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算数

「見つけ」を豊かに伝え合い,活用の喜びを味わえる授業をめざして
―「九九のひょうのひみつを見つけよう」での実践を通して―

2年 愛知県豊橋市立向山小学校 鈴木 秀典

1.指導にあたって

(1) 子どもの姿と単元のとらえ

かけ算(1)(2)の学習において,子どもたちは,数図ブロックやアレイ図等の具体物などを十分に利用しながら,各段の前半(□×5まで)の九九について自分の力で答えを見出した。さらには,それらを観察することで様々な「見つけ」を導き出し,それらを用いて後半(□×6以降)の九九を完成させ,その続き(□×10以降)を考える活動を十分に楽しんできた(資料1)。九九を暗記し,唱えることだけに没頭しがちな単調な学習からの脱却を図ることができたという一定の手応えを感じている。

本単元は,これまでの学習成果である81通りの式から導かれた積を「九九のひょう」という形にまとめ直し,ここに潜む事柄を見つけ出すことから学習が展開される。かけ算(1)(2)の学習においては,子どもたちの見つけは,多くが「その段ならでは」の事柄であった。これに限らず,「どの段でも成り立つかどうかを吟味すること」,さらに,それを「一般化して表現すること」が大切である。

これらをはじめとする本単元で身につけるべき事項を次のように整理してとらえた。

【資料1】

【資料1】九九の構成で取り
組んだ「見つけ」と拡張

【数学的な思考の面から】
  • ① 行(かけられる数)と列(かける数)で構成される表の見方,よみ方を身につけること
  • ② 「どの段でも成り立つか」と考えること
  • ③ ②で検証したことを,一般化して表現するとどうなるか考えること
【知識・理解面から】
  • ① かける数が1ふえると,答えはかけられる数だけふえる
  • ② かけられる数とかける数を入れかえても答えは同じである
  • ③ 同じ答えになるかけ算がある

【資料2】 本単元で学ぶべきであると考えた数学的な考え方と内容

(2) 具体的な手だて

① 「見つけ」を豊かに表現させるために

手だてア 学習過程に「見つけ」に関するOpenEnd的な問題を取り入れる
→ 自由度の高い解答を引き出し,「友達や先生に伝えたい」という意欲を高められる。

手だてイ ペアによる伝え合いの場を設ける
→ どの子にも自分なりに話す機会を保障することができる。

手だてウ 練り合いの場での指名や発表の形態を工夫する
→ 1つの意見に関するいろいろな表現の仕方にふれ,よりよい表現方法を学び合える。

② 活用の喜びを味わわせるために

手だてエ これまでの学習過程と成果を掲示にまとめる
→ 個人思考を助けたり,既習事項の活用を全体で確かめ合ったりできる。

手だてオ 九九表に色を塗る活動を積極的に取り入れて,視覚からの理解を促す
→ 子どもの言葉による「見つけ」を違った角度からとらえさせ,よさにふれる。

手だてカ 学習内容を用いて解く題材を工夫する。例:「11とのかけ算」「九九表ポリオミノ」
→ 上学年での学習内容への橋渡しができる。解く手掛かりとして,学習内容が直接反映される。

(3) 指導計画と手だての位置づけ

【単元構想図】
(6時間完了)
子どもの今まで
  • ① 与えられた課題の中で算数的な活動を楽しみ,正しい答えを出すことに満足している子どもが多い。
  • ② 自分の考えを話したり,文に書いたりすることは比較的得意だが,根拠となる図などを添えて表現することは未習得である。また,練り合いの際,よく聴こうとする意識が全体的に低い。

(支援)☆内容★言語

☆1 表からの見つけが円滑に文で表せるように,九九づくりの際の学習過程を掲示し,参考にするよう促す。

★2 「○の段では」「どの段でも」の2観点(定型句)を示すことによって,自分の見つけがどちらに属するのか考えられるようにする。

☆3 第1時に発表した子どもたちの見つけを取り上げることで,関心をもって調べ活動に取り組めるようにする。

★4 性質にあたる事柄について子どもたちの言葉を用いてまとめられるよう,自由発言を取り入れて,キーワードを探す。

☆5 色をぬって確かめる活動を取り入れることで,算数の持つ美しさを感じ取れるよう配慮する。

☆6 パズルに取り組む際,ピースの数字から表を横に見る見方と1回しか出てこない数字など,既習事項を活用して取り組めるよう,当てはめた理由を互いに伝え合う活動を取り入れる。

