授業実践記録(英語)
技能統合型の発展的活動を取り入れた授業実践
1.技能統合型の授業と発展的学習について
平成25年度から実施されている新学習指導要領では,4技能を有機的に関連付けた授業を行うことが求められている。例えば,新設科目,「コミュニケーション英語」における内容の取り扱いでは,「聞いたことや読んだことを踏まえた上で話したり書いたりする言語活動を適切に取り入れながら,四つの領域の言語活動を有機的に関連付けつつ総合的に指導する」などである。
では,有機的に関連付けるとはどういうことであろうか。広辞苑によれば,有機的とは「有機体のように多くの部分が集まって1個の物を作り,その各部分の間に緊密な統一があって,部分と全体とが必然的関係を有しているさま」とある。これを授業に当てはめて考えると,4つの技能を別個に指導するのではなく,各技能を関連させながら言語的知識を活用することのできる総合的な指導を行うことだといえる。同様に,コミュニケーション英語の目標として掲げられた,「情報や考えを理解したり伝えたりする力」を養うためには,教科書の内容をもとにしてさらに知識を発展的に学び,それらについての考えや知識を他者に伝えるという発展的活動として言語活動計画をしていく必要がある。
今回の2つの実践では,文章を読んだあとにそこで知り得た内容を誰かに伝える,という視点で計画実施されたものである。一つ目は多読活動の後の発展的スピーチ活動,二つ目は教科書の英文の内容をもとに,事後活動として発展させたディベート活動である。
2.多読における言語活動 ―読む目的を意識させる活動
(1)概要
一つ目の実践は,以前の勤務校の3年次において行ったものである。当該科目の「リーディング」では,「書き手の意向などを読み取る能力を一層伸ばすとともに,英語を理解しようとする積極的な態度を育てる」ことが求められている。そのため,このプロジェクトを通じ卒業時までに英語を主体的に学ぶ態度を育成することを目標に設定した。
(2)教材について
今回多読用として,Oxford University Press社のOxford Reading Tree(Level 1+~9)を用いた。このシリーズの本は,ある家族の出来事を描いた短編の読み物である。登場人物が一貫しているため,生徒にとって読みやすく親しみやすいものである。1冊あたり50語程度のものから始まるが,Level-9 になると1000語近いものもある。文構造や文法事項などがコントロールされており,語彙の繰り返しも計画されているため,読みながら無理なく新しい言葉を習得していくことができる。
(3)指導において留意した点
指導において気を付けた点の一つは,レベルの設定である。読書の開始時には生徒にとって無理のないレベルから始めることとした。その結果,ほとんど全員の生徒が最も易しいLevel 1+から読み始めた。教材については大量になるため,生徒の読書の進み具合によって,授業に持っていく本のレベルを変え,箱詰めをした書籍を荷物運搬用のカートに乗せ教室に毎時間搬入した。
また,生徒の取組を記録するために,それぞれの生徒に自分の読書記録を書かせた。1冊読み終わるごとに,記録シートに次のようなことを記録させた。①Date(読んだ日付);②Title(読んだ本のタイトル);③Lv.:(読んだ本のレベル);④Comment(本を読んだ感想や内容について自由に記入);⑤Rate(1 (Poor)- 5 (Very Good)の評価);⑥N of Words(その本の語数。表紙の裏に数字が書いてある)。この記録シートは,評価の際の参考にすることを生徒に伝えた。毎時間回収し教室の書棚に保管するようにした。生徒は授業の終わり5分になったら読むのをやめて,その日に読んだ語数を計算し,その総語数を生徒が最後の行に書き入れる。この語数に従い,左側ページに貼った Reading Marathonのシートを塗るように指示した (1000 words = 1km)。
(4)実施状況
このプロジェクトは多くの生徒が推薦入試などで進路が決まり,学習の目的を見失いやすくなる11月から本格的に導入した。任意の物語を読み進めることのほか, 読後のレポートを書きそれをもとにスピーチによる発表活動を行った。これはExtensive Reading Activity(読んだものをもとに他の技能へとつなげる,いわば技能統合型の活動の一つ)と呼ばれるものである。Extensive Reading Activityについて,詳しくは Bamford and Day(2004)を参照されたし。発表においては,互いの読んだ本についてお互いに興味を持った様子がみられ,次の読書への生徒の良い動機づけになった。スピーチ後は,イラストを添えた原稿を模造紙に添付し,発表用ポスターとして教室に掲示した。
図1.生徒の作成した発表用ポスターの例
(5)多読活動の成果
