本校は,2014年(平成26年)に奈良県初の公立中高一貫教育校として開校し,本年で8年目を迎えた新しい中学校です。併設する青翔高校は,全国初の理数科単科高校として2004年(平成16年)に開校し,2011年(平成23年)に文部科学省より「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」の指定を受け,今年度から,「中高6年で拓くサイエンス・イノベーターへの道~古都奈良からの挑戦~」を研究開発主題としてSSHの3期目がスタートしています。
中高6年間の教育プログラムを通して,サイエンス・イノベーターとして世界で活躍できる理数系グローバル人材を育成することが本校の教育目標の一つであり,その目標を達成するために,英語科では生徒の英語による「発信力」を高めることを大きな柱として授業作りに取り組んできました。本稿では,青翔中学校の開校以来,「発信力の向上」をキーワードに英語科で創ってきた授業や取組の一部を紹介させていただきます。
生徒の英語による発信力を高めるために,本校では,英語の学習をスポーツになぞらえ,①練習,②練習試合,③公式戦という3つのステージで組み立てています。まず,第1のステージは日々の授業です。最も大切なステージであり,毎日の授業を英語学習の練習の場として位置付けています。次に,第2のステージは,週に1回のペースで設けているALTとの英会話の授業で,これは練習試合としての機能を果たしています。最後に,第3のステージとして,パフォーマンステストと実践的な発信活動があり,これらはいわば公式戦です。パフォーマンステストでスピーキングを中心に発信力の伸びを測り,学習成果をチェックするとともに,授業で学んだことを発揮しながら実際に英語を使って海外の人たちとつながったり,外部に英語で発信したりする実践的な英語によるコミュニケーションの場面を設けています。以下で,それぞれのステージでの特徴的な取組について説明します。
授業では,検定教科書(今年度より,中学1年生で“BLUE SKY English Course 1”(啓林館)を使用)を使いながら,英語で発信するために必要な4技能5領域の基礎的スキルを徹底して鍛えることに主眼を置いています。授業時間数も週に5コマあり,通常より1コマ多くなっていますので,時間的な余裕もあり,先取りでどんどん授業をすすめます。
中学1年生と2年生の授業は約20人の少人数で行っていますので,きめ細やかな指導ができています。この環境を生かし,日々の授業の中で,生徒が教員あるいは生徒同士で英語を使ってコミュニケーション活動を行う場面を多く設定しています。例えば,授業のウォームアップの帯活動として,身近なニュースや話題を題材に既習の言語材料を使って教員と英語で話したり,生徒同士でペアになって話しあったりする活動を続けています。また発信力を伸ばすためにICT(電子黒板やタブレットPC)を積極的に活用し,音読活動では生徒がタブレットを活用して自分のレベルに合わせて音読練習を行ったり,授業のトピックについてグループで調べ,調べた内容についてタブレットを使って英語で発表したりするといった活動に取り組んでいます。以下に,以前,中学3年で展開した授業の流れを紹介します。
タブレットPCを使ってペアワークを行います。あらかじめ生徒の共有フォルダーに2枚のパワーポイントのスライドを保存しておき,質問をする生徒は質問用のスライドを,答える生徒は回答用のスライドをそれぞれ開いてやり取りをします。この授業では天気予報の表現を取り扱ったのですが,実際の奈良の週間天気予報を活用するなど,リアル感を演出することを大切にしています。
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簡単なオーラル・イントロダクションをしてから教科書の本文に入ります。
Round1:本文のリスニング→T/F問題に答える
Round2:本文の黙読→Q&A問題に答える
Round3:電子黒板を使いながら本文解説(T/F,Q&Aの答え合わせを含む)
テンポよく各ラウンドをすすめて生徒に内容を理解させるのがポイントです。
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タブレットPCを用いた音読活動を紹介します。あらかじめ3つのパワーポイントのスライドを生徒の共有フォルダーに保存しておき,生徒が自分のペースでできます。
