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英語

読んでから解かない!スキーマを活性化させて読解指導

明徳義塾中学・高等学校 吉井 靖宗

1.はじめに

本校は,1972年に高知県の須崎市に寮制の学校として開校し,1978年にオーストラリア/バンバリー校と第1号姉妹校提携,1991年には日本語コースを設置,日本人生徒に加えて各国から留学生を受け入れています。また2001年には同県の土佐市に竜国際キャンパスを開校して,2004年に文部科学省より「スーパー・イングリッシュランゲージ・ハイスクール」に指定を受け,2023年に創立50周年を迎えます。

本稿では,2章で明徳義塾での英語の取り組みについて,3章で私が実践している読解指導について,4章では生成文法理論に基づく文法指導(時制)と今後の展望について述べていきたいと思います。

2.明徳義塾での英語の取り組み

(1)明徳義塾での英語の取り組み(中学校)

私が勤務している竜国際キャンパスでは,中高6年間の教育に加えて,中学校では週5時間の英語の授業と週2時間のネイティブ教員による英会話の授業で英語に特化したカリキュラムで語学力向上に取り組んでいます。また,放課後補習を実施し,資格試験対策を強化しています。通常の英語の授業では教科書の内容に加えて,英会話の授業に関連を持たせるように会話練習を行い,連携した授業を行なっています。

中学校から教科書の必修英単語に加え,「キクタン」を使用し週1回の英単語テストを実施することで基本単語力を向上させて,資格試験対策を行っています。中学校で英検3級を最低限の目標とし,準2級の取得を目指して指導に取り組んでいます。過去3年(2019年度~2021年度)を振り返ってみると,合格者のうち約14%を中学が占め,高校では準1級以上は18%を占めています(下記グラフ参照)。

(2)海外研修による更なる英語力向上へ

1978年のオーストラリア/バンバリー校の姉妹校提携にはじまり,中学校3年生の時にオーストラリアへ短期の語学研修に参加することができます。海外に赴き,現地の家庭でホームステイすることで,語学力向上のみならず異文化体験を通して外国への興味関心を高めることができます。生徒の中には,中学校の体験がきっかけで高校では英語コースに入学し,英語力を更に飛躍させて英検準1級やTOEIC800点以上を取得して,推型入試(総合型・学校長推薦型)を利用して難関大学へ合格しています。

3.読解指導について

(1)従来の読解指導について

長文を含む文章の読解指導は,中学校英語に限らず全ての学年で鬼門とされるテーマではないかと思います。いざ文章を解説しようとしても,基本単語の確認や重要構文などを説明するだけで時間いっぱいとなり,内容理解まで行うと時間数や定期試験の範囲の兼ね合いもあってしっかりと掘り下げることが難しい場合もあるのではないでしょうか。たとえ長文が読めたとしても,内容理解の問題などに正解できるまでに精読する力を養うためには大変時間がかかってしまうものです。

(2)読んでから解かない読解指導について

資料1:ハンドアウト例

長文の読解指導について最も重視しなければならないのは,読む前にいかに生徒のスキーマを活性化させるかという点です。とりあえず一旦読んでから問題を解かせる方法では,結果として何回も読み直してしまって,時間がかかり,正解できず達成感を感じられないまま読むのをやめてしまう生徒たちも多く出てきます。文章を読む前に,これから読む文章はどんな内容なのか,何を聞かれているのかなどの情報を先にインプットしておくと,読む速さや内容理解度が格段に向上します。そのためにもハンドアウトには少し工夫をして作成するようにしています。1番のポイントは,本文の内容の前に,内容に関する英問英答を持ってくるとこです(「資料1:ハンドアウト例(中学1年生 unit2-3)」参照)。基本語彙を確認してから内容理解に関する問題を先に見ておくことで,これからどういったところに注意をして本文を読めばよいのかを確認することができるので,本文がより読みやすくなります。問題と本文を前後させるだけのことですが,生徒もいくら先に問題を読むようにといっても先に本文があってはどうしても本文を読んでしまうものです。このわずかな工夫があるだけで先に問題に目を通すこができるので,充実した本文読解をすることができます。Read &Thinkなど文章量が多い場合は,基本単語と英問英答の前に,簡単な図解問題や写真描写などの生徒から広い意見を集める問題で演習を行い,よりイメージスキーマを活性化させてから本文の内容に入るようにしています。より難解な文章や,生徒のレベルによってはいきなり英語から読むのは難しいという場合もあるので,その際はあらかじめ日本語訳を配るようにしています。日本語訳を配るのに抵抗がある先生方もいらっしゃるとは思いますが,優先しないといけないのは,「いかにして生徒が英語の文章を読んで理解することができるのか」なので,日本語訳を先に読むことで本文の内容がより正確に理解できるなら,日本語訳を配る勇気も必要だと思います。