本プロジェクトの実施後にアンケートを行った際のコメントを見ると,「今まで英語の絵本を読む機会がなかったので,楽しく読んでいます。自分の興味関心に合わせた好きな本を選べるところもよいと思います」など,読むということを前向きにとらえている生徒の声が多くみられた。また,読んだ内容を他の生徒に伝えることについても,「週に1回程度,友達と本について話したりするのも楽しいかもしれません」といったコメントや,更に「ずっと読み続けていると飽きてくるから,友達にお勧めなど話し合う時間もあれば嬉しい」など,自分の読書活動を客観的にとらえてよりよくしていくための方法を自ら提案しているものもあった。
また,生徒の活動の様子や学習記録から,個別に生徒の英語力の差に対応する上でも有効であった。最終段階において,レベル5あたりを読んでいる生徒もいる一方で,多くの生徒はレベル9を終え,続いて Penguin Readersシリーズ(Pearson Longman)のStarterからLevel-2ぐらいまでの本や,Penguin Young Readers シリーズなどに手が伸びるようにまでなった。
読みの流暢さを身に付けさせる上でも有効であった。ストーリー性のある物語であると,多少の未知語について逐一辞書を引くという読み方をせず,授業時間内に1000~2000語程度の本を読み切ることができる生徒が増えた。
(6)多読におけるExtensive Reading Activityの役割
多読活動については,読む力を養うだけでなく,身に付けた英語力を使う良い機会になった。ただし,多読のみを行えば必ず英語で読む力がつくというわけではない。2012年にハワイ大学で研修をする機会に恵まれたが,その際に多読活動について学ぶ機会があった。研修における講義の中で,「Intensive ReadingとExtensive Readingは車の両輪のような関係にある」と教わった。確かな言語知識を持たなければ,読める範囲もおのずと限られてしまうからである。このことを考慮しながら,3年間の中で多読をどのような位置づけでカリキュラムに組み込んでいくかを考えることが重要である。
3.教科書のリーディング教材を発展させた事後活動としてのディベート
(1)授業概要
2つ目の実践は,現在の勤務校において昨年実施したものである。履修科目は「英語Ⅱ」であるが,新課程を踏まえ,教科書の内容を発展的に読んだり聞いたりした後で,自分の考えを述べたり書いたりすることを念頭に計画した。この背景には,茨城県教育委員会により実施されたディベートチャレンジ事業により,教員および生徒のディベートに関する理解が深まったことがある。
(2)教科書の概要理解
最初に,教科書本文を理解するための授業を2時間行った。まずPre-Listeningと空所補充タスクによる話題と語彙の導入を行った。更に語彙理解の確認のため,英英辞書による英語の定義を用いたGuessing gameなども行った。これは英語の定義を読み上げて任意の単語をリストから選ぶ,というものである。
例えば"the colours that exist in something, especially a plant or an animal"という定義に対して," coloring"という単語を答える。一見難しいように思えるが,このような活動を行うことで,予習の必要性が生じる,英英辞書の使用を促し意味を英語で理解する,などの波及効果が生じる。
(3)言語形式への気づき
次に,音声を聞きながら空所を埋めることで,教科書本文の概要を理解する活動を行った。また,形式に焦点を当てるため,主張,反論をする際の表現について本文中の該当する箇所をワークシート上でハイライトして提示した。これはFocus on Form(文法形式などの提示の仕方によって生徒に気付きを促す考え方)に基づく活動である。Focus on Formについて,詳しくはNassaji and Fotos (2011)をご参照のこと。
(4)リーディング課題(宿題)
さらに,教科書の内容を更に発展的に深めるため,宿題としてweb記事から読み物課題を与えた。内容としては,人間をクローン技術を用いて再生させることの是非についてである。生徒はこの記事を読み,主題に関する利点と弊害を抜き出し,その要点を英語で表にまとめてくることが課題である。
使用した記事: The Pros and Cons of Human Reproductive Cloning
http://www.abpischools.org.uk/res/coresourceimport/resources/poster-series/cloning/proscons.cfm
(5)ディベート活動
次はいよいよディベート活動である。これまでに校内で行ったストーリーリテリングテストの結果などから,ある程度英語で話す力が均等になるように4人組のグループをあらかじめ作成しておいた。グループ分けの後,論題を提示した。今回の論題は "We should bring back extinct animals by using cloning technology"(絶滅した動物をクローン技術を使って再生させるべきである)。指定されたグループごとに準備を進めた。この準備はPC室で行った。また,事前にいくつかリソースとしての英文を用意しておき,必要に応じて自由に読むことができるようにした。ディベートは4対4の形式で,1時間あたり2セッション(計4グループ)実施し,計3時間にわたり実施した。