Step1:スラッシュの入った英文のスライドを使って音読
Step2:英文の一部が抜けた虫食い英文のスライドを使って音読
Step3:日本語訳のみのスライドを使って音読
スライド上の音声マークをクリックすると本文の音声が流れるように作っています。生徒はイヤフォンをつけ,自分のペースやレベルに合わせてステップをすすめ,音声を聞きながらリピーティングやシャドーイングなどの形式で音読活動を何度も行います。発信力を高めるために,英語らしい発音やリズム,イントネーションを身に付けさせることがポイントです。
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教科書本文の内容に関するWhat do you think about~?の質問に対する自分の考え・意見をタブレットに打ち込んで提出させます。提出された生徒の英文のいくつかをクラスで共有したり,ペアになってQ&A形式でやり取りをしたりします。即興性のある発信力を高めるために,生徒には間違いを恐れず,どんどん思いついたことを打ち込ませることがポイントです。
3人のALTと共に学ぶ英会話
3人のALTと共に学ぶ英会話
第2のステージは,本校独自のカリキュラムとして取り組んでいる英会話の授業です。この授業は,本校の特徴的な授業の一つで,グローバル人材の育成という教育目標を達成するために大きな役割を果たしています。県教育委員会の支援のもと,本校常駐のALTに加えて,他校から週に1度,ALTが2名来校し,合計3名のALTが英会話の授業をサポートしてくれています。英会話の授業では,生徒を約20人ずつのグループに分け,各グループにALT(1名)と英語科教員(1名)が入ってティームティーチングの体制で指導します。普段の授業で学んだスキルを使いながら様々なトピックについて英語でコミュニケーション活動を行うとともに,発展的な学習内容も盛り込んで授業を組み立てます。
この授業では,英語科教員が作成した授業プランに沿ってALTが授業のほとんどを英語ですすめますので,生徒にとっては,少人数のクラスでネイティブの英語に触れ,ALTと直接英語でコミュニケーションができる大変貴重な時間となっています。英会話の授業は,日頃の授業で培った英語力を,ネイティブ・スピーカーとのコミュニケーション活動の中で試すことができる,いわば絶好の練習試合の場なのです。毎週,少人数でこうしたALTとの練習試合のチャンスがある学習環境は,公立中学校としては大変恵まれていると感じています。英語科教員にとっては,毎週,独自の授業プランを作成してALTと共有しなければなりませんので,負担も大きく大変なのですが,この恵まれた環境を存分に活かし,生徒の英語による発信力をさらに高めることができるように,今後も授業内容の充実に努めたいと考えています。
本校の英語の授業のもう一つの特徴として挙げられるのが,日頃の授業や英会話の授業で身に付けた英語力の伸びを測るためのパフォーマンステストの機会や,実際に学んだ英語を使って海外とつながったり,外部に発信したりする機会など,生徒が実際に英語を使って発信する公式戦の場面を多く設けていることです。
まず,公式戦としてのパフォーマンステストについてですが,英語科で作成したスピーキング(発表・やり取り)の到達目標【PLAN】(本校では“Seisho-CEFR”と呼んでいます),テストに向けて帯学習で取り組むワークシート【DO】,テスト問題と評価用ルーブリック【CHECK】,そして生徒がフィードバックするための評価シート及び自己評価・相互評価【ACTION】を紹介させていただきます。英語科でこの取組を始めたきっかけは,生徒がスピーキングに関する日ごろの学習成果を試し,自分の到達度をチェックする機会をもつことで,スピーキング活動への生徒のモチベーションを高めたい,そして,生徒が即興性のある英語発信力を身に付けてほしいという思いからでした。取組のポイントは,下の図のように,一連の流れがPDCAサイクルになっており,指導と評価の一体化を図っている点,そして,スピーキングテストをProduction(発表)とInteraction(やり取り)に分けて実施し,評価も別々に行う点です。また,生徒が少しでもリアル感をもってスピーキングテストに取り組むことができるように,テストの素材には,生徒の身近な話題や地域とつながりのある題材を選んで作成しています。本校で実際に使用したものを以下にリンクしていますので参考にしていただければ思います。
