私の実践・私の工夫(生活)
児童・保護者に生かす 生活科の授業の工夫
~感性を養うことを大切にして~
1.はじめに
生活科の魅力
子ども中心,子ども目線の教科である。自立への基礎を目指す。子どもは幼いときに自分自身 の中に内なる世界を築いておく必要があり,それが自立につながる。子どもにとっての本当の「黒衣」の役は自分自身である。自分を生かすには,自分の中の得意なところやよさ・努力が自然に作用していて,うまくいっていると黒衣を忘れるものかもしれない。教師の役割はこの黒衣をより豊かにさせることである。それができる教科が生活科である。自分の思いから始まる体験を通し,経験の中での対象への気付きと共に,そこから自分自身の「黒衣」に気付く。また,生活科の学習は生活圏内で展開されるので,児童だけでなく保護者にもよい学びとなることができる。
2.実践
(1) 単元名 「みんな みんな だいすきだよ」(第1学年7月~10月)
(2) 単元について
この単元は,「いちねんせいになったよ」の単元で,児童が学校のことを知り,また学校の多くの人に支えられていることに気付き,学校に慣れてきたことと同じで,自分たちは基盤となる家庭で大切に育てられているから生活できることに目と耳と心を向けることから始まる。
常時的なことなのでそれに気付かず過ごしていることも少なくない。「大好き」「ありがとう」「一緒に~しようね」とさらに温かい気持ちで過ごす手立てとなる単元である。学校でできるようになったことを伝えたり,家族のありがたさに気付き,自分なりにできることを見つけ,実践してみたりすることが大切である。そうすると自信をもち,さらに家族愛が深まることが期待される。
入学という大きな時期をいかになめらかで楽しいものにするかが1年生担任の大きな課題であると考える。そのためには,児童だけでなく,保護者も「学校は楽しい,子どもの成長を見るのは楽しい」と思えたらどんなにいいだろう。児童と保護者が一体となって学習が進められる構想を練ることができるのが本単元である。
児童だけでなくその家族の学びともなるので,細かい点にまで目を向け,児童の感性を養うことと保護者の実生活に生かすという二つの視点から単元の構想を考えた。
感性を養う
● 家庭・家族は,身近だからこそ,そのよさに気付くことは難しいかもしれない。しかし,あまりにも身近だからこそ大切なのである。家族に目を向け,感謝の気持ちを抱くことは自分自身をじっくり理解する機会でもある。また,自分を高めていく機会にもなる。規則正しく健康に気を付けて生活することにもつながる。家庭への連絡をこまめに取り,話合いや実践を丁寧に進めていくようにした。
● 家庭は,構成員や習慣に独自性がある。どの家庭でも家族の温かさや家族の役割があることに気付くよう,個に応じた支援を心がけた。
● 家庭での実践のとき,児童がやりたいことと保護者がやってほしいと願うことのずれもあることが考えられる。家庭で実施する内容を決めるときは,児童の思いを生かせるように相談して決めるようにお願いの通知を出すようにした。
保護者の実生活に生かす
● 本単元は,学校でも家庭でも活動できるよさがある。自分の思いで活動したいことが,すぐそして継続的に実践することができる。保護者もある視点をもって子どもに接することで,子どもの新たな一面やよさに気付いたり,子どもと向き合う楽しさ・大変さを感じたり,小学生になった成長を手にとって感じたり,家族で協力する大切さを改めて感じたりすることができるようになる。親としても子どもの成長を喜ぶことができる。ふだんの生活と異なる夏休みという期間を経験すると,またいちだんと子どもがたくましくなる。4~7月にだんだん学校に慣れ,自信がつく。夏休み前の授業参観で単元導入の授業を行い,保護者会で学習の趣旨や内容を直接話した。さらに夏休みの課題の説明を保護者に手紙を通して通知を出し,協力をお願いした。保護者がこの目的につながる子どもの見方をもつことも期待した。
● この時期の子どもたちは家庭に依存していることが多い。保護者も子どもが小学生になったことを自覚し,任せられることを具体的に考え,実践させることで幼児期と接し方を少し変えることにはっきりと気付く場となると考えた。
