洞爺湖町は北海道の南部に位置し,支笏洞爺国立公園の区域内にあり,洞爺湖,有珠山,内浦湾(噴火湾)に囲まれた自然豊かな町である。
虻田中学校は眼下に内浦湾が広がる高台にあり,令和3年度は8学級編制となっている。校区には,令和3年(2021年)7月27日にユネスコの世界遺産に登録された,北海道・北東北の縄文遺跡群の入江貝塚と高砂貝塚がある。
令和3年(2021年)4月から中学校では新学習指導要領が全面実施となった。
また,国のGIGAスクール構想により,本校では令和3年2月から1人1台端末が全校生徒に割り当たり,全学年全教科において様々な活用がなされている。
これらのことと本校の課題を踏まえ,令和3年度の研究主題を「生き生きと学ぶ生徒の育成~主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を通して~」とし,理論研究及び授業研究を通して授業改善に取り組んでいる。
英語科の授業は毎時間,English Room(特別教室)で行っている。生徒は教科書やノートとともに,端末を持ってEnglish Roomでの授業に臨む。
また,年間140時間のうち35時間(毎週1時間程度)は,洞爺湖町ALTとのTTによる授業を全学級で行っている。
本校の校内研究で目指す生徒の姿として,「主体的に学習に取り組む姿」,「自己肯定感にあふれる姿」,「共に学び合う姿」の3つを設定している。その実現に向けて,英語科においては,新学習指導要領の趣旨を踏まえることを第一とし,デジタル教科書の活用の工夫や1人1台端末の有効活用により,生徒の学習意欲を高め,学力向上に資する授業となるよう,研究を推進している。
デジタル教科書を活用した文法事項の導入
デジタル教科書を活用した文法事項の導入
全学年でデジタル教科書を活用している。
教師が生徒にデジタル教科書を提示する例として,新出文法事項の導入や教科書本文の導入の際の活用があげられる。まずは文字を見せずに音声と画像による導入を行い,その後文字を見せるなどの活用を多くの時間に行っている。
また,生徒がデジタル教科書を使用する例としては,端末を使って個別に本文の音読練習をする際には頻繁に活用している。
端末は,「聞くこと」,「読むこと」,「話すこと(やり取り)」,「話すこと(発表)」,「書くこと」の5つの領域全てにおいて,生徒の学習意欲を高めることや学習の定着をねらいとして,様々な場面で活用している。
なかでも,「話すこと(やり取り)」と「話すこと(発表)」の領域における実践と評価での活用には重きをおいている。
例えば,スピーチの様子を各自が動画撮影し,生徒がGoogle Classroomを通じて投稿する。その動画は,教師が評価の際に有効に活用している。
また,Retell(再話)においては,生徒が個人での練習の際の活用はもとより,挿絵や画像を使って第三者に提示する際や,自己評価及び他者評価においても活用している。
英語科では,端末をWarm-upから授業終了まで活用できることが最大の利点であると考える。
1人1台端末の利点を教師側の視点,生徒側の視点でまとめると次のようになる。
【教師】
【生徒】
読み取った内容を自分の言葉で他の人に伝える Retell の活動には,今年度から本格的に取り組んでいる。1学期から継続して取り組んでいるため,生徒は少しずつ慣れてきてはいるものの,相手に分かりやすく伝えることに大きな難しさを抱えている生徒も多い。本来は教科書や英文を見ないで進める活動ではあるが,文字を見ることや読むことに頼ったり,暗記した本文を思い出しながら発表したりする生徒が少なくない。正しい英語を話すことだけにとらわれず,読んだ英文の概要や要点をわかりやすく整理し,キーワードやフレーズを活用させながら再話できるよう指導する必要があり,日々試行錯誤を続けている。
なお,本校の研究における目指す生徒の姿の一つである「共に学び合う姿」の実現をねらいとして,Retellは個人練習のあと,3名(または4名)によるグループ・ワークとしている。
Retellの学習活動の具体
○教師「話の内容を相手に分かりやすく伝えるために,意識すべきポイントは何ですか。
グループ内での発表後,他者評価を行う中で確認してください。」
※デジタル教科書(端末)のメモを活用させる。
※デジタル教科書(端末)を使って,個人練習を行う。
※教師は机間指導を行う。
※発表中に詰まった場合には,グループ内で英文や単語を補うよう,指導する。
※他者評価は「よかった点」と「さらによくするためのアドバイス」の2点とする。
※端末に記入する。(他者評価として聞いたことを含めて自分の発表を振り返る。)
○教師「Retellは,伝え方を工夫することにより,より分かりやすく相手に伝えることができる。」
Retellの様子(2つのグループでの発表と他者評価)
中学校においては,「聞いたり読んだりしたことから把握した内容に基づき,自分で作成したメモなどを活用しながら口頭で要約」することが求められている。「口頭で要約」するためには,情報を収集しながら,整理することが必要である。
「話すこと(発表)」には,「聞くこと」や「読むこと」の技能と関連させる必要がある。
また,他者に対して関心をもつような働きかけのある「発表」の工夫が必要である。
そのため,グループで行うRetellと他者評価は,これらに大きく資するものと考えることができ,今後も工夫・改善しながら継続していく。
新学習指導要領においては,「現在完了進行形」と「仮定法のうち基本的なもの」を扱うこととなっている。
「中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語編」
<現在完了進行形>
<仮定法のうち基本的なもの>
現在完了進行形については,動作の継続を強調したいときに,「ずっと~しています」の意味で使うことを指導し,最終的には生徒自身が考えた英文を書かせ,グループ内で発表させる活動を行う。また,教師は学習を終えた次の時間以降のWarm-upにおいて,「She has been playing the violin for five years. Who is she? 」など,意図的に現在完了進行形の英文を活用した問答を行う。
仮定法については,大きく分けて次の2つを教師が例示した英文を使って練習し,最終的には生徒自身が考えた英文を書かせ,発表させる活動を行う。
*生徒に考えさせる英文は「もしも○○に住んでいたら~できるのに」,「もしもタイムマシンがあったら・・・」などである。
英語科においては,従前からICTを活用した授業を行っているが,デジタル教科書と1人1台端末の導入により,5つの領域全てにおいて有効な活用ができるなど実践の幅が広がっている。今後も,生徒の興味・関心をより高め,指導の効率化や言語活動のさらなる充実につながるよう,有効に活用していきたい。
また,外国語科の目標である「簡単な情報や考えなどを理解したり表現したり伝え合ったりするコミュニケーションを図る資質・能力を育成すること」を目指し,指導方法とともに,ペア・ワークやグループ・ワークなどの学習形態を工夫・改善していく。
文部科学省(2017).『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語編』