1.はじめに
児童の実態として,算数で学んだ知識や技能が活用されていない現状がある。その理由として,学習の形態が机上だけにとどまり,実際の生活場面での活用が限定されているということから活用を見出せていないのではないかと考えた。
面積の学習では,実測活動を積極的に取り入れてみたいと思う。実測は,測定,作図などの技能を高めたり,図形を多面的に捉えたりするために有効である。また実際に計測することで机上の学習だけでは習得し難い量感覚を身に付けることができたり,生活場面での活用方法を見出そうとする態度を育てたりすることができるのではないかと考え指導にあたった。
2.指導の実際
①実測活動を取り入れた単元計画を立てる。
☆5年面積の指導計画
小単元 | 時数 | 学習活動 |
---|---|---|
見通す | 1 | 単元全体の学習内容を知る。 |
三角形の面積 | 長方形や正方形の面積の求め方から,直角三角形の面積の求め方を考える。 | |
1 | 長方形や直角三角形の面積の求め方から,一般の三角形の面積の求め方を考える。 | |
1 | 三角形の面積を求める公式について考え,公式をまとめる。 | |
1 | 三角形の面積の求め方をもとに,四角形の面積を求める。 | |
生活にいかす① (実測活動) |
1 | 前時で扱った素材を実際に校庭に描き実測を行う。 |
平行四辺形の面積 | 1 | 三角形の面積の求め方や等積変形を使って,平行四辺形の面積の求め方を考える。 |
いろいろな三 角形・四角形の面積 |
1 | 高さが平行四辺形の外にある場合の面積の求め方を考える。 |
1 | これまでの学習をもとに,台形の面積の求め方を考える。 | |
1 | これまでの学習をもとにひし形の面積の求め方を考える。 | |
面積の問題 | 1 | 底辺一定で高さが変化したり高さ一定で底辺が変化する場合の面積の変化の様子を調べる。 |
1 | 式の形から色々な求積の仕方がよみとれることをまとめる。 | |
たしかめ道場 | 1 | 既習事項の理解を深める。 |
生活にいかす② (実測活動) |
1 | 公園の面積を測るために効率の良い求め方を考える。 |
1 | 実測グループを作り,実測する手順の確認や役割を決定する。 | |
2 | 公園の面積を求めるために必要な長さを実測し面積を求める。 |
○面積の学習は公式のみを覚えるといった知識偏重になりがちであるため,求積公式の有用性を実感させるために,三角形の求積公式の学習後と単元全体を学習した後に「生活にいかす①・②」という小単元を設定し,それぞれ一度ずつ実測活動を取り入れた。
②実測活動に適した教材開発をする。
◎教材開発の視点
教材開発を行う上で留意した点として以下の3点を踏まえ調査を行った。
- 児童自身で実測ができる大きさであること。
- 複雑な形ではないこと。(辺が真っ直ぐである,角が曲線ではない等)
- 児童にとって身近な場所であること。
☆身近な公園の教材化
上記3点を踏まえ調査した結果,素材を公園とし,さらに公園の中でも学区内の公園が該当した。
該当した公園は5角形の形で面積は306u,住宅地内にある比較的小さな公園である。【右図参照】
③実践
「生活にいかす①」
T目標
大きな図形でも三角形の求積公式を使って,大きな図形の面積を求めることができることができる。
U実測活動
単元計画4時間目で学習した図形の単位をcm(センチメートル)からm(メートル)に単位を変え実測をし公式の有用性や単位を変えた場合の実際の大きさを体感できるようにした。
◎実測後の児童の主な感想
- 「高さを測るのが大変だった」
- 「大きくて底辺や高さを測るのがうまくいかなかった」
- 「cmをmに変えたらすごく大きい」・「36m2って大きいな」など
「生活にいかす②」
I目標(1/4)
公園の面積を測るために効率のよい求め方を考えることができる。
II実測しやすいように公園の形を分割する。
