Society5.0,またVUCAの時代を生きていく子供たちが,豊かな人生を切り拓き,持続可能な社会の創り手となるためにはICT活用が不可欠である。ICTを効果的に活用して「指導の個別化」と「学習の個性化」からなる「個別最適な学び」を実現し,多様性と包摂性を高めていかなければならない。現在勤務校では,GIGAスクール構想により整備された一人一台端末環境の活用が始まり,今までと比べると様々なICT活用が進み始めている。一方で,ICT活用が目的化してしまっている傾向もある。このことをふまえ,新たに整備されたICT環境を有効に活用し,すべての子供たちの可能性を引き出す授業の実現のために,私は以下のような実践を行った。
令和3年度時に中学校1年生。7月に行ったアンケートでは,62.9%の生徒が「とても意欲的に授業に取り組む」ことができており,英語が苦手な生徒も一定数いるが,生徒は互いに教え合い,励まし合い,温かい雰囲気をもって授業に向かう姿勢ができている。一方で,ペアやグループでは,間違いを恐れず話しているが,大勢の前で話すことには抵抗を感じている生徒が半数以上いることが意識調査から分かった。
この単元は各学期の英語学習のゴールとして位置づけられている。本単元の1時間目は,場面・状況・目的などの概要を掴むために,英文を読み取る活動を行う。生徒たちは小学校の外国語の授業で,すでに何回か自己紹介の単元を行ってきた。その単元ごとに使うことができた単語や文法事項,また目標や発表方法等は異なっていたであろう。そのため「自己紹介の英文を考えよう」とだけ伝えては,どのような英文を作成すればよいのか悩んでしまい,主体的な活動とならないと考え,目標や目的・場面・状況を適切に明確化した上で授業実践を行った。なお,4時間の授業のうち,2・3時間目は原稿作成,発表練習,原稿修正を行い,4時間目にパフォーマンステストを行った。
【目標】
相手が知りたいと思っている情報や自分の考えなどを整理して自己紹介の英文を作り,聞き手に伝わりやすい工夫をしながら自己紹介動画を作成することができる。
まず初めに,生徒が誰に自己紹介をするのかを伝えた。今単元での設定は「ホームステイ先の家族」への自己紹介とした。他者意識を持たせることで,適切な英文に仕上げられると考え,また発表内容や方法についても,相手からメールが来るという流れにし,各個人で読み取らせて思考・判断・表現させたいというねらいを持った。
各生徒に配布した「ホストファザーからのメール」
各生徒にEメールを電子配布し,書かれている情報を読み取るよう指示を出した。メール内には,”John loves sports.” ”Nancy likes music.”などが書かれており,「どのような内容の自己紹介をすると,ホームステイの際に役に立つだろうか」「2人とすぐに仲良くなるためには,どんな自己紹介をすればよいだろうか」などと発問し,それを英文で表現するよう伝えた。また直接的な質問である”What food do you like?”などもある。円滑なコミュニケーションを図るためにも,これらの答えは英文の中に入れる必要がある。また,ホームステイをするという状況であれば「好きではない」「食べることができない」ものについても触れるとよいであろう。生徒とのやりとり,生徒同士の話し合いで「自分のどんな情報を相手に伝えるか」を考えさせた。
生徒に提示した「場面・状況・目的・他者意識の表」
生徒とのやりとり,生徒同士での話し合いを経て,目的や他者意識等を全体で把握する時間を設けた。こちらは生徒が英文を作成する前に提示したものである。またメール内にもあるが,発表方法についても生徒と共通理解を図った。評価を一本化するために,「①自己紹介ビデオを撮る」は全員の課題とした。また「②オンライン通話を行う」は希望者とホストファザー役のALTが選出した生徒とした。
生徒に提示した「発表方法の表」
パフォーマンステストは,クラス全体の前で行ったり,教員と生徒で1対1で行ったりすることが以前までは多かった。一人一台タブレットが導入されたことで,「動画による提出」の選択肢も得られた。これは,活動を何度も粘り強く挑戦することができる,自分で振り返りながら調整を入れられることなど多くのメリットがある。今回はカメラの先に相手がいることをしっかり意識させることで,リアルの発表に近い雰囲気を出すことができたように感じた。
Google Meetを使ったオンライン通話を行う発表
動画での発表としたことで,全体で発表するよりも生き生きと英語を使うことができた生徒が多いように感じた。また,撮り直しをすることができるので,何度も粘り強く取り組む姿を多くみることができた。また,相互で動画を見る機会を設けることで,自己調整の場になったと感じた。
本来の自己紹介はやりとりで行われることが多い。発表形式②のようなやりとりの時間を確保し,生徒たちが行えるよう指導していく必要があると感じた。
実際に海外にいる方や同年代との交流の場を持つことができたら,よりオーセンティックな活動となると確信している。