子どものこれから
  • ① 算数的活動を通して,自らの手で算数を創り出したり,しくみやよさにアプローチしたりすることを楽しめる子どもに
  • ② 自分なりの考えを具体物の操作やノートへの記述,発言などによって表現する喜びに気づき,友達との練り合いを充実させようとする子どもに

2.授業の実際と手だての有効性の考察

(1) 「何個見つけた?わたし,今,4個!」「ぼくは,5個だよ」(第1時)

学習の対象となる九九の表を自分の手で創り上げることも大切な学習の1つである。5の段を用い,担任の指示棒の動きに合わせて九九を唱えながら,積を順に書き込んでいった。行・列をなぞる指示棒の動きに注目させることで,表の縦と横がそれぞれかけられる数とかける数を表していることを無理なく理解させることができる。

これを基に,残りの段についても全員が正しく81マスを記入できたところで,OpenEnd的な主課題「表にかくれているひみつを見つけよう」を与え,個々の見つけをノートに箇条書きで記させた。初めはとまどっていた子もいたが,以前に習ったことをまた書いてもよいということが分かると,教室横の掲示を見て手掛かりを得ながら記入することができていた。

記入した事柄が増えてくると,「何個見つけた?わたし,今,4個」「えっ,すごい」「ぼくは,5個だよ」などの声が上がる。机間観察をしながら,それぞれの見つけを○つけによって認めていった。このあと,書いた数の少ない子どもたちから順に発表させていき,整理して,次時以降への課題づくりを終えることができた。

【資料3】

【資料3】子どもたちが喜んで書いた「見つけ」

【考察(手だてア・エについて)】
書けた数を競ったり,進んで手を挙げて発表したりしようとする姿からは,「見つけ」は,子どもたちにとって宝物であり,伝えたいという気持ちを自然に喚起させるということが分かった。
掲示に目をやる子どもが見ているのは,①九九の唱えで覚えてない積 ②それぞれの段の構成の際に見つけたことを,どのように文や言葉で表現したか の2点であった。まだノートを十分利用できない低学年の子どもたちにとって,思考や活動のよりどころ(=既習事項の掲示)が存在するということは,活動の停滞を防ぎ,目的にあった活動を促すのに有効である。

(2) 「色をぬってみたら,よく分かって楽しかったよ。」(第4,5時)

第1時で見つけた事柄をきっかけに,一般化(「いつも成り立つ」に帰着)されるものについて,子どもの言葉を生かしながらまとめ上げることが目的である。ここで担任は,①同じ積があることへの気づき ②二つの段の積を縦に加えると・・・・ という意見について,視覚的に裏付けをすることで,算数の美しさ・不思議さを感得させたいと願い,九九表に色を塗る活動を取り入れることにした。

まず,①については,同じ積になる九九を何人かに言わせながら,数色の色鉛筆を用いて塗らせてみた。この作業を通して,第1時の「見つけ」をふりかえり,「ああ,Cさんの言ってた意味が分かった」というつぶやきが起こり,「何かだんだん見つけるのが速くなってきたよね」「斜めになってるもん」などのつぶやきが発せられるようになってきた。ここで,この塗り作業を完了させた図(資料4)を提示し,九九の表の持つ対称性について知らせ,それに気づいていたCをほめた。

このやりとりの中で,子どもたちが改めて見つけたことがある。それは,次の2つである。

  • ○色が塗れないところがまっすぐ斜めに並んでいる。
  • ○2つだけでなく,いくつか出てくる数があった。
【資料4】

【資料4】塗りの完了図

色が塗れない理由については,「かける数とかけられる数を入れかえても同じ式になってしまう」ことを理由に,全員が納得できた。ここで,「いくつか出てくる数がある」ことにも迫ることができると考え,「じゃあ,この9つの数は1回しか出てこないってことかな?」と問いかけた。

  • T   (資料4 白ぬきの数字を指して)じゃあ,この9つの数は1回しか出てこないってことかな
  • C04 五五25は,ひっくり返しても五五25で,1個しかないし,一一が1をひっくり返しても一一が1なので1個しかないです。
  • T   その調子で調べれば,全部1個しかないと思うんだね。(C04 うなずく)
  • C12 九九81とか,八八64とか,七七49も1個しかないけど,六六36はまだあると思います
  • C19 そうそう,だって,四九36だってあるし,九四36だってあるもん。
  • C   16も四四16だけじゃないよ。二八16,八二16。
  • T   じゃあ,36や16になる式はいくつあった?
  • C   3つです。
  • C21 先生,12とかだとさ,4つあるのもある