【資料1:到達目標】,【資料2:ワークシート】,【資料3:テスト】,【資料4:ルーブリック】,
【資料5:評価シート】,【資料6:自己評価】,【資料7:相互評価】
Interactionテストと生徒相互評価
また,英会話の授業においても,毎学期,生徒たちがテスト形式でALTと1対1のコミュニケーションをしたり,ペアやグループでALTにスキットの発表やプレゼンテーションを行ったりする機会を設定しています。数分間の短い時間ですが,生徒はALTと向き合って英語でやり取りを行い,ALTの質問には即興で答えなければなりませんので,生徒たちにとってはドキドキの時間となります。大変な緊張感がありますが,自分の力で乗り切らなければなりませんので,生徒は自分がもっている英語力を総動員してALTとコミュニケーションを図ろうとします。ALTは英語科で作成したルーブリックに従って生徒のパフォーマンスを評価し,良かった点や改善点をコメントしてくれます。このように,生徒全員がネイティブ・スピーカーと対面して,英語で1対1あるいはペア・グループのコミュニケーション活動を行い,ALTがルーブリックを使ってパフォーマンスを評価することで生徒にフィードバックする機会を与えています。
【資料8:ALTによるパフォーマンステスト(スキット発表)及びルーブリック】
ALTと1対1で話すスピーキングテスト
ALTに自作スキットを発表するテスト
第3のステージである公式戦のもう一つの柱として,海外との交流や外部への発信など,教室以外で英語を使って発表したり,コミュニケーションをしたりする場面がたくさん設定されています。本校でこれまでに取り組んできた例をいくつか紹介します。
本校にはタイ国に姉妹校がありますので,その姉妹校の中学生の皆さんとテレビ電話システムを使って定期的に英語で交流しています。交流のテーマは,お互いの学校紹介や地域の紹介,そして,お互いの国で流行っているものなど,生徒にとって身近な話題を取り上げています。また,東京への修学旅行では,海外からの留学生の方々とB&Sプログラムを実施しています。(※現在はコロナ禍のため実施できていません。)生徒は自分たちで作成した研修プランに基づき,留学生と一緒に東京メトロの一日フリーパスを使って班別研修を行います。終了後には,それぞれの班で研修したことや体験したことなどをポスターにまとめ,英語でプレゼンテーションをして参加している留学生も含めて全員で情報共有します。
このように,英語を外国語として学ぶ同世代の異国の仲間と直接英語でコミュニケーションをしたり,日本で学ぶ留学生と英語漬けの一日を過ごしたりする機会があることは,生徒にとって英語学習への大きなモチベーションとなっています。
タイ国姉妹校とのオンライン交流
B&Sプログラムで留学生と班別研修
生徒作成のWebページ
生徒作成のWebページ
学校生活の様々な場面を使って生徒が英語で外部に発信することにチャレンジしています。例えば,本校のWebページには英語の学校紹介サイトがあるのですが,これは生徒がSAW(“Seisho à la carte Workshop”の略で,希望者生徒を対象にした本校独自の長期休業中の特別講座)の時間に作成したものです。タイ国の姉妹校の生徒や先生方はもちろん,海外の人たちに向けて発信したい青翔中学の情報や学校周辺の様子について生徒がアイディアを出し合い,自分たちの力で英語サイトを完成させました。
また,文化祭で地元の御所市や奈良県内に伝わる昔話を英語の紙芝居にして発表したり,英語劇の形で発表したりすることで,日本の伝統文化を英語で発信することにもチャレンジしました。文化祭で発表するだけでなく,修学旅行で東京に行った際に,東京外国語大学を訪問して海外からの留学生の皆さんに英語劇を披露し,奈良の昔話を留学生の方々に英語で楽しんでもらいました。東京外国語大学で披露した英語劇の題材は『わらしべ長者』で,奈良県桜井市の長谷寺を舞台とした有名な昔話です。地域に伝わる素敵な昔話を掘り起こし,フィールドワークなども加えながら生徒と一緒に素材を英語紙芝居や英語劇に仕上げていく作業は大変なのですが,地域の魅力を発見しつつ実践的な英語の学習ができるだけでなく,成果物が完成し,発表後の達成感も大きいのでオススメです。
文化祭で英語紙芝居の発表
東京外大で英語劇の発表
