政府が打ち出したGIGAスクール構想に先立ち,私の勤務する市では,古くなった教育用コンピュータの更新と校内のWi-Fi整備が行われました。私たち教員はこれを機に,これからやってくる生徒1人1台時代のために,学校ではコンピュータを使ってどんな学びができるのかを模索しています。
新学習指導要領では,「主体的・対話的で深い学び」の必要性がうたわれています。そこで,英語の授業の中でも,こうした学びにつなげるために,協働的な学習の場面を設けられないか考えてきましたが,ICTの活用に,その1つの可能性を感じています。今回はロイロノート・スクールを活用した実践を紹介します。
教科書本文の読解に当てる時間は,各単元で必ずあると思います。英語教師は様々な工夫をしながら,読解の指導に取り組んでいますが,その1例として「オーラルイントロダクション→音読→(ICTを活用した)教科書を使ったアウトプット活動」という流れの授業を紹介します。
【オーラルイントロダクション】
ピクチャーカードを使い,生徒と教師がインタラクションを図りながら,本文の内容を確認していきます。日本語を介さず,英語のみで内容を理解させるには,教師の教材研究は欠かせません。私が実践しているのは主に以下の方法です。
新学習指導要領では,授業は英語で行うことを基本とすることが新たに規定されました。教科書本文の読解はまさにその実践に適した場面です。また,後述する活動にも生かされる絶好のInputの場面でもあります。ここで,生徒がわかるレベルとその少し上のレベルの英語を織り交ぜてシャワーを浴びせることが,英語理解の力を養い,その後のOutputにも役立ちます。
私の場合は,新出文法事項などは前の時間までに導入をし,読解の場面では,導入時に活用したワークシートや解説を見直すような形で簡単に確認をし,文法指導には重きを置かないでオーラルイントロダクションを行います。
【音読】
英語の音やリズム,連結・脱落等の音変化を身に付けるためにも,また,理解して活用できる英語を増やすためにも,音読は大切で,外国語学習には必要不可欠な活動だと言えます。音読の方法は様々なものが紹介されており,私も以下のような方法を取り入れています。
これらの方法を織り交ぜながら,ワンパターンにならないようにして音読に取り組ませています。音声教材(CDやデジタル教科書)を使った練習は必ず何度も行い,Shadowingで発音やスピードを意識して読むことができることをゴールと考えています。大切なのは,変化をつけながら何度も繰り返すこと,そして内容を理解したうえで音読することです。さらに音読テストとして,1人1台コンピュータを使い,音声を録音して提出することもできます。1人ずつ発表させるのは時間がかかりすぎますが,ICTを活用することで,時間をかけずに1人1人の音読を確認できますし,そのために生徒が繰り返し練習をすることも期待できます。
【教科書を使ったアウトプット活動】
教科書本文の読解は,どうやってゴールを定めればよいのか,どうなったら生徒が理解したとなるのかなど,悩むところがあります。日本語に訳すことがゴールなのか,T-Fクイズや英問英答に答えることができればよいのか,そしてそれらができるようになるために,どのような活動や指導をしていけばよいのか,答えは1つではありませんので,様々なアプローチが必要になります。
私はロイロノート・スクールを使って,次のようなアウトプット活動(要約・Retelling・英問英答)を行ってみました。
①の活動は,場面に適したタイトルをつけようとして,何度も教科書を読み返す様子が見られます。教科書の文をそのまま抜き出すのではなく,新聞やインターネット記事の見出しのように短く,または修飾語を含めた名詞(句)で書くように指示すると難易度が上がり,生徒の工夫が見られるようになります。また,既習事項を活用させるのはもちろんですが,辞書があるとボキャブラリーを増やすよいチャンスにもなります。
全グループが提出した後は,クラス全体で作品を見て,フィードバックの時間とします。間違いを直すだけではなく,各グループの工夫をお互いに見ることで刺激を受け,次はもっとよい作品を作りたい,ユーモアを交えた面白い作品を作ってみたい,などのモチベーションにもつながります。
グループで協働する場面,主体的・対話的で深い学びにつなげる場面として有効だと感じています。
②の活動でも,生徒は何度も教科書を読み返します。条件として「教科書本文をそのまま使うのではなく,少しでもアレンジするように」と指示を出しました。教師が行うオーラルイントロダクションはよい手本となり,教師がシンプルな英文を使って紹介したのを覚えている生徒は,自分が録音する英文も,シンプルでわかりやすいものにしようとします。
辞書の使用は認めますが,単語レベルではなく英文を作ることになるので,机間指導中は辞書を使っている生徒に声をかけ,言いたい内容を可能な限り既習事項に結び付けさせます。既習事項の復習をすることで,ここでも教科書を読み返す機会となります。教科書を音読して終わりにせず,読み返したり,言いたい表現を探したりするのに教科書を何度も活用することで,より深い定着(長期記憶)につなげられるのではないでしょうか。
この活動は,録音をして提出させることにより,フィードバックをし,形成的評価に活用することができます。また,この活動に多くの時間を使うことができる際には,クラス全体で聞くことで相互評価に活用することなども考えられます。
③の活動は,ペアかグループで行うことで全員が取り組める活動になります。グループで行うのであれば,時間や難易度などを考慮し,1人1枚のピクチャーカードだけを担当させることもありますし,1人で1ページ全部を説明させることもあります。さらにクラス全体の前でスクリーンを使って発表することで,話すこと(発表)の活動にもなります。
この①~③の活動は,教科書1ページ分で行うことを想定しましたが,単元のまとめとして全ページのピクチャーカードから自分たちで選択させて行うこともできます。また,難易度は高いですが,対話文が扱われているページを使って,直接話法と間接話法の両方で説明させるなど,様々な学習や指導のバリエーションを広げることができます。
④の英問英答は,教科書の内容で答えられる質問だけでなく,本文の内容に関連させて,「あなたはどう思うか」「あなたならどうか(どうするか)」「どんな気持ちだったのだろうか」などのような,答えが定まっていない質問,答えが1つではない質問(referential question)を織り交ぜます。答え方という形式だけでなく,英語を使った意味のあるやり取り,つまり本物のコミュニケーションにもつながることが期待できる活動となります。
このような,自分の考えを伝え,みんなで共有する場面を設定すると,ロイロノート・スクールはより力を発揮し,私たち教師も積極的にICTを活用するようになるのではないでしょうか。
今まで日本の学校では,黒板とチョーク,紙と鉛筆を使った授業が展開されてきて,多くの成果を残してきました。しかし,教科書増量や個別最適化された学習などに対応するためにもICTを活用した学びを取り入れていく必要があります。まずは自分の置かれた環境でできることから始め,生徒にとって効果のある方法を試行錯誤していくことが,私たち教員の課題と言えるのではないでしょうか。