1.はじめに
新しい学力観のもと算数の授業もかつての授業からの変換を強く求められている。そこでは,計算力に代表される技能の習熟よりも問題解決による考える力の育成が重要視されているといえる。
問題解決の力をつけるため,端的な方法として文章題解決に力点を置いた指導がなされている。しかし,文章題もその位置づけ(数計算への導入, 数計算の応用,思考問題)をはっきりと捉えて指導することが必要である。
また,算数において数学的表現(数記号による表現)は大切なことであるが,子どもたちの表現方法は多様であり,大人には及びもつかない思考をすることがある。 |
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授業においては,その表現方法を生かしつつ,子ども同士や教師とのコミュニケ−ションを通して日常事象を数理的に捉え,筋道を立てて考え,処理する能力を育てることが大切である。
2.単元構成の意図
(1)教材観
児童にとって除法は初めての体験であるが,日常生活の中では,物を分けていく活動や物がしだいに減少していくことを体験している。算数で考えようとするわり算は,同じ数ずつに分けるものであることをつかませることがねらいである。
さらに数学的には,除法は乗法の逆算であることから,除法と乗法の関係の意識化を図り(□×a=b,a×□=bの□にあてはまる数を求めることが,b÷aとなる)
その上で,2位数÷1位数,3位数÷1位数のようにわられる数とわる数の桁数を増やしつつ除法の筆算を習熟させ,わり算の定着を図っていくこともねらいになる。
特に,ここでは文章題解決と絡ませながら,児童の解決から生まれる発想をもとにして,等分除・包含除の理解を図るとともに計算技能の習熟をもつけていく。
(2)児童の実態
児童の実態を把握するとき,算数の好き嫌い,計算や文章題に対する得手不得手等をアンケ−トを取ったり,実際に問題を解決させたりすることで調べる場合が多い。
「わり算」という言葉から児童はどんなことをイメ−ジするのかを知るため,イメ−ジマップを書かせてみた。(イメ−ジマップは提示された言葉や絵や具体物等から頭に浮かぶものを書き出させ,そのことによって児童の考えていることをつかもうとする方法である)
「わり算」のイメ−ジマップでは,言葉から直接イメ−ジされることを書いているものと,イメ−ジされたことからさらにイメ−ジを広げているものとに分けられる。
多くの児童は,「わる」「しき」「けいさん」「もんだい」「こたえ」をつけており,「わり算」を計算をすることとか文章題の解決に使われるものとして捉えていることがわかる。
(3)指導のねらい
わり算には,等分除と包含除がありその指導の順序が話題になることが多い。ここでは,児童がどのように思考し,思考したことをどのように表現するのかを大切にし,彼らの思考の流れに沿いつつ,わり算の概念を構成し計算の技能をつけるとともにわり算をいろいろな場面に使えるようにすることを大切にして指導をしたい。
(4)授業の実際
1) | 「分ける」ことと「同じ数ずつに分ける」ことのちがいを理解させる。(2時間) |
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問題を児童に意識させるため条件不足の問題や条件過剰な問題として提示することがある。ここでは「あめ12こを分けます。1人分はいくつになるでしょう」のように条件不足の問題として提示した。
児童が解けないということを口にし始めるのにそんなに時間はかからない。
そこでT(先生),P(児童)の対話の中で分ける人数の決定がなされてくる。(ここでは2人として解決を図らせた)
児童の自力解決は右のようなものであった。ほとんどが同じ数に分けることを考えていた。
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解決の検討の場で,「君たちが考えた以外の答えもあるよ」という示唆を与え,児童の思考をゆさぶることによって「同じ数に分ける」ことと「分ける」ことのちがいをはっきりさせた。
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2) | わり算とかけ算九九の関係を理解させる。(1時間) |
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「色紙が56枚あります。7人で分けると1人分は何枚になるでしょう」という問題に対する結果は次のようなものであった。
ア 累加を使った例
1回に7枚ずつ配りその合計を考える
0+7= 7 .....1まい
7+7=14 .....2まい
14+7=21 .....3まい
21+7=28 .....4まい
28+7=35 .....5まい
35+7=42 .....6まい
42+7=49 .....7まい
49+7=56 .....8まい
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イ 累減を使った例
1回に7枚ずつ配り残りの数を考える
56−7=49 .....1回
49−7=42 .....2回
42−7=35 .....3回
35−7=28 .....4回
28−7=21 .....5回
21−7=14 .....6回
14−7= 7 .....7回
7−7= 0 .....8回
8まい
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ウ 絵を使った例
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エ 式で解いた例
56(まい)÷7(人)=8(まい)
オ かけ算九九を利用した例
1のだん
1 2 3 4 5 6 7 8 9
2のだん
2 4 6 8 10 12 14 16 18
3のだん
3 6 9 12 15 18 21 24 27
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7のだん
7 14 21 28 35 42 49 56 63
8まい
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カ 逆算の例
□× 7=56
1
2
3
4
5
6
7
8...56
9 8まい
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話し合い活動を通して56÷7=8という式表示の8をどのようにして決定するのかが議論の対象になった。子どもたちの議論の中で 56÷7で7×{1,2,3,4,5,6,7,8,9}とし,8のときの計算が56になる。そこで8の決定ができることをお互いのコミュニケーションの中で納得しあえた。ここでは,ア〜カの考え方を交流することに止めた。
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3) | 包含除と等分除のちがい(2時間) |
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「積み木12こを次のように分けます。どのようになるでしょう。(1)1人に4こずつ分ける。(2)同じ数ずつ4人に分ける」 問題を提示し解決を図らせた。
絵図・式(累加,累減,乗法の式)を取り出し,違いを強調することで包含除と等分除の理解を図った。
ア)とa),イ)とb),ウ)とc),エ)とd)を対比させ,気づいたことを出し合わさせた。固定されるものが積み木と人,累加と累減,4×□と□×4を見つけた。
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4) | 1や0のわり算(1時間),あまりのあるわり算(2時間) |
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省略
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(5)指導の結果
授業の中で数学的表現(数記号の表現)にこだわると子どもたちの思考は拡がることなく,彼らのコミュニケ−ションはしぼみがちになる。絵に描く,半具体物を使って想いを表現する等,子どもの活動を引き出し,その上で数学的表現(数記号の表現)に高めることを授業として構成することが多くの子どもの思考を促す授業になることが実感できた。
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