【資料5】授業記録「同じ答えになる式がまだあるよ」

子どもたちは,初め,9つの数のうちから具体例を挙げながら「答えが1個しかないもの」に目を向けたが,C12の「(六六)36はまだあると思います」との発言を機に,「同じ答えがなる式が3つあるもの」が4通りあることに気づいていった。また,C21の「12だとかさ,4つあるものもある」という発言を受けて,それを探すことに夢中で取り組んだ。(資料5)

教師は,新しいワークシートを与え,同じ答えになる式の数が A.1つ B.3つ C.4つ のものを見つけて色塗りをさせたところ,新たな「見つけ」に関する様々な声があがった。(資料6)

【資料6】

【資料6】ワークシートの完成図(まとめたもの)と子どもの感想

発表も終盤にさしかかった頃,C09が「今見つけたことなんだけど,・・・・」と手を挙げて発表した。「1の段の答えと9の段の答えをたすと,10,20,30っていつも『何十』になっている。2の段と8の段をたしても同じで,10,20,30っていつも『何十』になっている。」と,具体例をあげながら新たな表の見方を提案した。これに,「(表には)ないけど,10の段みたいなもんだよ」と言葉を続けた子どもの発言をヒントに,新しい課題「表の2つの段を縦にたしたときのひみつを見つけよう」が生まれた。図らずも,教科書p.57で扱われている内容に,子どもたちの中からの気づきが追いついたのである。

教師は,ここでも新しいワークシートを与え,取り上げる2つの段を黄色で,縦にたすことによって生まれる新たな段が表の中にある場合は緑色で塗るように指示した。子どもたちは,12通りのパターンを見つけ,それらを発表することができた。教師は,これらをコンピュータを使って整理し,16通りあることを大型テレビに映して確かめ合った。(資料7)

また,子どもたちが九九表を超えてしまう組み合わせがあることにも気づいていたため,それらを整理するため,9の段の続きとして,コンピュータ上で10~17の段を仮想的に作成し,2つの段を縦にたした結果になっていることを確かめた。この時点で,「コンピュータ,計算すごく速いね」などの子どもらしい声が聞こえた。

試しに100の段,200の段へとあっという間に拡張すると,驚きの歓声と笑顔で教室中がわき返った。

【資料7】

【資料7】2つの段を縦にたした結果を提示

【考察(手だてオについて)】
「乗法の交換法則」と「同じ答えになる式」を色塗りによって見つける活動は,九九表に潜む対称性などを明らかにするのに役立った。子どもたちの授業日記への記述からも,その並び方や分布の様子に心を揺り動かされている様子がうかがえたことから,活動が有効であったと感じている。
「2つの段の和」に関する見つけを色塗りによって確かめる活動は,それぞれの和を確かめるという課題というより,単純にかけられる数を見て和が9以内になる数の組み合わせを見つける活動としてとらえられていたと思う。

(3) 「このパズル,むずかしいよ。何かコツがあるのかな」(第6時)

【資料8】

【資料8】テトロミノとペントミノを組み合わせた九九パズル

これまでの5時間の追究で,教科書に掲載されている内容(資料2右側)は一通りおさえてきた。そこで,獲得した知識や考え方を活用できるような教材として,ポリオミノを用いた「九九表パズル」に挑戦させてみることにした。

このパズルは,4つの正方形からなるテトロミノ(5種類)と5つの正方形からなるペントミノ(12種類)に1つの正方形を18個目のピースとして加えて構成されている。(資料8)

初めに,主課題「九九パズルに挑戦しよう」を板書し,しばらく自由に取り組む様子を観察してみた。すると,ほとんどの子どもたちが,1の段を含んで横に並んでいく5つのピースと,かける数が1である場合の残り3つのピース,計8ピースを早い段階で揃えていくことが分かった。それ以後は,まだ埋まっていない部分の九九を唱えながら,残ったピースから「その数字を含むもの」を探して順に当てはめていく,または,純粋に空いている場所に合う「形」を探して当てはめていく作業を繰り返している。これで活動を完了しても,活用の面から十分な学習をしたとは言えない。課題の与え方に工夫が必要だと思い知らされた。