まず公園の形を正確に捉えるために,辺に注目し平行なのかどうか三角定規を使い確認をした。次に実測しやすいように,五角形の形を分割し,既習した求積公式に当てはめ見通しを持った。分割後,それぞれのグループに分かれどのように分割するのが良いのか話し合いグループでまとめ発表を行った。
結果は三角形を中心に分ける考えが多くあった。【下図参照】単元計画5時間目に行った実測活動が児童にとって強く印象に残っていたと考える。また教科書にも「多角形を実測する際は三角形に分けて実測する」というコラムがあったことから,基本を忠実に守り学習を進めていた。
III自分の考えを決定する。
各グループの分割方法が提示された後,どのように分割したのか,またどの部分を高さや底辺にしたのかグループの代表者が説明した。代表者以外の児童は分け方によって高さの位置や底辺の位置が違うため,計測回数や分割のわかりやすさを聞いていた。
次に,発表された考えから,どれが自分の考えに合っているのか,またどの考えが実測をする上で良いのか,自分に合った考えの図形を選択した。結果は以下の通りである。【下図参照】
IV実測グループを作る。(2/4)
前時の分割方法の考えを元に,実測を行うためのグループを作った。実測箇所の確認,公園での過ごし方等を話し合った。また話し合いを進めていく中で,分割方法を変えたいというグループが出てきたため,新しい考えを取り入れながら学習を進めていった。
※最終決定した分割方法
※丸数字はグループ番号
V実測を行う上で話し合い決定したこと
- 1つのグループを4,5人とする。
- 計測する箇所をグループで話し合う。またどのように計測していくか順番を確認する。
- 垂線に関しては教師が知らせる。
- 役割を決める(計測2〜3名,記録,計算)
- 実測するために必要な道具を話し合う。(巻き尺,探検バッグ,電卓,筆記用具,ノート)
- 実測へ行くためのルールを確認する。(交通安全,公園内でのマナーについて)
- 草や遊具など,計測を行う際に邪魔な物がある場合はおよその距離で計測する。
- 小数第2位以下の数値は切り捨てるようにする。電卓を使って求積をする。
VI実測活動を行う。(3・4/4)
- 担任とT・Tの2名の引率で実測活動を行った。
- 台形の考えで実測した児童は,公園からはみ出た部分【右図斜線部分】の計測がうまくいかず三角定規を使いながら直角を作り計測を行った。
- 実測を終えたグループから電卓を使い求積を行った。早いグループは,約30分程度で計測・求積を終了させることができた。
VII結果を発表する。
正答したグループは6グループ中1グループとなった。考え方は台形を2つにした考えであった。また正答したグループは計測・求積を一番早く終えたグループだった。分割方法を簡単にし計測回数を少なくしたことが正答につながったと考える。
※矢印後の数字は 指導後の解答
VIII実測活動を終えての感想
◎実測後の感想として
- 「答えは違ったけど実際に測ることができて良かった」
- 「自分の家の面積はラッパ公園より小さいとわかった」
- 「大きな形でも三角形の面積の公式を使えば面積を求めることがわかった」
3.成果と課題
○成果
- 単元計画の中に意図的に実測活動を取り入れたことが,量感覚を育て,求積公式の有用性を知り,生活場面での活用方法の一つとして見出せる体験活動となった。
- 実測活動を行ったことで,本実践で扱った素材以外(地域の公園や施設等)の大きさに関心を持つ児童が増えた。
- 実測活動を行ったことで,垂直の取り方や巻き尺の読み方,対角線について等,これまで学習したことをいかすことができた。
×課題
- 5角形という形の素材が偶然あったため実測を行うことができたが,他校で行う場合に丁度良い大きさの素材が 存在しないことがある。
- 本単元を行う際には,最低でも二人の教師が必要であり授業協力者があっての指導となる。
- 公園内の設備(遊具や樹木など)が実測の妨げとなり正確な求積ができなかった。
- 垂線の計測は難しい為,教師が行ったが,児童に任せ学習することで垂線の取り方や直角の考えの理解がより深まるのではないかと考える。