現行の中学校学習指導要領では中学3年間で学ぶ英単語として1,600~1,800語を目安としています。前回の学習指導要領と比べると,400~600語増加していることになります。私は数年前に初めて現行の教科書を見た時,各レッスンの新出単語の量に大変驚きました。同じようにその量に驚かれた先生も多いのではないでしょうか。また,これらの新出単語の授業での扱い方に悩まされている先生も多いはずだと思います。加えて,学習する単語数は増加しましたが,授業時間数は週4時間と前回の学習指導要領から変化していません。このような背景から,改めて新出単語の教え方を検討する必要があります。
例えば,その日に進むレッスンの新出単語を一つ一つ授業内で説明することはどうでしょうか。日本語の意味を教えて,次に発音を教えて,アクセントも…となるとかなり時間が必要になります。また,すべての新出単語を同じ時間をかけて指導する必要があるのでしょうか?ある教科書のページに,sprint(短距離走)とafter(~のあと)という語が新出単語としてありました。生徒たちのこれからの英語学習において,afterのほうが出会う頻度が高いことは明確でしょう。また,新出単語を一つ一つ説明することは生徒にとってどうでしょうか。もちろん,丁寧に説明し生徒に理解させることは大切なことです。しかし,教師の説明が長くなればなるほど生徒は退屈に感じるのではないでしょうか。また,毎回単語の日本語訳を与えられてばかりでは,自立した英語学習者を育てることはできません。
今回は,限られた授業数の中で,(1)新出単語を効率よく授業内で扱っていくための理論,(2)生徒が主体的に新出単語を学べる具体的な方法について考えていきたいと思います。
まず,最初にすることは,授業で扱う新出単語を,高頻出語(High frequency words),低頻出語(Low frequency words)に分けることです。Nation (2013)は,標準的なテキストでは約80%以上,日常会話では約90%以上が高頻出の2,000語族でカバーされており,高頻出の3,000語族では,標準的なテキストの94~95%はカバーすることができていると述べています。また,佐藤・笠原(2022)は,日本の中高生という文脈を考慮すると,およそ高頻出の3,000語族を学校で扱うべきコミュニケーションで繰り返し活躍する高頻出語とし,特に2,000語を発表語彙にするべきと述べています。これらを踏まえて,私は中学校段階ということも考慮して,授業では高頻出の2,000語を授業で重点的に扱う語とし,その中でも高頻出の1,000語族を使えるようになる語として指導をしています。ここで,「使える」とはその単語の「日本語の意味が分かる」,「正しい発音が分かる」,「スペルを書くことができる」・「正しく発音することができる」という状態を指します。
現在コーパス等を活用した,頻出度をベースとした様々な語彙リストが存在します。私は日本人のために作られているJACET8000を活用しています。例えば,中学1年生の教科書のあるページの英文では,choose, own, class, different, carry, schedule, fluteという新出単語が登場するとします。これらの単語をJACET8000で確認すると,choose (598番),own (126番),class (340番),different (158番),carry (274番), schedule (1825番),flute (7009番)という頻出度になります。これらの単語では,choose, own, class, different, carryはschedule, fluteよりもよく使われるということが分かりますので,先の5つの単語により時間をかけて教える必要があります。
どの単語を優先的に教えるかを決めると,それぞれの新出単語を3つの導入方法に分けていきます。それぞれ見ていきましょう。
① 前後の文脈から推測させる(高頻出語,特に高頻出1,000語族)
新出単語の中でも,高頻出語は重要になります。ここでは,その英単語を含む意味のある英文を用意し,生徒たちに英単語の意味を推測させます。スライドで英文や写真を見せて,生徒と英語でやり取りをしながら導入していきます。今回は,chooseとdifferentをこの方法で導入します。例えば,chooseという単語では,次のようなスライドを準備します。
ちょうどこの時期は体育大会の直前で,生徒たちは学級旗作りに励んでいるところでした。
このように,やり取りをして生徒たちに意味を推測させます。
また,differentという単語では,次のようなやり取りが考えられます。生徒たちはsameが既習単語です。
このように口頭で生徒と英語でやり取りをしながら,文脈を与えて,単語の意味を推測・理解させるように促します。単に日本語での英単語の解説を聞いている時よりも,生徒たちは理解しよう,推測しようと必死に話を聞きます。また,英語で導入し,やり取りも行うので,リスニング・スピーキング力も鍛えることができます。
② 音声から意味を推測させる(高頻出語,低頻出語の両方)
次に新出単語の発音に注目します。私たちの日常はたくさんの外来語で溢れています。街に出ると,「チケット」「カメラ」「トラベル」などの英語からの借用語を目にする機会がたくさんあると思います。ここでは日常生活でもなじみのある借用語を活用します。今回の新出単語では,class, carry, schedule, fluteは借用語に当てはまります。生徒たちには「一度ローマ字読みでもいいから,発音してみて」と伝えて,発音させます。例えば,classは「英語のクラス,クラスメイト,クラスルーム」など,授業や教室という意味が推測されます。また,carryは「キャリーバック,キャーリーケース」でなじみがあると思います。このように発音から意味を推測するように促します。
ただし,生徒がローマ字読みで発音を覚えないように注意する必要があります。意味をチェックした後は,必ず正しい発音を確認しています。
③ 日本語訳を注釈に(特に低頻出語や導入しにくい単語)
最後の導入方法は,シンプルに日本語訳を伝えます。特に,低頻出語や高頻出語ではあるが導入しにくい単語(抽象的な単語など)を導入する際に使います。何でも英語を使って,生徒に推測させて単語を導入すると,かえって分かりにくく混乱を招く可能性があります。ここでは,ownという単語の日本語訳をリーディングワークシートの語注の欄に載せています。
教科書の本文を扱う際は,①~③の新出単語の導入を踏まえたワークシートを作成して生徒に配布しています。Word Quiz 1(文脈から推測)・2(発音から推測)に取り組んだ後は,左の本文を見ない状態で英文を聞き,内容理解の問題(Listening Activity)を解きます。その後は,本文を読みながら,内容理解の問題(Reading Activity)を解きます。そして,最後に新出単語をまとめたワードリストを配布します。
私が初めて中学校の教壇に立った時は,周りの同僚の先生や自分の学生時代の先生の指導法を真似て,生徒が本文を読んだり,聞いたりする前に,すべての新出単語を一つずつ丁寧に解説していました。その分時間もかかりましたし,退屈そうにしている生徒もいました。また,生徒が本文を理解できるように,先に単語を丁寧に解説することを最優先事項と考えていました。しかし,最終的には生徒が自力で英語を聞いたり,読んだりできるように指導していく必要があります。そのためにも,高頻出語に時間をかけて指導し,文脈や発音から意味を推測する力を身に付けさせたいと思っています。また,生徒との英語でのやり取りを入れることで,よりコミュニカティブな指導を進めることができます。語彙指導で悩まれている先生は,一度活用してみてください。