そこで,全員の手を止め,改めて主課題に「『3つの見つけ』を使って」を加え,既習事項である『3つの見つけ』を板書に整理した。さらに,教材提示装置を用い,当てはめるピースを大きく写して知らせながら,当てはまると思った理由を述べさせることにした。

子どもなりの思考も取り入れ,先述の8ピースを置いたところまでを再現し,続きを考えさせる。

【資料9】

【資料9】残り6ピース

9番目として選んだのは,25の1マスである。九九で解くという発想である子どもたちに理由を尋ねても「五五25だから」としか言えないことは容易に想像できた。そこで,「もう25になる九九はなかったかな?」と切り返していく。子どもたちの中には,慌てて積が「二十何」になる九九を唱えたり,壁面の掲示を見返す姿もあったが,「前に,25を赤色で塗ったよ。1つしかなかったから。」というC02のつぶやきから第4時の学習を思い出すことができた。「この仲間は?」という短い質問にも,ノートを見ながら「1,49,64,81」という1つしかない数字の存在を思い起こし,これによってさらに3ピースを加えることができた。この時点で,残りは6ピースとなった。(資料9)

ここで,それまでパズルの経過を示す九九表(資料9)を投影することをいったん中止し,代わりに残りの6ピースを投影した。そして,「(これらのピースは)どの段に当てはまるかな」と補助発問を投げかけ,自由発言の機会を設けた。理由を述べながらの発言が続いた。(資料10)これらを板書にまとめながら,どれにも使われている考え方を問いかけると,下線部のように,第2時に学習した「かけ算では,かける数が1ふえると,答えはかけられる数だけふえていく」ことを使っていること,それを使えば,それぞれのピースがどの段に当てはまるかを簡単に暴くことができるということを見つけることができた。

こうして,ようやくパズルを完成することができた。「もう1回自分たちでやりたい!」という声が上がったので,子どもたちを2人組にし,交互に1ピースずつ当てはめていくことにした。今度は,促されなくても,「3つの見つけ」をどう用いているかを伝え合いながら取り組む姿が見られたことは収穫である。

  • Aは,五二10と二五10だから,5の段か2の段だけど,次が12で,5の段じゃない。2の段。
  • 10の次が12で,2増えているからそこが2の段
  • 12と15も同じで,3増えるので3の段です。
  • Bに16があるけど,四四16だから,4の段。
  • いちばん上にある8に4をたすと12で,またそれに4をたすと16だから,4の段だと思う。
  • 縦に見ると,16から24も4ずつ増えているので,「たての4の段」になると思う。(切り返しに対して)かける数が4のところにはまるってこと。
  • Cは9ずつ増えているところが9の段になる。

【資料10】当てはまる段を尋ねた補助発問に対する子どもたちの発言(抜粋)

【資料11】

【資料11】ピースを当てはめた
理由を述べる2人組の伝え合い

【考察(手だてカ・ウ・イについて)】
新しい題材を取り入れ,子どもたちの興味を高めたり,かけ算九九を違う角度から見つめるよい機会となったとは思うが,既習事項を自然に用いるような展開にならず,結果的に教師の働きかけで導く学習だったと感じる。子どもの思考や「?」に沿ったものでなければ価値は半減だと思う。
様々な言葉による表現が期待できると考え,自由発言を取り入れたり,教師側から3~5人を指名して発表させたりした上で,聞き手である子どもたちに「共通していた言葉や内容」を尋ねたことは,より多くの子どもの関わりを維持しながらも指導のねらいに迫ることばを子どもたちから引き出すことにつながった。
2人組で伝え合うことは,話す機会を確保するという意味では有効である。また,片方の子の話が滞り「困った」ときに,相手とともに解決方法を考えられるというよさが認められた。

3.まとめ(成果と課題)

本実践では,本校の研究「自分の考えをもち,伝え合い,活用する子どもの育成」において有効にはたらく学習活動や教師支援のあり方について,特に伝え合いと活用に焦点を当てて模索してきた。

実践を通して得られた成果(○)と課題(●)を以下に記す。今後も研修と研鑽を積んで,授業力に満ちあふれた,子どもの思考に寄り添える授業者を目指していきたい。

・参考文献 明治図書『楽しい算数の授業』2003.09月号(第229号)p.59~61