● プライバシーに配慮しながら,学年便りやホームページ等を通して学習の様子を伝えていく。
(3) 活動の実際
時 | 小単元名 | ねらい | 活動 | 使う物 |
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17月 | いえのみんながたすけあっているよ | 家族がしていることを思い出す。(全体) | 家族がしている仕事を見付け,それを図や表に書く。 | ウェビング図,円グラフ |
27月 | 〃(家族紹介カード) | 家族と一緒にした仕事や遊び・手伝いなどを思い起こして絵や文章にする。 | カード | |
39月 | わたしもできるようになりたいな | 家族っていいな,もっとよくしたいなと考える。 | 家庭でした今までのことを振り返り,家族に手紙を書き「ありがとう」「だいすき」の気持ちを表出する。 | 夏休みの一言日記,絵日記,いえでこんなことしたよかあど,手紙の便箋 |
49月 | 家庭で,自分が出来ることを見付け,やってみる計画を立てる。 | チャレンジする計画を立てる。 | カード | |
59月 | 友達と紹介し合って練習する。 | 実践する。(2時間かかる場合もある。) | 家庭科室 食器,洗濯物干し,上履き,洗面器,ブラシ,雑巾など |
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610月 | わたしにできることあるかな | 前時の自分・友達の様子から家庭で実践することを決める。 ピンク・・・自立活動 黄緑・・・手伝い・仕事 黄色・・・団らん |
保護者と相談して決める。 | 保護者向け通知 かぞくにこにこたいむのカード |
710月 | (中間発表) 友達にアドバイスをもらったり,励ましを受けたりする。 |
各家庭で約1週間実践。 保護者に児童向けの手紙を書いていただく。 紹介し合う準備をする。 ・ポスター・模造紙・実践 ・写真 ・紙芝居など |
保護者向け通知 便箋・封筒 |
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810月 | いえでちょうせんしたことをしょうかいしよう | 友達と紹介し合う中で,してみたいことを見付けたり,自分や友達の良いところに気付いたりする。 | 同じコース内で紹介し合う。 ・ポスター・模造紙・実践 ・写真 ・紙芝居など |
家庭科室 食器,洗濯物干し,上履き,洗面器,ブラシ,雑巾など |
910月 | 〃 | 自分と違うコースの友達と紹介し合う。 ・ポスター・模造紙・実践 ・写真 ・紙芝居など |
〃家族からの手紙 | |
1010月 | いえのみんながだいすきだよ | 自分の家庭生活を振り返る。 友達に教えてもらったことを家族のために進んで取り組もうとする。 |
これからも継続的に出来ることを見付け,実践しようとする。 ふれあう機会多く ↓ 楽しさ・よさに気付く。 ↓ 互いに支え合っていると分かる。 |
3.成果と課題
◇ 成果
・ 教師がどう教材と向き合うかで児童の学びが変わる。この単元では,教育の大切さ(生きるために,人のために,自分のことは自分でなど)をどう家庭に伝えていくかを深めて考えられた。
・ 家族がいい影響を受けられる単元であった。学校と家庭でのやりとりが,関心を引き,お互いに成長できた。
・ 家族のふれあいの時間ができた。家族の意識付けや関心を引く仕掛けがあったので,家族の絆が深まったり,いつもと違った子どもの一面を見ることができたり,家族が子育てを楽しいと実感できたりした。
・ 児童が家庭で実践したことを伝え合う場があり,児童の自信につながった。
◆ 課題
・ 子どもも大人もケアし合いたい。じっくり・ゆっくり生活できたら自尊感情が高まり,他者も大切にできる。学びも深まる。自身で実感した学びが身に付く。保護者が元気であれば子どもも元気になれる。よさを伝え合い,大変さを分かち合い,子どもに対して頑張っている自分をほめてあげることなどを伝える。
・ 生活科の力を発揮する。子どもの思いにより,子どもと共に授業を創る。この学びのスタイルが,学びを深め,学力を定着させ,生きる力を育む。