1.単元名 『2つの点からさぐってみよう 〜円と球〜』
2.単元目標
〈算数への関心・意欲・態度〉 | 円の形や性質に関心をもち,作図や模様づくりに興味をもって取り組むことができる。 |
〈数学的な考え方〉 | 「まるい形」という感覚を円,球という性質からとらえて考えることができる。 |
〈数量や図形についての技能〉 | コンパスを使って円をかいたり,長さをはかりとったり比較したりすることができる。 |
〈数量や図形についての知識・理解〉 | 円について,中心・半径・直径の意味を知り,半径と直径の関係などの円の性質を理解することができる。 |
3.単元について
(1)児童の実態から
元気で明るく算数好きな子が多く,わかったことをお互いに教え合う姿や,あきらめずに最後まで問題に取り組む真剣な姿勢も見られる。九九の表やかけ算,筆算などの計算にも主体的に取り組み,力をのばす姿が見られた。かさや長い長さの学習では,実際に計測する活動場面で,生き生きと学習に取り組み,学習を自分のものにしていく様子がうかがわれた。授業中には,単純な答えがでるときなどは発言も多く見られ自信をもって学習に臨んでいるが,考える場面では自分なりの意見があっても遠慮してしまう姿が見受けられることもある。
本単元では,学習の理解を深め,幅を広げる上で,必要に応じて算数的な活動場面を設定していく。子どもたちは,活動を通して学習をすることが好きなので,操作することによって学習が進んでいくことに楽しみを感じ,学習にも熱がはいることであろう。操作活動からわかることをとらえ,単元の本質へとせまっていきたい。自分で操作した結果わかったことは,学習を進めていく上でも容易に振り返ることもできる。活動の積み重ねによって理解を深めていきたい。操作によって自分の思い・考えの裏づけを確認し,自信をもって学習に臨めるように配慮していきたい。
(2)テーマから
聞く力とは,ただ単に話を聞くだけではなく,相手の思いに寄り添って耳を傾けることであり,相手の話を自分ごととして受け入れることである。これは,そう簡単にはできないことではあるが,友だちのよさ,自分のよさを意識して感じ取り,お互いの安心感の中で自分をありのまま表出できる雰囲気をつくることが重要になってくる。友だちの考えも大切にしながら,自分の意見にもこだわりをみせ,お互いの意見のよいところをすり合わせて,よりよいものを創り出そうとする心が必要である。このことが共に学ぶことの楽しさを味わうことにつながるのではないだろうか。学校では一人一人が主役で,そして,一人では学校は成り立たず,周りの友だちと支え合って生活しているからこそ楽しいのだということを心と体で感じてもらいたい。安心して生活できる友だちといる空間では,思う存分,遠慮することなく自分を表出することができ,表現方法も多岐にわたってくる。このことが伝える力の育成にもつながっていくであろう。子ども同士が心地よく響き合う空間づくりをめざしていきたい。
(3)指導計画から
本単元では,円という図形を理解するために,点と点の関係をとらえることから導入する。点と点の位置関係,距離関係をとらえるために,離れている2点を作図し点線で結ぶ。この2点の組と同じ距離をもつ2点の組をたくさん自由に作図することによって点と点の距離が一定であることはどのようなことなのかをつかむ。次に2点を作図していたものを,描き始めのスタートの点を1点に集約して描く。書き終わりの点の位置は自由で間の点線は描かない。作業を繰り返すうちに子どもはだんだんと整った形ができあがってくることに気づく。子どもはすき間を埋めようとたくさんの点を打ち始める。この活動によって,円は1点から等距離にある点の集合であるということが子どもの中に概念として生み出される。また,半径や直径,中心などの用語の意味も実感をともなって容易に理解でき,定着が図られる。直径や中心を求める活動にもたくさんの工夫が見られるのではないだろうか。
教師は,子どものコンパスを使えば円は描けるという先入観をうちやぶり,円とはどういう図形なのかを活動を通してとらえられるように支援する。子どもの活動を認め称賛し,子どもが主体的に円の特徴をとらえられるように配慮していきたい。
4.単元計画 (7h)
2つの点の関係を考えてみよう
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1h |
描きやすい方法を考えてみよう
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1h |
円から直径・中心をみつけてみよう
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1h 本時 |
もようづくりをしよう
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1h |
コンパスをつかって長さを測ろう
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1h |
球の形をさぐろう
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1h |
まとめ・習熟 | 1h |
5.指導の実際
(1)本時目標
円の特徴をとらえ,操作活動を通して,円の中心をみつけることができる。
(2)本時の展開
学びの過程 | ・教師の意図,○みとり,評価 |
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みなさんは,どちらのバスに乗りますか
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円のタイヤはなぜスーッと走るのだろう
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○直観から自分の考えをまとめ,自分なりの方法で表現できているか。 ○一点から等距離にある点の集まりが円である既習事項を思い起こしているか。 |
今度は,中心をさがしてみよう
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これなら酔わないぞという中心を見つけてみよう
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紙だから好きに使っていいよ。
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自分なりの考えをみつけた人?みんなの前で説明できるかな?
