1.児童の実態
本学級の児童は算数の時間の基本的な課題に対しては,意欲的で熱心に学習に取り組むことができる。しかし,応用力を要する課題に対しては消極的であり,自分の考えをしっかりと抱いて表現しようとしたり,発表者の考えと自分の考えを比較し積極的に学習に参加しようとしたりする姿が少ない。
基礎基本を身に付け,さらに応用していく力を身に付けさせるための支援,指導の工夫が必要である。そこで,様々な考えを児童から活発に出させる工夫をし,それぞれが考えた問題の解決方法を授業中に取り上げ,学び合い,練り合いをしていく中で,自信をつけさせることに重点を置いて授業を展開していきたいと考えた。
2.テーマ・仮説・手立て
テーマを「自分の考えを表現し,互いに学び合う授業づくり」とし,仮説を立て,自分の考えを持つための手立てを3つ,学び合いの手立てを3つ講じた。
仮説- それぞれが自分の考えを持った後,話し合いを少人数で行うことによって,自分の考えを表現しやすくなるのではないか。
- 自分の考えを持って話し合い,共に学び合う場を適切に確保することによって,互いを認め,共に学ぶ態度を育てることに繋がるのではないか。
(1)自力解決の時間を十分に確保すること。
- 話し合うためには,それぞれが自分の考えを持つことが必要であるので,自力解決の時間を充分に確保する。
(2)既習事項の教室掲示を工夫すること。
- 自力解決の難しい児童には,ヒントカードを与えたり,繋がりのある既習の学習物を掲示しておいたりすることによって,自力解決を図りやすくする。
(3)自力解決の具合を自分で意思表示すること。
- 自力解決の具合をカードを使って自ら表させることにより,個人差のある児童に対して支援しやすくする。
(4)学び合いがより活発になるような問題を設定すること。
- 多様な考え方ができる問題を設定することにより,学び合いの場が活発になるようにする。
(5)少人数での話し合いの場面を設け,自分の考えを表現しやすくすること。
- 少人数で話し合うことにより,自分の考えを表現しやすくする。(ペア発表)
(6)電子黒板を使ってわかりやすく説明させること。
- 相手に自分の考えを伝えるために,絵や図,電子黒板などを使ってわかりやすく説明できるようにする。
3.単元について
6年生は,これまで同分母や異分母の分数の加法・減法,乗数や除数が整数の場合の分数の乗法・除法を学習してきた。そこでは,通分して加法・減法の計算をすること,分数にも整数をかけたり,分数を整数でわったりできることを学んだ。また,帯分数・仮分数での表し方のそれぞれの良さについても学んできている。分数×整数のかけ算の時は,被乗数の分子に整数をかけること,わり算の時は,被除数の分母に整数をかけることを理解している。
今回扱う分数同士のかけ算は,これまでに学んだことをすべて生かすとともに,その計算方法について追究していく重要な学習場面となる。
「分数×分数」の計算は,「分母同士,分子同士をそれぞれかける」ことによって答えを導き出せる。また,「分数÷分数」の計算は「わる数の逆数をかける」ことによって答えを導くことができる。しかし,このことを,ただ単純に,公式のように児童に教えるのではなく,これまでの学習を生かして自分の考えを持ち,友達と学び合い,練り合いをすることによって,なぜこのような解法になるのかというところまで考えさせ,根拠を明らかにさせたいと考える。
4.授業の実際
課題 4/5×2/3 の計算方法を考えよう。6つの手立てを用意し,課題に取り組ませた。特に,以下の3点の手立てに重点を置いて授業を展開した。
○手立て(3)- 自力解決の具合をカード(お助けカード)で表させることにより,個人差のある児童に対して支援しやすくした。表が青,裏が黄色の名刺サイズの色カードをラミネートし用意した。
- 少人数で話し合うことにより,自分の考えを表現しやすくする。(ペア発表)
- 相手に自分の考えを伝えるために,絵や図,電子黒板などを使ってわかりやすく説明できるようにする。
このように学習を進めていく中で,1人の児童が,「先生,こんな方法を見つけました。」とペア発表時に発言した。その考えを聞いてみると,分数の計算なのに整数の計算が並んでいた。全体発表時に詳しく発表してもらうと,下記のような考え方であった。
問:4/5×2/3 ①乗数の分子と分母をかける ②その数を被乗数の分母と分子にそれぞれかける。 ③それぞれのでた数を乗数の分母と分子でわる。 ④答えが8/15となる。 |
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要するに,乗数の分母と分数をかけた数は,その公倍数となり,それを被乗数にかけることとなる。その後また,乗数の分母と分子をそれぞれで割った。という考え方である。
初めは,分母と分子をかけるということが,私にとって目新しく,理解ができなかった。しかし,分母と分子の公倍数であることが理解でき,面白い考えであることに気付いた。
これまでは,このような考え方が児童からでることは無かった。
自分で一生懸命に問題に取り組み,試行錯誤して計算した結果編み出した考え方であった。その考え方を「ペア発表」で隣の友達に発表したことにより,その後,自信を持ってクラス全体に発表することができた。クラス全体が「へえ,すごい!」「こんな方法もあるんだ!」と感嘆することとなった。
5.実践を振り返って
指導の成果- お助けカードを活用することによって自力解決の時間を有効に使うことができ,支援を必要とする児童にとって,安心して学習に臨ませることができた。また,はじめから自力解決できそうな児童にとっても,支援を必要とせずに学習に臨めるために,自信が深まった。
- ペアの友達に自分の考えを説明することにより,全員発表したこととなり,全体で発表する自信となり,意欲づけとなった。
- 全体での発表場面では,友達の考えに驚いたり,共感したり,反応がたくさんあり,考えの認め合いが十分にできた。
- 電子黒板を用いて発表したことにより,視覚的な効果があり,意欲的に発表することができ,また,聞き手も集中して聞くことができた。考えを共有できた。
- お助けカードが黄色の子への支援としてのヒントの内容や与え方の工夫が必要であった。
- 児童同士の考えの学び合いや助け合いの時間をもっととってもよかったのではないか。
- 電子黒板の操作時,間ができてしまうので,発表者と同じ作業を聞き手も一緒に行ってみると時間も無駄にならず,考えの共有につながったのではないか。
実践を終え,児童の変容が見られた。それは,一人一人が自分の考えをしっかりと持つことができるようになったことである。自力解決の時間を十分に確保し,また,自分の考えを友達に紹介し,同じ考えに共感したり,異なった考え方を知ったりする良さを知ることができたからだと考える。そして,それが自信となり,クラス全体で発表する児童も増加し,学び合いが活発にできた。
また,一つの問題に対して様々な考え方があり,それを授業中の学び合いの中に見ることができ,私もうれしくなった。
今後も,自分で考え,その考えを自信を持って発表できるような学習,友達の考えを自分の考えと比較し,児童相互に学び合いができる学習を展開していけるよう指導の工夫を模索していきたいと考える。