授業実践記録(英語)
デジタル教科書を使用した音読指導の工夫
はじめに
本論の目的は,LANDMARK Ⅱのデジタル教科書*を活用して,音読指導,特にassimilationの改善を試みた授業実践を明らかにすることである。(*平成26年度発刊版)
1.デジタル教科書を立ち上げる
iPadを使って,デジタル教科書を立ち上げる手順を下記に示す。
- (1)iPadを教室設置のプロジェクターにつなげる
- (2)デジタル教科書のページからログインする
- (3)デジタル教科書が使用可能になる
- (4)サムネイルから該当のページを開く
- (5)該当ページのTabボタンを押して,テキスト画面を開く
- (6)音読ツールを立ち上げ,該当のLesson,partを開く
ちなみに,本校の各教室にはプロジェクターがすでに設置してあるので,プロジェクター,スピーカーを持参する必要はない。iPadとWiFiモバイルルーター,プロジェクターとiPadをつなぐケーブルを持参し,それらをつなげばICT環境が整う。
例えば,p.93のLesson 7 Letters from a Battlefieldの part1 から始めるとする。web上の左側にある「サムネイル」からP92-93をタップすれば,あたかも教科書を開けたような画面になり,92,93ページが現れる。そこで,赤く表示されている「Tab」を押すと,写真などがない純粋な教科書の文章のみが現れる。 さらに,その画面上の右下に赤く表示されている「音読ツール」を立ち上げて,準備完了である。
2.音読指導
導入時には必ずshadowingを行っている。手順を下記に示す。
- (1)Tab画面で,再生ボタンを押し,1パラグラフ分のモデル音声を再生して「聞く」
- (2)先生が,その本文を意図的にゆっくりと読む
- (3)(1),(2)の音声を「聞き」ながら,生徒は読めない箇所に自分独自のルビを振る
- (4)(1)の画面を映してモデル音声を「聞き」ながら,プロジェクター上の本文を「読む」(shadowingする)
- (5)生徒同士でshadowingする(「聞き」ながら「読む」)
例えば,p.93のLesson 7 Letters from a Battlefieldの part1において,最初にモデル音声を流す。もちろん,生徒は初めて見る単語は読めないので,この音声を頼りに生徒自身のルビを振るようにしている。特に,ここにおいて,積極的には援助しないようにしている。例えば,スペルどおりにカタカナを振ると,かえって米語らしい発音を見失う時があるからである。従って,生徒は多種多様に,聞こえたままにルビを振っている。
(2)では,モデル音声よりもゆっくり読む。特に綴りが長い単語はアクセントの位置を指摘しながら読む。同時にassimilationしている場所を特にゆっくりと,かつ音声に忠実に近くなるように発音している。例えば,p. 93には,冒頭に次の文がある。
- (6)You will need to prepare a small foot warmer or a hot-water bottle to warm yourself(以下省略,番号と下線は筆者による)
(6)の文の下線部分にassimilationが起きている。従って,「オア ア」というよりはむしろ「オアラ」に近い音で,かつ生徒が聞こえたようにルビを振っている。そして,(3)において,モデル音声を再び聞くことにより,そのルビと実際の音声のずれを修正し,(4)・(5)で繰り返し「話し」たり「聞い」たりするのである。(5)では,二人一組にして,ある生徒は教科書を「読み」,その相手は教科書を閉じて,生徒の声を「聞き」ながら「読む」あるいは「話す」活動で,一連の音読活動は終わる。
3.具体的な活用方法
3.1.Tabを使用しているとき
Tabを使用しているときには,状況に応じて,次のようにしている。
- (7)「スラッシュ」ボタンを使う
- (8)「マスキング」ボタンを使う
「スラッシュ」を使用すると,本文上にスラッシュが表示され,長い文が分割されるために,生徒には理解しやすくなる。常にスラッシュを表示させること,あるいは消すことが可能なので,比較的短い文章の場合は,スラッシュを消して表示することもある。
「マスキング」は,狙った単語を消して,本文を表示することができる。従って,書き取らせたい単語を意図的に消して,「聞く」作業をする。あるいは,assimilationしている語を消して,どんな単語か注目して聞くことが可能になる。例えば,(6)において,"or"のみを消す,"a"のみを消す,または,"or a"を丸ごと消して,「書く」ことができるかどうか,つまり「聞く」ことができているかどうかを確認することができる。
3.2.音読ツールを使用しているとき
1で述べたように,Tab画面では純粋な教科書本文のみ(写真などの情報を除く)が提示されている。従って,長い文の場合は,「スラッシュ」を表示させたとしても,直感的にはわかりにくい状態で映る。そのような場合は音読ツールの画面に移行する。
音読ツールでは,様々な表示方法はあるが,基本的に画面の左側にスラッシュで分割された英文,右側に日本語が提示される。例えば,(6)は下記のように提示される。
- (9)You will need to prepare a small foot warmer /
or a hot-water bottle /
to warm yourself / (以下省略,番号と下線は筆者による)
(9)において,特に下線部分の聞き取り(書き取り)は,正確に書き取れる生徒が極めて少数だった。通常の音声CDを使うと,このphraseのみを狙って繰り返し再生することは極めて困難である。しかしながら,音読ツールの場合,狙ったphraseを繰り返し再生することが極めて容易にできる。それゆえに,2で述べた音声の確認もこの音読ツールを用いると,聞いた音と音声のずれを修正するのに非常に有益になる。
4.assimilationを理解するために
筆者自身の経験として,「聞く」活動中に,assimilationを含んだ文を聞くと,適切な単語群を認識できなかったり,あるいはそれらが何であるか理解するのに時間が非常にかかり,とても苦労した。それゆえに,様々な方法で改善に取り組んできた。その中で,先に述べたような取り組みは,教室内で有効に機能している。つまり,
- (10)assimilationされた音声を「聞く」→その音声を「話す」→これを繰り返す
この作業を教室内外問わず,繰り返すことで,assimilationされた表現を聞き取る力が向上した。実際,生徒たちの音声も,カタカナの音声というよりはむしろ,教科書の音声,つまり米語のnative speakerに近づいている生徒が増えている。
5.おわりに
確かに,教科書を読むときにはnative speakerの音声に近づいている生徒は増えてきている。しかしながら,プレゼンテーションのような,自分自身の手で作り出した英文を読んだり,話したりするときには,カタカナ語のように元に戻ってしまった生徒がいた。それゆえに,自分の言葉で話すときにどのようなアプローチが有効になるのか,今後の課題になる。
実際に「話す」ときは,定型文でやり取りするものではない。自分自身の言葉で考えて,話すのである。その時にカタカナ語で話すのでは,さらなる工夫が必要である。従って,自分自身の言葉で話しているときに,native speakerに近づけるような指導方法が必要になるのではないだろうか。