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○自由な操作活動の中から,問題に対して自分なりの考えをもてる。 |
ひみつへいきを逆に使ったんだね。この方法だとどこを通ってもずれがなく,5cmだね。すごい。2人の大発見だね。
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○一つの方法だけではなく,あらたな考えも追究しているか。 ○より思考を高めたり,広げたりしようとしているか。 ○自分の考え方を,操作を通して確認し,表現することができるか。 |
今日は,中心を求めるときに,折ったり,ひみつへいきを使ったりしたね。直径も半径も中心を通るね
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子どもが「ひみつへいき」と呼んでいる,手製のコンパス
7cm×1cmの厚紙に5cmの間隔で穴をあけたもの
活動1
点と点の関係をとらえる
離れている2点を作図し点線で結ぶ。
子どもが作図したもの
等間隔の2点を点線で結ぶ
点と点の距離が一定であることはどのようなことなのかをつかむ。
活動2
描き始めのスタートの点を1点に集約して描く。
書き終わりの点の位置は自由で間の点線は描かない。
子どもが作図したもの
活動1で行ったことを、始点を1点に集約したもの
作業を繰り返すうちに子どもはだんだんと整った形ができあがってくることに気づく。円は1点から等距離にある点の集合であるととらえる。
活動3
円の中心,半径や直径はどこなのかを考える。
子どもが作図したもの
活動1で行ったことを、始点を1点に集約したもの
中心,半径や直径などの意味の理解ができる
6.考察・成果と課題
(1)本時をふりかえって
単元の導入において,子どもが実感として円の形をとらえるために,子どもがつくった紙のコンパスを利用した。単純な形態で,厚紙の端二点に小さな穴をあけたものである。一点を固定し,もう他方の点に鉛筆を入れて,無作為に順序関係なく点をうっていく。点が少ないうちは図形ができるとは思わない子どもたちもたくさんの点をうっているうちに,「あーっ」と声をあげ,円ができることに驚く。今まで子どもたちは,円をかく時には,なるべく丸くかこうと鉛筆を紙の上でずらしながらかいていたから,そのかきかたがすでに新鮮で,このような活動で円が現れたことに喜びと驚きを感じているのである。子どもたちが秘密兵器と呼ぶこの教具でかける円はスムーズな曲線ではなく,一点から等距離にある点の集まりが結果として円になっているのである。これはまさしく円の定義にあたり,円の概念をとらえるのに有効な活動である。同時に,子どもたちにとっては,自分たちの力で円がかけたことが単純にうれしいようである。
一点から等距離にある点の集合が円であるという性質をとらえて簡単な作図をした子どもたちは,本時では,与えられた円周から中心をさがす活動をする。導入では,最近の関心事である遠足を取り上げ,その時に乗ったバスのタイヤを教材にして,がたがたタイヤと円のタイヤとを比較してどのような違いがあるのか考えるところから始める。実生活の中から円の性質を再確認して学習をスタートさせる。中心を求める方法としては様々な考えがでた。円を切り取って半分に折る。2回以上折ると中心がわかってくる。あるいは学習したことを思い起こして,円をきれいに重ねて半分に折って現れた直径の中点が中心であるという考えもでてきた。さらに,この活動においても前時に行った作図の経験が生きてくる。秘密兵器で中心から円を作図したこととは逆の活動で,円周に秘密兵器の定点を当て中心をさぐるアイデアがでてきた。これも一回では‘ずれ’が生じて正確な中心は定まらないが,二回以上かくと中心が決まる。この意見が子どもからでてきたのは,前時の学習活動が身についてさらに深まってきている証といえる。中心を求めるためのたくさんのアイデアが子どもたちからでてきたのはとても意義深いことであった。今後もコンパスを使って丁寧な作図をしたり,アイデアをいかして模様づくりをしたりと楽しく学習活動を進めていきたい。また,円の学習を発展させて球の概念がとらえやすいような指導計画の作成にも取り組んでいきたい。
(2)研究テーマから
多様な操作活動から学習テーマを追究すること,その活動の中から自分の考えを導きだしまとめることが大きな目標であった。共に学ぶことの楽しさを味わうには,まず,自分の考えを確立することが肝要になってくる。自分自身でねばり強く操作をする中から考えを生み出すためには,子どもが興味をもって学習に取り組んでいく必要がある。本単元では,身近な話題や子どもが新鮮な驚きをもって学習に取り組める学習場面を設定し,こうするとどうなるのかな,もっとやってみようと自分なりの思いをもって追究できるような学習の流れを重視して単元計画を立てた。そのため,どの子もが考えをもつことができた。そして,自分の考えを表現するにあたっては,操作をした具体物が拠り所となり,それを指し示して説明したり,質問したりする姿が見られた。また,どの活動も表現方法は多岐にわたるので,自信をもって話したり,友だちの意見に興味をもって耳を傾けたりすることができ,有意義な学習が展開された。
今後も子どもが自由な発想をもち,追究していく学習スタイルを学級の中へ浸透させ,友だちの意見と比べ,合わせ,高め合う学びの場を保障していきたい。さらに子どもたちがお互いの考えのよさを認め合い,アドバイスしあい,響き合っていく姿をみとっていきたい。