授業実践記録(英語)
音読・暗唱に"やりがい"と"必要感"を
1.はじめに
本稿では,中学3年生の授業中の音読や暗唱に"やりがい"と"必要感"を持たせる工夫についてご紹介します。
私は,中高一貫の男子校で5年目を迎える教員です。2年前に中学1年生の担任になり,以来3年間その学年を教えています。学年を担当している私と他2名の教員は,音読と暗唱を柱に授業を進めました。まだまだ子供のような中学1・2年生の頃,生徒は音読を大いに楽しみ,教科書本文をスラスラ暗唱できることを純粋に喜んでいました。しかし中2の3学期以降,彼らの口からは "音読は疲れる","暗唱は苦痛"という声が聞かれるようになりました。
そこで,中学3年生の年度初めを機に,私の授業では,生徒が飽きずに音読と暗唱をするよう試行錯誤を始めました。その過程で,積極的な音読と暗唱にはやりがいと必要感を持たせることが重要と感じ,以下のような工夫を試みています。
2.活動例の紹介
活動例1 暗唱と定期試験
定期試験では,暗唱する本文の穴埋め問題を必ず15点~20点分出すようにしています。その試験のために自宅でもしっかり暗唱してくれる生徒が多く見られます。授業では,私が音読活動用に作ったハンドアウトを使って音読を行います。毎授業あたりおよそ10~15分ほど,ハンドアウト上で語彙確認,和訳,日英通訳音読,サイトトランスレーション,個人読みなどを進めていくと,生徒はおよそ7,8コマ目には本文をスラスラと言えるようになります。
活動例2 音読の効果を感じさせる速音読
そうは言っても音読は疲れるものですから,生徒には音読の効果と必要性を理解させなくてはなりません。
その方法の一つが次の活動です:
- (1) CDを聴くor本文を黙読する。
- (2) 本文を音読競争などで何度も速音読する。
- (3) もう一度聴くor本文を黙読する。
当然ですが(2)の時点で文字と音声を反復し高速で体に入れると,(3)では恐ろしいくらいはっきり聴き取れますし,速く読むことも可能になります。この活動を洋楽や映像教材の鑑賞で行うと,スクリプトや字幕無しで作品を味わうことができます。
活動例3 CDの通りに音読せよ
これはストップウォッチを1人1つずつ渡し,タイムを計らせる活動です。
私の指示は:
- (1) 今から本文の音声を流します。何秒間の朗読なのか計ってください。
- (2) そうです,CDの朗読は40秒でした。
- (3) みんなも"ちょうど"40秒で読めるよう練習してください。はじめ。
- (4) ではグループ内で発表です。聞き手は計測してあげること。
- (5) クラス全体で発表です。グループごと一人発表者を決めてください。
- (6) ではグループAの代表者どうぞ…
となります。単に音読せよとだけ指示しても,「で,読んだけど何なの?」となるので,音読に具体的な目標を与えることが大事だと思います。(3)の指示の際,私が何も見ずにちょうど40秒で手本を披露すると,生徒はオォ~と唸り,威勢よく練習に取り掛かってくれます。なお,所要時間だけでなく,プロソディ―もCDの通りに音読させられると面白いと考えています。区切り方,抑揚,ストレス,音のつながりなどを聞き取り,本文中に書き込み,練習させる方法を試行錯誤中です。
活動例4 先生が1対1でチェックする
先生が生徒を1対1で直接評価する仕組みを作ると,音読・暗唱する必要度は非常に高くなり,生徒は一生懸命自主練習を重ねるようになります。
手順は:
- (1) 本文のペア音読,音読筆写,通訳音読,速読競争などを行う。
- (2) 虫食い状になった本文を配布する。
その後の指示は:
- (3) 虫食いがスラスラ読めるようになった人は,先生の前に来て披露してください。
- (4) 列が長くなるので,自分以外に3人探し,4人で一緒に来ること。
となります。このように指示をすると,生徒は勇んで先生の前にやってきます。発表では,4人の生徒をランダムに指名しながら音読を披露させ,つっかえたところ,発音の違うところなどがあると,4人全員練習のやり直しを命じます。また,音読や暗唱の出来具合だけでなく細かい文法ルールを確認したければ,音読チェックの場で「このsは何?なんでこの分詞は~ed/~en形じゃなくて~ing形なの?この副詞はどうしてこの位置にあるの?」などの質問をすればよく,合格の難易度を調節することができます。
この活動のもう1つの良さは,生徒と先生が直接触れ合い,関係を深めることができる点です。発音のきれいな生徒,覚えるのが速い生徒,覚えるのは速いが文法知識の曖昧な生徒など,各生徒の英語力を教員が把握する機会になり,以降の指導の指針を定めるために重要な場となります。
活動例5 プリントカルタ
全文暗唱すべき本文以外でも,教えた文法の例文を集中的に音読し体に入れたい時,私はプリントカルタを行います。
手順は:
- (1) 3人~5人を1組にし,机をつなぎ合わせ班机にさせる。
- (2) 各グループに,例文を10本ほど並べた1枚のハンドアウトを渡す。
その後の指示は:
- (3) 各自,違う色のペンを手に持ってください。
- (4) このゲームはカルタです。先生が読み上げる日本語の意味の英文を他の人より早く見つけ出し,大きな声で読み上げてください。最も早く見つけて言えた人が1ポイント獲得。獲った文に自分の色で○をつけること。では1問目…
とゲームを始めます。競争を含んだ活動ですから,英文を正確に素早く処理し音読する必要感と,相手に勝ったときのやりがいがあります。学習効果の面でも,速さを競いながら読解の瞬発力の向上につながると考えています。
この活動が特に威力を発揮するのは,紛らわしい複数の文法事項の識別を学ぶ時のようです(現在時制・過去時制・現在完了時制の文,WH疑問文の疑問詞の識別,文型による意味の違いなど)。識別させたい2~3つの文法事項を混ぜて英文を並べると,生徒たちは英文の形の違いに意識を集め,瞬時に英文を見分けようとします。
嬉しいことに,理解度が低い生徒も,このゲームで遊びながら文法ルールに気が付いてくれることがあるようです。また,慣れてきたら,英文を虫食いにして難度を上げれば瞬間口頭英作文へと近づけることができます。
活動例6 1日1本,初見英文の速読
音読や暗唱ではありませんが,音読と暗唱のトレーニングなどにより英語力が刻々と伸びていることを実感させるため,1日1本の初見速読を行っています。方式は以下の2点です:
- (1) 毎授業の冒頭で行う単語10問テストの裏面に200~350wordsの英文と内容に関する問を1題つける。
- (2) 生徒は単語テストと合わせて6分間の制限時間内に英文を読解し,問に答える。
この活動でも,生徒がやりがいを見出してくれるよう,裏面で正解した場合は単語テストの得点にボーナス1点を与えています。英文は,生徒が興味を持つ話題がなるべく多くなるよう,科学,歴史,海外の文化,現代社会,日常生活のトリビアなど幅広いジャンルに触れられるよう選んでいます。学習効果としては,当該授業では扱えない文法と語彙のおさらい,毎日英文に触れる効果,短い制限時間内に初見の英文から必要な情報を得る訓練としても期待しています。
3. おわりに
もちろん,ここに挙げた工夫だけで授業が毎日大成功になるわけでは決してありません。上手く行かず悩むことも沢山あります。もっと授業が楽しくて本当に力のつくものになるにはどうすればよいか,模索の最中であることをご容赦ください。