最後に紹介するのが,地元の御所市観光課の協力を得て御所市の魅力を世界に発信しようというプロジェクト『GO SEKAI Project GOSE’s Charm~A Guide for International Visitors~ 御所の魅力を世界に発信!』で作成した御所市観光スポットの英語サイトです。文字情報による観光案内に加えて,生徒が各スポットの魅力について英語でオリジナルスキットを作成し,音声
生徒作成の観光スポットサイト
情報と画像を組み合わせて動画仕立てにした英語サイトです。完成した際には,御所市観光課の方をお招きして一緒に動画を見ていただきました。本校は県立中学校であり,生徒は奈良県全域から通学していますので,学校がある御所市のことをあまり知らない生徒もいます。生徒にとっては6年間学ぶ御所市の魅力をたくさん知ることができ,かつ,御所市の方々にも喜んでいただくことができ,生徒の達成感も大きいものでした。このように,地域の伝統文化や魅力を英語で発信することは,地域貢献や郷土愛を深めつつ,生徒の英語発信力を高めることができる効果的な指導の一つではないかと思いますので参考にしていただければ幸いです。
最後に紹介するのが,地元の御所市観光課の協力を得て御所市の魅力を世界に発信しようというプロジェクト『GO SEKAI Project GOSE’s Charm~A Guide for International Visitors~ 御所の魅力を世界に発信!』で作成した御所市観光スポットの英語サイトです。文字情報による観光案内に加えて,生徒が各スポットの魅力について英語でオリジナルスキットを作成し,音声情報と画像を組み合わせて動画仕立てにした英語サイトです。完成した際には,御所市観光課の方をお招きして一緒に動画を見ていただきました。本校は県立中学校であり,生徒は奈良県全域から通学していますので,学校がある御所市のことをあまり知らない生徒もいます。生徒にとっては6年間学ぶ御所市の魅力をたくさん知ることができ,かつ,御所市の方々にも喜んでいただくことができ,生徒の達成感も大きいものでした。このように,地域の伝統文化や魅力を英語で発信することは,地域貢献や郷土愛を深めつつ,生徒の英語発信力を高めることができる効果的な指導の一つではないかと思いますので参考にしていただければ幸いです。
生徒作成の観光スポットサイト
本校は県立中学校であり,大変恵まれた環境の中で授業をはじめとする教育活動を展開することができています。今後もこうした環境を最大限に活かしながら,日々の授業を柱に据え,英会話の授業や教室外での英語を使った諸活動を通して,生徒の英語発信力を一歩一歩着実に伸ばしていきたいと考えています。残念ながら,コロナ禍の影響で,海外の人々との交流をはじめ,実施できなくなっている活動もあり,公式戦の場が少し減ってしまっていますが,オンライン等で代替できる形を模索しながらすすめているところです。
表1
向上した項目 | 本校 | 全国平均 |
---|---|---|
英語による表現力 | 62.1% | 38.5% |
国際性(国際感覚) | 57.2% | 37.0% |
また,嬉しいことに,卒業生を対象に実施した令和2年度SSH意識調査では,「興味・姿勢・能力」が向上した項目として,「英語による表現力」「国際性(国際感覚)」を挙げた卒業生の割合が全国平均と比べて非常に高いという結果(表1参照)となりました。授業の準備,テストや活動の段取り等で大変なことも多いのですが,日々の授業をベースとして練習試合や公式戦の機会をたっぷり設け,生徒にどんどん発信させる活動を中高の6年間継続して取り組んできたことが一定の成果をあげていること,そして,私たちのねらいが生徒にしっかり伝わっていることを確認することができ嬉しく感じました。目の前の生徒の中から,将来,英語を使ってグローバルに活躍する人材が出てくることを思い描きながら,そして,すべての生徒が英語を必要とする場面で自信をもって自分の思いや考えを英語で発信し,英語でコミュニケーションをとることができるように,今後も微力ではありますが取組の改善に努めていきたいと思っています。最後に,このようなかたちで,開校以来の本校の取組を振り返る貴重な機会を与えていただきましたことに,心から感謝申し上げます。
表1
向上した項目 | 本校 | 全国平均 |
---|---|---|
英語による表現力 | 62.1% | 38.5% |
国際性(国際感覚) | 57.2% | 37.0% |