授業実践記録(数学)
基礎的・基本的の確実な習得を目指した授業実践
~学び直しを設定した授業の工夫~
1.はじめに
「問題解決学習」「有用性の感得」「活用する力の育成」「教育機器の活用」「教材・教具の開発」等,さまざまな研究を進めてきた。それらの研究を進める中で,共通した問題がでてきた。それは,それぞれの問題解決に必要な計算のスキルや,適切な表現力・処理能力が十分に身に付いていないことである。このままでは,次の単元へ取り組もうとする意欲も低下し,数学への関心が薄れてしまうこと等,様々な問題への波及が懸念される。この点に着目し,「学び直し」を研究課題に設定した。特に基礎的・基本的な知識・技能の確実な習得を中心に取り組むこととした。
中学校学習指導要領解説数学編第1章総説では,「新たな内容を指導する際に,既に指導した関連内容を意図的に再度取り上げることが生徒の理解を深めたり,広げたりするために有効な場合は,積極的に学び直しの機会を設けるものとした」と,指導計画の作成と内容の取り扱いに関する改善として学び直しの機会の設定が述べられている。また,今回の学習指導要領の改善について,中央教育審議会の答申では,7つの指針が示されている。その中の1つに「基礎的・基本的な知識・技能の習得」が盛り込まれており,算数・数学については,「数量や図形に関する基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着を図る観点から,算数・数学の内容の系統性を重視しつつ,学年間や学校段階間で内容の一部を重複させて,発達や学年の段階に応じた反復(スパイラル)による教育課程を編成すること」と述べられている。
これまでも,新しい内容を指導する際,必要に応じて既習事項を指導計画に位置づけて,関連した指導,つまり復習としての基礎的・基本的な知識・技能の定着は行ってきた。言わば,新しい学習を行う際,復習の時間を多く取ってきた。しかし,ここでの「学び直し」とは,新しい内容と既習事項の双方の理解を深めた上で,基礎的・基本的な知識・技能を定着させるとともに,新しい内容の学習に対する既習事項の有用性を感得させるということである。具体的には,新しい内容(単元)を学習する際,一度学習した内容(単元)を再度,学習ができる機会を確保する時間を設定し,味わいを深めたり,新しい発見をしたりすることである。また,生徒のつまずきに対して,十分に時間をかけ,きめ細やかな指導を行うようにし,そこで解ける喜びを過去に戻って湧き起こしたりすることでもある。なお,「学び直し」には,新しい内容(単元)を全て学習した後も,再度,既習事項(単元)を取り上げて,双方の理解を深めることの必要性も述べているが,ここでは取り上げない。
そこで,本研究では,新しい内容と既習事項の双方の理解を深め,基礎的・基本的な知識・技能を定着させる「学び直し」に焦点を絞り,研究を進めることとする。これは,既知事項の理解を,単なる繰り返しやドリルに偏重せず,つまずきや十分でないところを克服するために,どうすれば基礎・基本の本質を捉えることができるかといった指導のあり方を考えていくことである。
2.具体的な取組
(1) 新しい内容の学習に対する既知事項の理解の確認として,既知事項のつまずきや十分でないところの把握や分析
- ① 教科書に付属している「準備の問題」
授業時間内で実践できる方法として,各単元でプレテストを実施して生徒の実態把握をした。教科書に付属している「準備の問題」を実施し,分析した。プレテストで間違っていた問題について,「いつ,その理解を深め定着させるのか?」という点において,その問題の理解の必要性を生徒自身が感じ意欲的に取り組まなければ,定着が難しく,時間不足も課題となった。 - ② プレテスト・ポストテストの作成
生徒の実態に応じた指導として,効果的なプレテスト作りが必要となった。つまり,生徒のつまずきが予想される学習内容について,どのような既習事項の理解が影響するのかを考え,その具体的な学習指導法を検討する。既習事項の理解度が把握できるオリジナルプレテストを作成し,そのプレテストと連動したポストテストを作成することとした。
(2) プレテスト結果を意識した授業のあり方の研究および生徒の変容
実践事例 2年生の「連立方程式の代入法」の取り組み
※ 生徒のつまずき
○ 文字に式を代入することへの抵抗感。
○ 代入時の( )の付け忘れ。
3 5χ+4 -4
( )を箱のイメージに
3(5χ-4)-4
<考察>
- 代入の考え方を具体的な操作活動で提示することにより,生徒はイメージ化しやすく,スムーズに多項式を文字に代入することができていた。
- 授業では,りんごとみかんという具体物を利用して学習した。しかし,「りんごとみかん」より,「文字」の方が分かりやすいという生徒もいた。
- 学習指導要領が改訂され,小学校6年生のときに,文字式で練習しており,すでに文字を使う有用性を生徒が実感していた。
- ポストテストのの正答率は,62.3%。
これは,プレテストの「x=y+2のとき,3x-5をyを使って表しなさい」
の正答率が36.5%であったことを考慮すると,文字式を代入する知識の理解が進んだ生徒が増えたと考えられる。
(3) どの教師も使えるように,プレテストの問題が,新しい学習内容(教科書)の何頁に,対応してくるかの整理・表示。
3.研究の成果と課題
プレテストの活用法 (プレテストの内容は授業の際,取り上げる)
<問題解説の方法>
ポストテストでの成績向上
意欲の向上・前向きな姿勢
- (1) プレテスト実施後,すぐにその場で全問解説する
- (2) 新しい単元の関連問題の授業の都度,その問題部分のみを解説する
- (3) (1)(2)の両方を弾力的に行う
学習内容に必要な既習事項を明確にした上で,自主作成したプレテストを実施することにより,思い込みではなく生徒の実態に即した指導法を考えるだけでなく,生徒のつまずきに対する生徒の基礎的・基本的な知識・技能の向上も見られてきている。まだ,研究を重ねる度に多くの課題が見つかっている。
<課題>
- 1 小学校での学習内容の把握
(今回の学習指導要領の改訂により既習事項の変更点の把握) - 2 プレテストの活用法(実施後,より効果的な解説の時期や方法の研究)
- 3 より望ましいプレテスト・ポストテストの作成
- 4 プレテスト・ポストテストの実施時期の検討や時間の確保
- 5 生徒の変容の検証方法
今後も,個性を大切にしつつ,生徒にとってより効果的な学習指導を模索し,その具体的な検証方法の研究をすすめていきたい。