3年

確かな学力を身につける計算力の育成をねらいとした
「かけ算の筆算(1)」の学習

滋賀県彦根市立金城小学校
平中 理恵

1.単元名

かけ算の筆算の仕方を考えよう「1けたをかけるかけ算の筆算」

2.指導によせて

(1)指導内容

本単元において指導する内容は,2位数や3位数に1位数をかける乗法の計算に関わる内容である。本単元では,これらの乗法の計算を筆算でできるようにする。筆算のよさは,位ごとに九九の結果をかきとめ,数を処理していけば,答えを求めることができるという点にある。

しかし,その処理には数の量感が伴いにくい。そこで,単に筆算を用いた形式的な計算技能の習得を目標とするのではなく,お金や数え棒などの半具体物を用いて考えたり,絵や図を使いながら説明したりする活動を通して,意味理解を伴った計算技能の習熟をはかりたい。そのために半具体物や絵,図などを用いて自分の考えを友だちに伝えたり,聞き合ったりする活動を多く取り入れ,意味理解の深化をはかりたい。

(2)子どもの育ち

これまでの学習では,問題場面を絵や図にかいて表す活動を意識的に多く取り入れてきた。発表の場面では,友だちの描いた絵を見て,どのように考えたのかを説明する,という経験も積んでいる。一方で,なかなか分かりやすくすっきりした図がかけない,言葉での表現が苦手である,といった子どももいる。

本単元に関わって,プレテストを行った。この結果から,本単元の学習では,計算技能の習得とともに,計算の意味理解の深化をはかるために,半具体物や絵,図を用いて自分の言葉で表現する活動を取り入れることが有効であると考えた。

3.単元の目標

(2,3位数)×(1位数)の計算の仕方を数のしくみや計算のきまりをもとに考え,筆算で処理するよさに気付く。

(2,3位数)×(1位数)の計算の仕方を理解し,筆算で答えを求めることができる。

4.本時の目標

十の位および百の位に繰り上がりがある(3位数)×(1位数)の筆算の仕方を考え,正しく筆算で計算することができる。

5.本時の展開

学習活動 予想される児童の姿と支援(☆) 評価と
評価方法(※)
1.本時の学習の流れを知る。
@みんなでとく
A自分で考える
Bみんなでとく
C自分で考える
D練習問題を解く
E感想を書く
 
   
2.十の位,百の位に繰り上がりがある計算について考える。
@145×3の計算方法について考える。
【自力解決】
1個145円のパンが3つあります。
全部でいくらになりますか。
問題の数値を書き写し,声に出して読む。
問題の場面を確認し,みんなで立式する。
お金の模型を操作したり,絵や図などをかきながら計算の方法を考える。
前時の学習を想起させる。
解決の糸口を見つけられない子には,お金の模型の操作と計算をつなげて考えるよう,ヒントを与える。
(考)
自分なりの考えで解決することができたか。
ワークシート,机間指導による見取り
   
【集団検討】
考えた計算の方法を発表し,聞き合う。
発表ボードを使い,黒板への提示をしやすくする。
考え方に共通点はないか考えさせる。
筆算の方法を知り,ワークシートに書き写す。
 
   
A308×4の計算方法を考える
1ふくろ308円のなしがあります。
4ふくろ買うと何円になりますか。
問題の数値を書き写し,声に出して読む。
問題の場面を確認し,みんなで立式する。
筆算で答えを出す。
十の位が空位であることに気付かせる。
145×3の計算の仕方をヒントにして考えていくようにさせる。
答えを確認する。
前でお金の模型を操作し,1000のかたまりを確認する。
筆算の方法を知り,ワークシートに書き写す。
 
   
練習問題を解く
254×3,403×609×4を解く。
隣同士で筆算の手順を説明し,確認し合う。
筆算の仕方をみんなで確認する。
(表)
問題を筆算で解くことができたか。
ワークシート
3.今日の学習をふり返る。
確認の問題を解く。
学習感想を書く。
 

6.考察

(1)単元指導計画の工夫

@場面や数値の工夫

初めは,お金の模型の操作の方が子どもが身近で扱いやすく,位ごとの操作のイメージもしやすいと考え,問題文を「1つ12円のチョコレートを4個買いました。全部で何円になりますか。」とした。

また,操作に慣れてきた単元途中(指導計画3〜5時間目)で,お金ではなくものの個数や人数を扱う場面を設定し,既習事項を使って考えるようにした。さらに,(3位数)×(1位数)になる時間(指導計画7〜9時間目)には,抵抗が大きくなるであろうと考え,お金を使って考える場面に戻すなどの工夫をした。

A同じサイクルの学習を通して子どもを鍛える工夫

本単元の学習においては,どの時間においても同じサイクルの学習展開ができるよう考えた。サイクルを固定することにより,子どもたちは安心感をもって学習に臨むことができる。この学習のサイクルについては,別の項で詳しく取り上げることとする。

