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授業実践記録(英語)

「教えない授業」を目指して
~「自ら考える力」をつけるための工夫

北海道札幌旭丘高等学校 長沼 敦子

1.はじめに

「進学型単位制」として,新たな学校体制を創ってから,今年度で11年目となる本校では,学年のほとんどの生徒が大学進学を目指し,一般的に「理解能力が高い」と称される生徒たちが入学してくる。しかし,日頃の生徒の学習に対する姿勢を見ていると,理解力はあるが「欲」がないためか,与えられたことはできるが,そこから自立して「自ら考える」姿勢が大変弱い印象を受ける。生徒の口からは「なんとなく,ざっくりと,だいたい,一応は,英文の意味は,言われたらわかる」などということをよく耳にする。裏を返すと「(だいたいわかるが)しっかりとはわからない」「(意味はわかるが)自分でその英文は言えない」「(言われたらわかるが)自分で説明はできない」ということになる。実際,授業をしていても,なぜそうなったかを尋ねると,黙ってしまうことがよくある。学習スタイルを見ても,いわゆる予習前提・解説型授業に慣れてしまい,「正解・解説が来るのを待っている」受身の傾向が見受けられる。最近では,入試問題ひとつ取ってみても,従来の知識を問われるタイプの問題に加え,課題解決力,論理的思考力などを試される傾向の問題も増えて来ているように,世の中でも「自ら考える力」を持つことが重要とされる傾向にあるのではないだろうか。

そこで,能動的学習習慣をつける必要性を大いに感じた私は,今年度担当している講座の中で,なるべく「教えない(説明し過ぎない)」「自ら考える力をつける」ために,いくつかのこだわりを持って授業をしている。それらは決して新しい特別なことではなく,おそらく多くの先生方が日頃から,既に当たり前に行っていることだと思われるが,この機会をお借りして,自分なりの振り返りをさせて頂きたい。

2.「英作文演習」における,授業の「こだわり」

今年度の前期は,「英作文演習」(3年次)と「英語表現Ⅱ」(2年次)を主に担当した。それらはessay writingやconversationのように文章構成力やcommunication力に主眼を置き,多少の文法ミスは許容するというものとは異なり,基本表現をしっかり覚え,一文を正確に書く,いわゆるaccuracyが求められる内容となっている。特に「英作文演習」では,テキストとして,語整序・部分英訳・英作文など,一文形式の問題集を使用しているため,とかく「予習→解説」の授業形式になりやすい。前述したような受け身の傾向を持つ生徒達に,単なる答えの確認をするのではなく,「理解・定着」を図るために,特に「生徒同士の学び合い」「音読」の点にこだわって授業をしている。

(1)「生徒同士の学び合い」

詳細は後述するが,解答をする前に,英作文の問題を数題ずつ小分けにして,内容によって数分程度で生徒同士の話し合いをさせている。最近よく耳にするactive learningと言える程,本格的理論に基づいて行っているわけではないが,むしろ理論よりも現場での実践から得られる生徒の反応から,確実に手ごたえを感じている。たった数分ではあるが,この間,生徒達がかなり能動的に問題に対して向き合っている様子が見える。話し合うことで,生徒同士の学び合いがあり,そこから生まれる「なぜ?何?どうやって?」という疑問が芽生えたところで説明をすると,確実に「聞く」のではなく「聴いている」のがわかるのだ。

(2)「音読」(確認読みから暗唱へ)

音読の語学学習における重要性と効果は,すでにかなり論じられているので,ここではいうまでもない。とかく英作文の演習授業では,正解を示すこととその解説で終わってしまい,次々と問題をこなしがちである。定期考査の範囲を意識すれば,それはなおさらのことである。しかしPractice makes perfect.とも言うように,いったん理屈を理解した後は,「頭でわかる」から「身体でわかる」まで,何度も繰り返し声に出し,言いたい表現がサッと言えるように,いわゆる「自動化」をする必要がある。その際に,ただ機械的に繰り返すのではなく,頭の中で意味を通しながら,チャンクや文構造などを意識して英文が言えると,暗記をしなくても「文の再構築」が可能になる。授業内での音読の時間も制限があるので,それを補う意味で,更に自学でも使えるように,課が終わるごとに「暗唱シート」も配布している。

3.実際の「英作文演習」授業展開例

(1)予習をしておくことを前提とする

(2)補助プリントを配布 【資料1

英文を作るための手順,特に和文和訳(自然な表現で書かれたテキストの日本語を,英語式の語順や表現に合わせて書き換えること)のヒントや文法・表現などのポイントをまとめたワークシート式のプリント。板書時間の節約にもなる。

(3)ペア・小グループでの相互確認・話し合い~こだわり(1)

  • ・ 問題文を2~4文ずつに分けながら,2~5分程度の時間を与え,予習した内容を話し合わせる。
  • ・ 相互の答えの共通点・相違点を確認し,各自の答えの根拠を説明し合う。ここでは,なんとなく正解した生徒は,結局説明ができず,「言われたらわかる状態」である。そこを一歩進んで「自分で答えの根拠を説明できる力」をつけたい。「覚える」という作業は個人的かつ内向きであるので相手を必要としない。一方,「説明力」は,自分の理解を言葉にして可視化するようなものなので,学びが外向きになり,自分の理解の甘さや曖昧さが露呈されるが,結果的に自身の学びを深化・強化することができる。
  • ・ その間,教員は机間巡視や板書準備をする。
  • ・ その後,時間で区切り,生徒からの発言も促しながら,教師が簡潔にポイントをまとめる。