(6)ビデオ視聴(拡張的学習)
ディベートの3時間目は1組だけディベートを実施したあと,クローン技術と絶滅動物の現状に関するTED Conferenceのビデオ視聴を行った。
使用したビデオ: The dawn of de-extinction. Are you ready? (Stewart Brand)
http://www.ted.com/talks/stewart_brand_the_dawn_of_de_extinction_are_you_ready
ビデオにおいて使用されている英語は高校生向けに書かれた教科書の文とは異なりauthenticなものであるため語彙などは難しいものも含まれていたが,ディベートの準備や活動を通じてトピックに関する理解および興味関心が高まっており,概要は理解できたようだった。生徒はワークシートを使い,ビデオの内容を表にまとめる活動を行った。
(7)エッセイライティング
ディベートおよびビデオ視聴のあと,それぞれの生徒が,今回のトピックに関する自分の考えをエッセイにまとめた。全体的な印象としては,内容が良く深まっており,授業時間内にあまり書くための時間を設けなくても,まとまった英文を流暢に書くことができていた。生徒の書いたエッセイの一例を紹介する。
図2.生徒の書いたエッセイの例
(8)生徒の反応
ディベート活動の実施後,5件法および自由記述を併用したアンケートを実施した。生徒の受けた印象としては,「ディベートは難しい」が,「楽しい」活動であり,外語学習にとって「ためになる」活動であるという意見が多くみられた。
楽しかった点としては,「相手の主張や考えを聞くこと。様々な意見が聞けてためになった」,「難しいながらも,自分たちの主張を作り上げ,英語でコミュニケーションをするのは新鮮でとても楽しかった」など,双方向のやり取りを行うことができた点をコメントとして挙げていた。また,「授業内容の理解よりも上のレベルの活動ができた」教科書の内容を拡張的に学習したことに関して知的好奇心を刺激されたと考えられるコメントもあった。
一方,難しさを感じた点としては,「言いたいことを日本語にするところ」「自分の頭に浮かんだことを上手に英語で話すこと」など,言葉の壁を感じた生徒が多かったようである。
活動が有益だと感じた生徒からは,「リスニング・スピーキング力ともに鍛えられるから」,「『考える・聞く・理解する』を,自分が主体となってできるから」など,複数の技能を同時に使うことや,主体的な学びに関することなどがその理由として挙げられていた。また,「自分の意見を分かり易く伝えるために,自分が知っている単語や文をたくさん使うから。」といったように,使う場面を設定することが有益だと感じたようであった。さらに,将来を見据え,英語で意見を述べたり議論したりすることの重要性についてのコメントも多かった。例えば,「実際は正しく書く能力よりも正しく話す能力の方が重要になりそうだから」,「今後英語での議論をする機会は増えると思うので,その前の段階としてとてもよい機会になった」などである。生徒たちは,教師側が感じている以上に,英語を使うことの重要性を感じているのではないだろうか。
3.おわりに
新課程における科目「コミュニケーション英語」においては,さまざまな形で試行錯誤がなされている。今回紹介した2つの実践において共通して言えることは,「情報や考えを理解したり伝えたりする力」を生徒は確実に求めているということである。教科書の内容を発展的に学ぶことや,それらについての考えや知識を他者に伝えることで,言葉の持つ本来の機能を意識し,真の意味での学びを感じることができるのだということだ。新課程における授業づくりにおいて,これらの実践が少しでも多くの先生方の参考になれば幸いである。
参考文献
Bamford, J., & Day, R. R. (Eds.). (2004). Extensive reading activities for teaching language. Ernst Klett Sprachen.
Nassaji, H., & Fotos, S. (2011). Teaching grammar in second language classrooms: Integrating form-focused instruction in communicative context. New York: Routledge.
注)多読の実践については,2012年度茨城県教育委員会発行の『ディベートチャレンジ通信第30号』に掲載した例をもとに,本記事のテーマに合わせて書き直したものです。