中学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
英語

中学校・英語の授業実践における創意工夫
〜様々な活動を通した自己表現の機会の確保〜

久喜市立鷲宮中学校 B教諭

1.Small Talkのテーマ決定

Small Talkは身近な話題を通して会話を楽しみながら自分自身の考えや気持ちなどを伝え合うことがポイントである。その中での既習表現の反復,相槌表現の活用を通して「話すこと(やりとり)」の能力の向上を図っている。
また,学習内容に「ディベート」が盛り込まれている教科書もある。ディベートは自分の考えを明確に表現すること,相手の考えを理解することの双方が深く関連し,Small Talkで養った力をフルに活用することができると考えた。
しかし,繰り返しディベートを行うとマンネリ化してしまう。また,ディベートのテーマも教員だけで考えるのには限界がある。そのため,生徒からテーマを募集することで,生徒が興味関心を持って活動ができる身近な話題を常に使うことができると考えた。

<事例1> 帯活動:Small Talk(3年生)

既習である「比較」の表現を活用した。ある2つの事柄に対して”Which is better, A or B?”のフレーズを用いて意見を交わしていく。”I think A is better than B.”だけで終わるのでなく,その考えの根拠になる理由も”because”を用いて表現をすることで,自己表現の場を確保した(資料1)。
また,”I agree.” ”I disagree.”の表現を使うことで,聞き手は相手の考えを正確に聞き取り,理解する必要が出てくる。もちろん話し手は,相手が理解できるように明確に表現する必要がある。そういった前提の中,難しい単語や文法を使いこなすことだけが重要でなく,自分たちが学習し慣れ親しんだ表現だけでも十分に自己表現が可能であるということを実感でき,更には普段の授業の有用性も感じることができる。相槌表現や,非言語的表現も指導を行なうことで,更に会話を円滑に進めることができる(資料2)。

資料1:会話の流れを記したスライド

資料2: 相槌表現の一例

最初は教員がテーマを設定し,比較しやすいテーマのもと活動を繰り返し行っていく。生徒が活動に慣れてきたらテーマの設定を生徒に委ねていく(資料3)。
興味関心のあるテーマは人それぞれであり,決まったテーマによってはディベートをするのに知識が十分でない生徒もいるため,活動に移る前にタブレットを用いてテーマについて調べる時間を設けることもある。「知らない」ままで自己表現は不可能なので,少しでも知識を得た状態で活動に入れると良い。将来,自分の知らない分野で会話が展開し,意見を求められることもあるだろう。その際に「知りません」で終わるのでなく,周りの人の考えや会話の流れから,「即興」で自分の考えを少しでも表現することが重要ではないだろうか。そういったトレーニングにもなると,ポジティブに捉えている。

資料3: ディベートで扱うテーマを生徒が入力できるスライド

活動の際には必ず中間指導を行なう。生徒の活動の様子を観察し,「こんな表現を使っていた」「こんな意見が出ていた」などの情報を共有する。また「こんな事を言いたいけれど,うまくできなかった」という生徒の意見は,教員がヒントを与えたり学級全体で表現を考えたりと上手に活用することで,全体のレベルアップにも繋がっていく。やりっぱなしにせず,必ずフィードバックすることが大切である。
更に活動を活性化させる手段として,活動時間を調整することや必ず使う表現を決めることも有効である。
活動時間は,短くすることで自分の考えを短く端的に伝える練習になり,長くすることでそれぞれの考えを元に議論をする練習ができる。既習表現から必須表現を指定することで,どのような場面でその表現が活用できるのか,会話の中で使うにはどのように変化させればよいのか,授業で得た知識を自分の活動の中で活用する力が育成される。

非常に重要な役割を持つSmall Talkであるが,帯活動として繰り返し実施する中で教員の負担になり活動が停滞してしまうこともある。少しの工夫を加えることで教員の負担が減り,生徒の興味関心を喚起できる。また生徒の表現力の向上につながっていくため,このような実践は有効であると考える。

2.データの共同編集

GIGAスクール構想により一人一台のタブレット端末が付与されたことにより,様々なアプリを活用した授業が可能になった。クラウド上でのデータ管理や,課題の配付・回収,共同編集ができることで,学校に来られなくとも授業が行え,協働学習が進められるなどのメリットが多い。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い,自宅で学習する機会が増えた。自分だけで学習を進められる環境が整うことにより「学校」の意義が問われる昨今であるが,「友と学び合う」ことができることが学校の大きな長所であると考える。そこで,データの共同編集は協働学習を行なう上で非常に有効であり,普段の授業がより効率的になる便利な手法である。

<事例2> 単元名:夢の旅行を企画しよう

「夢の旅行」をグループで企画し写真などの視覚資料を活用しながら聞き手にわかりやすく伝える事を目標とした教科書内容において,共同編集を多く用いた活動を行った。

まずは旅行先を決定し,そこで何が楽しめるのかを考えていく。その際にグループでブレーンストーミングを行い,自分の考えを明確にしていく(資料4)。そこで出た意見を元に次の活動に移っていく。
それぞれの項目を分担し,魅力的なプレゼンを作成していく。一人一つの分担にすることで,責任感が生まれ,より積極的に活動に取り組むことができる。更にその過程を共同編集で共有することにより,お互いの進捗状況を把握でき,互いにサポートをしたり,ジグソー法の様に全体のプレゼン像を明確に創り上げていくことができる。このような多くのメリットが有る活動の中で自分の考えがグループ活動にしっかりと反映されることが,自己有用感に繋がっていく(資料5)。

資料4: ICTを活用したブレーンストーミング

資料5: 必要なことをメモしていく

更に発表用スライド作成に関しても共同編集で進めていくことで全体の流れが把握できるため,最終的な確認の時間が省け,グループ練習の時間が短縮できる(資料6)。

資料6: 発表用スライドの作成

単元の最後には作成したスライドを大型提示機に投影してプレゼンテーションを行っていく(資料7)。プレゼンをするのに視覚資料は欠かせないものであるため,ここまでの過程で一貫してデジタルで行なうことが効率的である。何より,自分でまとめたものが学級全体の前で表現できる機会があることが,生徒の英語学習のさらなる意欲喚起に繋がっていくと考える。

資料7:生徒によるプレゼンテーション

3.おわりに

英語はコミュニケーションのツールであり,それを学ぶこと自体が目的ではない。英語を使って自己表現ができることで,将来の活躍の場が大きく広がってくる。そのためには,言語活動において適切な場面設定をし,より効果的に活動を実施していくことが欠かせない。上記の実践を進めていく中で,コミュニケーションの力(聞くこと)が向上していることが直近の学力調査からもうかがえる。多くの英語に触れ,わからないものは調べるという癖をつけ,日常的に英語を用いた自己表現の機会を設けることが,生徒の英語力向上につながると確信している。もちろん,英語は「聞くこと」だけでなく「読むこと」「書くこと」「話すこと」も含めたバランスの良い習得が理想であるため,生徒の英語力向上のために今後も様々な実践を行っていく。