    【利点】

  • ・ 「授業が活性化」~生徒が「自ら考える」「疑問の種植え」
    (一方的に教師の説明を聞くよりも,ずっと生き生きしている)
  • ・ 「peer learning効果」~同じ内容でも,生徒同士の方が教師から説明されるよりも,より理解できる場合もある
  • ・ 「能動的に教師の解説を聴く」効果あり,聴く姿勢にも変化が見える
  • ・ 教員は机間巡視中に生徒のつまずきポイントが確認できる
  • ・ ポイント確認のための効率良い板書準備ができる

(4)音読~こだわり(2)

  • ・ 構造・文法ポイントを理解した英文を定着させる(3度読み1セット)
    ①Repeat-After読み(英文を見ながら文全体の構造・発音などを確認)
    ②Read and Look up読み(頭の中で一度,英語をため,チャンクごとの再構築を体感させながら声に出す。脳により負荷をかける) ③Quick Response読み(教師が日本語を言い,それに続けて英語を言う。日→英の瞬発力強化)
  • ・ 3~5文ずつ区切りながら,①~③をセットにして音読する。

(5)「暗唱シート」を配布 【資料2

1つの課が終わるごとに,A4裏表,いわゆるサイト・トランスレーション形式で,左に日本語,右は空欄にしてあるが,暗唱が進んだら,(定期考査前などに)最後は声に出しながら英文を書くスペースとしても利用できる。表は英語の語順に合わせたチャンクごとの日本語,裏には自然な日本語があり,段階別に個別で練習することができるようにしてある。(進度に余裕がある時は,授業内でペア読みなどをさせる。そうでない場合は各自,自学の中で暗唱させる)

    【利点】(4)(5)

  • ・ 単に繰り返すだけでなく,段階的に脳に負荷をかけながら声に出したり書いたりできるので,英文が頭に残って覚えやすいと思う。(振り返りシートの生徒の声より)

4.見えてきた課題(悩み)

英作文の授業といえども,上記のような点にこだわって授業を行う時,いくつかの課題が出てくる。解答解説以外の活動を盛り込めば,当然その分,進度が遅くなる。複数名で担当する場合,進度が速い担当者と2~3課分の差がつくこともある。前述したように,定期考査も実施するので,「範囲の確保」という問題も出てくる。授業内容の精選は当然必要であるが,とにかく一度サラッと進んでから繰り返させる「進度重視型授業」,授業内だからできる活動を通して繰り返させる「定着度重視型授業」は,どちらも理にかなっており,決してどちらが間違いとは言えない。

別科目の講座で文法・語法の小テストを毎週行っているが,与えられた範囲を,目先のテストに向けてこなす学習習慣の生徒は,上滑りな知識でしかなく,英作文は基より,結局は読解でもその知識を活かすことができない。そんな状況を目の当たりにする中で,今後,本校生徒にとって効果的な授業とは何か,担当者の「独自性」と「共通項」の整理をする必要があると思われる。

また,本来は与えられた英作文問題の正解に達することから一歩進んで,書けるようになった英文を自分の言葉として使っていくことができるようにproductiveな段階までも扱いたいところであるが,ここでは割愛させて頂く。

5.その他の取り組み

授業とは別に,「自分で考え,定着させる」工夫のひとつとして,生徒には「弱点克服パワーアップノート」の作成を薦めている。第1回の定期考査後,テストの点数とそこに至るまでの取り組みについての分析・振り返りを書かせ,「復習の仕方」を話した上でテストの見直しをさせた。

見直しというと,『間違えた箇所の正解を確認し,参考書や模試の解説にアンダーラインを引いたり蛍光ペンで色をつけたりして,いかにも勉強した気になっている生徒がいる。この「いかにも」が一番怖い。これも勉強の第一歩だが,理解ができたらさらに進んで,「パワーアップノート」に書き込み,反復練習をしないと,とても定着は望めない。』(根来2008)

自分のミスの分析と,正解の根拠を確認し,理解できなかった文法や構文などをまとめていき,一度の見直しではなく,繰り返しノートに蓄積することで,自分の弱点が客観的にわかり,克服策も可視化できるのである。ノート作成を,全員に奨め,特に平均点をかなり下回った生徒には提出を義務付けた。始めはあらわに負担感を見せていた生徒も,提出する時には,多くが達成感を感じたようであった。後は各自が継続してくれることを願いたい。

6.最後に

英語に限らず,どの科目においても,その勉強を通して,覚えたり考えたりするという「プロセス」が生徒にとっての真の血となり,肉となる。教師の導きで,身体を造る「骨」の部分を作ったとしても,それを完成させ,機能させるための「血や肉」は,やはり教師が「教え込む」のではなく,生徒が「自ら考え,鍛える」必要がある。生徒の多くが受験をすることを考えると,模試の結果などに表れやすい即効性のある方法が好まれるのは理解できる。しかし,目指すべき授業の目的は,単に受験のためではない。『つめこんだ一過性の知識で「合格」はできても,内実を伴わない知識は力とはなりえない(根来2008)』。全く同感である。一匹の魚で一日の糧を与えるよりも,その魚の釣り方を教えることで,自立して生きていくことができるように導く。そのためにも,授業において,生徒に「自ら考える」機会を保障し,自分の学習に責任を持たせる必要がある。いかに考えさせる仕掛けをするかが,教師側に課せられた責任である。

とかく授業以外の業務に追われることの多い毎日ではあるが,生徒にとって授業が意義ある学びの場となるよう,私自身,一層の研鑽を深めていきたい。この度,日頃の授業について再考する機会を与えて頂き,心からお礼を申し上げたい。

【参考資料】
今井康人『スーパー英文読解英語を自動化するトレーニング』アルク
根来玲子『受験英語のコツ』文芸社ビジュアルアート