4.生成文法理論に基づく文法指導

(1)文法指導について

近年,学習指導要領が改定され,文法に対する見方が変わりつつあります。難しい文法用語は避けるようにして,会話文の中から文法事項を含む基本文をピックアップする方法がオーソドックスだと思います。文法導入はそのように簡単に拾い上げられるような形がベストだと思いますが,肝心な解説自体も簡素化になってしまっているように感じられます。結果,基本文の確認だけになり,基本的な文法知識や表現技法などが学ばれないままになってしまうケースもあるのではと感じています。今回はそのような文法導入に加えて,生徒の理解をより一層深めるためにも言語学の観点から文法指導について,授業での導入例を挙げて紹介したいと思います。

(2)生成文法理論に基づく文法導入

1950年代ノーム・チョムスキーによって提唱された生成文法理論は,人間が生まれながらに持っているとされる言語を理解する普遍的な言語機能,いわゆる普遍文法に関する言語学の研究分野の一つです。生成文法理論自体は,大学で研究する分野であるため,中学生はなかなか理解することは到底できませんが,その知識を用いた説明を加えることでより一層の理解を深めることができます。今回は,生成文法理論による,構造分析や句構造におけるそれぞれの構成素に関する統語機能を明確に範疇化したものの応用で,通常のSVOの文章に時制要素を取り入れたものを紹介させていただきます。通常三人称単数現在形(以降,三単現と略す)は以下のように導入されます。

英語学習者がはじめて三単現を習う際,今まで習っていた一人称・二人称を主語にとる文との違いに戸惑ったというような声が聞かれます。中には一瞬で文法規則を見抜き,簡単に理解できる生徒もいますが,戸惑っている生徒も少なくありません。原因とも言えるのが,三単現のSと言える存在です。肯定文を作る際,動詞に-sをつけるだけならまだ理解もできそうではありますが,疑問文や否定文を作る際に,doesなるものがいきなり現れ,しかも動詞の-sはとらなければならないとなると途端に思考が停止してしまいます。ここで問題なのは,三単現のSやdoesといったものがどういう存在なのかがきちんと説明されないところにあると私は考えています。このような傾向は英語が得意ではない生徒よりも,英語が得意な生徒に多く見受けられ,きちんと説明されないまま消化不良で英語学習の歩みを止めてしまったという話をよく聞きます。私の授業では,まず基本的な文法事項を導入し,より理解を深めたい生徒向けという形で,以下のように説明を加えます。

④〜⑥では,動詞の部分(ここでは動詞句)に時制要素を加えた[ 時制+動詞原形 ]として表現することがポイントです。生徒には,動詞は実際みんなの目には見えていないけれども,実は,まず[ 時制+動詞原形 ]という形になって,その後に時制要素と動詞が合わさって(併合して)実際の見えている形になると説明をしています。この説明を加えることによって,疑問文や否定文においては,[ do 原形 ]のdoの部分をdoesに変えることでdoesの存在を確認することができます。また英語は語順を重視する傾向が強いため動詞の代わりにdoesが移動したり,動詞の原形自体にnotを合わせることができないため代わりに合わさるなどと,動詞の-sが取れるのはなぜかという問いにも答えることもできます。現在形や過去形などの時制表現にも応用でき,時制要素と動詞原形を分けているので,原形不定詞や助動詞の導入にも応用することができます。厳密に生成文法理論に当てはめて考えると,この動詞句を[ 時制+動詞原形 ]と表現することは若干の疑問点が残るところではありますが,簡素化してイメージしやすくすることを優先して問題はないと思います。

5.今後の展望について

今回,本校の英語教育への取り組み,読解指導や文法導入について紹介させていただきました。特に生徒の読解力の向上については,引き続き修養と研鑽に努めなければならないと思います。文法導入に関しても先生方から色々なご指摘があるかとは思いますが,生徒にとって先生は「英語のプロ」なので,より高度な知識を必要とされます。その意味で幅広い分野に興味関心を持つべきではないでしょうか。グローバル化が進む国際社会において英語教育が変革を求められる中,指導法や言語の重要性について再確認をする機会をいただけて光栄に思います。今後も言語の研究を通して,激動の変革の波を全ての教職員の先生方と共に乗り越えることができればと思います。

【参考文献】