B新しい発見への感動がある展開の工夫

1時間の学習については,同じサイクルで展開できるような工夫をしたことは,前述の通りである。単元を通しては,その時間ごとに前時とはちがう新しい発見があるような構成を考えた。「よく似ているけれど,ちょっとちがうぞ。」「なんだか,ちょっと難しく感じるな。」という思いから,「あ,今日は答えが百の位までになった!」「くり上がりが2回もあった!」といった思いをもつことができるよう,教材の配列を工夫したり,授業中の子どもへの言葉がけを工夫するなどした。

(2)学習サイクルを習得させる

「わかる・できる・用いる」という学習の流れを授業に取り入れた。

@
既習内容を用いて,本時の学習課題の自力解決をはかる。
(用いる)
A
全体交流で課題解決の方法を説明したり,説明を聞いたりする。
(わかる@)
B
筆算の方法について知る。
(わかるA)
C
練習問題をとく。
(できる@)
D
ペアで説明し合う。
(できるA)

このような一連の学習を進める上で,特に大切にしてきたことは二つある。

(1)説明の仕方の習得
説明の方法を習得すること,さらにそれを洗練させていくため,単元の導入時には,モデルとなるような子どもに発表させ,それを写させる,またはその説明をまねして言わせるなどの活動を取り入れた。こうすることによって,子どもたちは自分自身が一番すっきりする方法を選んで説明ができるようになった。

(2)発表場面での支援

【発表ボードの活用】
 説明には図を用いる子どもが多く,発表ボードを準備し,それにかかせて発表することで,よりスムーズに発表ができるのではないかと考えた。さらに,説明がかかれた発表ボードを順番に出していくことで,子どもたちの中にも「次はどんな方法かな。」などの期待感を持続させる効果もあった。また,説明を分類し,板書を整理していく際にも有効であった。

【話し合いの進め方】
 一人の子どもに説明させた後,別の子どもに同じ説明をさせる,ほかの子どもがかいた発表ボードを見て,別の子どもが説明するなどの方法を取り入れた。このことにより,言うだけ・聞くだけの時間ではなく,比べながら聞く,考えながら聞くという時間になるのではないかと考えた。

(3)位に分けて考える手だて

筆算のよさは,どのような数値でもその大きさを無視して,位に分けて数を機械的に処理し答えを求めることができる点にある。このように,位に分けて考えればわかりやすい,ということを子どもたちが実感できるようにするため,を使った数の表現を取りいれた。このことにより,「が3×4,が5×4,が2×4」という説明が視覚的にわかりやすく表現することができるであろうと考えた。

(4)筆算手順を唱える

筆算の唱え方を統一して指導することで,計算力の定着をはかった。また,学習サイクルDでは,隣同士で筆算の唱え方について確認し合うようした。

(5)ワークシートで学習する

ワークシートを用いる利点は,いくつか考えられる。

一つ目は,子どもがその時間の学習の見通しをもちやすいことである。ワークシートを見れば,どれくらいの量の問題を解くのか,どのような学習があるのか(説明をかく,ペア学習をするなど)といったことをある程度予測できる。それによって,学習に対する不安を取り除き,「できそうだ。」「がんばろう。」といった前向きな気持ちをもたせることができるのではないかと考えた。

二つ目は,活動量の確保である。ノートによる学習であれば,文章問題を写したりノートの使い方を指導したりすることにも時間を使わなければいけない。しかし,ワークシートであれば,その時間はある程度減らすことができる。その時間を自力解決やペア学習などの活動に充てることで,活動の量を確保したいと考えた。

三つ目は,毎時間の評価を効果的に行うことができることである。机間指導中の短時間に子どもたちの状況を把握しやすくなり,個に応じた支援がしやすくなった。

ワークシートでの学習は,数値を書いておくと次々に進んでしまう子どももいると予想されたので,最初は数値を入れていない状態で子どもに渡すようにした。

(6) 家庭学習を工夫する

本単元の学習を進めるためにはくり上がりのあるたし算や九九は基礎となる部分である。

そこで単元に入る前から,家庭学習でこの二つについて計算練習(音読計算)に取り組んだ。また,本単元の学習に入ってからは,ドリルによる計算練習のほかにその日学習した内容について考えや筆算の唱え方をかく課題を家庭学習として取り組むようにした。

(7) 児童の変容


↑K児@

↑K児A

右は,K児の説明の変化である。@は1時間目,Aは3時間目の学習時のものである。AをかいたときのK児のふり返りに,次のようなことが書かれている。

今日の問題は,普通のたし算でなくて,Mちゃん方式のほうがすっきりしたから,そっちにしました。

ここで出てくる「Mちゃん方式」のいうのが,位ごとに分けて計算するAの方法である。1時間目,2時間目の学習で友達の発表を聞き,位ごとに分ければ計算も説明もわかりやすくできることに気がついた。

(8) 単元末評価テストからみえる課題

左の計算で,十の位の計算を答える問題では,20×3と答えるべきところを2×3とする子どもがいた。筆算では2だが,この2は20のことだということが捉えにくいようである。

ほかには,(167×8)に正答率が66.7%だった。3回繰り上がりがあり,しかも8×6をして48+5を途中でする計算である。複雑になるにつれて正答率が目に見えて落ちてしまうことがはっきりした。


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