアワーク,教員が作成したすごろくを用いて発話量を増やす授業も数回実践した。質問に答えるための動詞や目的語を考える時間はかかっている様子ではあったが,生徒たちは自然と必要な時制やフレーズを使えていた。教科書のRead & Thinkは習った単元を自然に使いながら英文に触れることができており,英語にやや苦手意識を持っている生徒でも全体の内容をきっちりと理解できるようになっていたため,ペアワーク時のトークテーマに用いることもできた。
生徒の英語すごろくの様子
生徒のペアワークの様子
生徒のオンライン英会話の様子
共通テストへ向け,読む速さを上げるための取り組みや,イディオム・慣用表現の知識に関してはまだまだ深める必要があるため,高校では教材として,啓林館の『Vision Quest』を採用し,中学で養った英文法の基礎を軸に様々な活動に取り組みたい。大学入試や検定試験の合格率を上げるための様々な教材や取り組みがある中で,生徒たちが自ら英語力の底上げを図るために必要な基礎文法力は中学生のうちに付けておきたいと考えている。「自主性のある生徒の育成」という目標を達成するためには「自主的に学ぶことのできる知識」の定着に教員がサポートする必要がある。
グローバル化が進む現代において,英語が仕事のツールとなることが多くなった。最終的な目標として『聞く・話す』能力を伸ばすことが望ましいが,英語が仕事のツールとなるように,基礎的な文法力が今後英語を学ぶツールとして活きると強く感じている。言語活動を通じて世界の文化に触れ,興味関心に向けて自ら学んでいく国際的な視野をもつための土台作りを教員が担うべきであると私は考えている。