1.はじめに

学習指導要領解説算数編「指導計画の作成と内容の取扱い2-(2)」に次のようにある。

(2)考えを表現し伝え合うなどの学習活動

思考力,判断力,表現力を育成するため,各学年の内容の指導に当たっては,言葉,数,式,図,表,グラフを用いて考えたり,説明したり,互いに自分の考えを表現し伝え合ったりするなどの学習活動を積極的に取り入れるようにすること。

これを授業の中で具体化するために,啓林館の算数教科書には「学びを生かそう」という活用のページが設定されている。そこで児童が図や式などを使いながら,自分の言葉で表現しあう授業づくりに挑戦してみたいと考えた。

2.児童の実態と指導の様子

受け持った6年生の児童は,5年生までに数直線図や線分図など,一通りの図の使い方は指導を受けている。しかし,それを使いこなす児童はほとんど見られなかった。また,分数の文章問題における演算決定では,何算ですればよいのか,あるいは,どちらが「かける数」なのかで迷う児童が4割ほどいた。前に出て発表することが苦手な児童も多かった。そこで,本実践の前に,次のような事前指導を行った。

①「分数のかけ算」「分数のわり算」の学習を通して,面積図や数直線図,関係図など多様な図を使って課題を解決させた。

←パワーポイントで作った面積図の枠を,黒板に直接投影し,答えとなる部分をチョークで塗らせる活動の様子。児童にも同じ図をワークシートにして配布し,全員に取り組ませた。

②学習で使った数直線図などを,実際に使えるようにするために,2日に1回程度,文章問題を1問ずつ家庭学習に出題した。その際,どのようにして解いたのか,図や式,言葉などで説明させることで,演算決定能力を高めるとともに,図の使い方や自分の考えを記述することに慣れさせていった。

③ペア,小グループ,全体,挙手全員発表など,伝え合いの形式を工夫することで,一人一人が授業の中で表現する機会を増やした。また伝え合いのルールを次のように設定した。

<伝え合いのルール>

○「例えば,まず,次に,だから…」などの話し始めの言葉を大切にする。

○話し手は,説明を短く切って確認しながら話す。

○話し手は,聞き手が見やすいように図などを指し示しながら話す。

○聞き手は,わからないことがあったら説明の途中でも尋ねて良い。

○聞き手は「あ〜」「なるほど」「相づちや拍手」など,反応を示しながら聞く。

3.実践

(1) 教材

「学びを生かそう・どんな計算になるのかな(分数の乗除の演算決定)」教科書上 P86〜87

(2) 目標

分数のかけ算やわり算の演算決定を用いて問題を解き,その根拠を説明することができる。

(3) 教材について

分数のかけ算・わり算単元からわざと切り離して本教材が設定されているのは,かけ算単元だから「かけ算だ」といった安易な演算決定をしないためである。また,分数のわり算・かけ算の演算決定の根拠を理解した上で解くことを,6年生に求めている。特に言葉の式や数直線図などを用いて,そのわけをいえるようにすることをねらいとしている。

(4) 授業の記録

①分数の文章問題を解くだけでなく,立式の根拠を説明するのが本時のねらいであることをつかむ。
 見通しでは,40秒はこのままでは使いづらいという意見がでた。また,説明方法の見通しでは,数直線,関係図,整数置き換え方法などが出された。

②問題を自力解決する。
 演算決定を苦手としていた児童が多かったが,家庭学習等で数直線や関係図の使い方に習熟していたおかげで,自信を持って問題に取り組む姿が見られた。

③立式の根拠を説明する。
(まずペアで伝え合う)

全員に説明の機会を与えるため,隣同士での伝え合いを行う。この際,自分の間違いに気付いたり,友達の良いところはメモをしたりする。

(全体で話し合う)

数直線,関係図,整数置き換え,それぞれの考えを板書する児童を指名。伝え合いで自信を深めたせいか,意欲的に手が挙がった。
一方,全体の前で説明するのは,板書をしたMさんとは別のK君である。

  • K君は数直線を指しながら,
    「Mさんは,1を2/3にしたいので,1に2/3をかけたんだと思います。ここまではいいですか?」と話し出した。
  • すぐさま聞いていたN君が質問する。
    「どうして2/3にしたんですか?」
  • すると板書したMさんが
    「あ,書いてなかった!」とつぶやいた。
    「40秒間=2/3分間」と書きたかったという。
    教師が板書に付け加えてあげた。
  • K君は「40秒は2/3分間です。ここまではわかりますか?」と説明を言い直した。
  • 教師がさらに突っ込む。「なぜ2/3分間になおすんだったっけ?」
  • 周りの子どもたちが口々に理由を言い出す。
    「だって単位がちがうから」「40秒のまま計算すると,とんでもない数になる」

このように,話し手と聞き手が積極的にかかわりながら伝え合うことで,より確かな理解につながっていく。その後,K君は安心したように立式の根拠を説明していった。

その後,関係図や整数置き換え方法についても同様に板書した児童とは別の児童が発表した。 最後は板書した児童に「○○さん,どうですか?」と確認する。このような他者による説明は,一部の児童による発表会になるのを防ぎ,友達の考えを,自分の事として主体的にかかわろうとする児童を増やすのに効果的であった。

④確認問題を解き,全体で伝え合う。

4.本実践の成果と課題

本教材への取組を通して,児童は数直線図や関係図を用いて説明する技能や伝え合いの基本的な技能を身につけることができた。しかし,習熟した数直線や図以外の考えに広げようとする児童はまだまだ少ない。今後は学んだことを生かして,さらに考えを広げていけるような伝え合いのあり方を研究していきたい。また,効果的な伝え合いを行うためには,児童が自由に意見を出し合えるような学級づくりが不可欠である。受容的雰囲気を持つ温かみのある学級経営のあり方についても研究を深めていきたい。

参考文献:『算数的表現力を育てる授業』 田中博史著 東洋館出版社