1.はじめに
現在,学力低下の問題が叫ばれて久しく,各校の先生方もそれぞれに「どうすれば力がつくか」「どのような力をつけるべきなのか」思案されながら,日々の実践に取り組まれていることと思います。また,知識・技能に偏った指導の繰り返しがいわゆる「算数嫌い」な児童を生んでしまうことも,長年言われ続けてきました。
そこで,稚拙ではありますが,算数科の学習において児童にどのような力をつけるべきなのか,それを楽しみながらつけるにはどうすればよいのか,提案させていただきます。
2.普段の授業で大切にしたいこと
長年言われ続けていることですが,算数科においては「数学的な考え方」を明らかにしていくことが,最も難しく,最も大切な課題であると考えます。もちろん「知識・技能」は大変重要で,思考面の指導だけで全ての児童に学力を保証するというのは不可能でしょう。大切なことは,「数学的な考え方」を生み出すための土台として「知識・技能」をつけておくという視点に立つことだと思います。これは「関心・意欲・態度」についても同様で,「ただ活動することが楽しかった」ではなく,「すっきりさせたくなった」「もっと分かりやすい考えが見つかった」など,「数学的な考え方」を生み出すことに関係した関心・意欲・態度を大切にすべきだと思います。
3.算数の「考える力」
算数科における「考える力」とは,課題の形成や解決に向けて「数学的態度」を働かせ,自分のもつ知識・技能,生活経験などから「数学的な考え方」を生み出し,課題を解決したり次の課題を見つけ出したりする力であると考えます。私たち指導者は,この「数学的な考え方」をいつも明らかにしながら授業に臨むことが大切ですが,これがなかなか難しいのです。片桐重男氏は,これを方法的・内容的なものという二つに大別してとらえておられます。
これらを参考に,次のような授業を行いました。右のように,教科書(4年下)に登場する,段数の増加とまわりの長さの関係を考える問題です。この場面について,最初から教科書を見せるのではなく,黒板に提示しながらワークシートで考えさせていきました。
最初の課題は「まわりの長さは?」とし,4段までの周りの長さを考えさせました。多くの児童は周りの辺の本数を数えていましたが,下方の「→10だん」というところを見て,実は何かきまりがあるのではないかと考える児童もいました。そこで,周りの長さを発表させてから,4段までのところで気がついたことはないかと問いかけました。始めは,横の関係(4cmの2倍,3倍となっていく)についての気づきが発表されていきましたが,次第に周りの長さが(もとにする数である4)×(段数)でもとめられるという,縦の関係に気づいていきました。自然と「10段のときの周りの長さも,すぐに分かるよ。」という児童のつぶやきが生まれたので,次の課題を「10だんのときは?」と設定しました。児童がイメージし易いよう,黒板の右側に10段の縦横部分のみ提示しておきました。表にあてはめながら,児童は10段のときの周りの長さや,変わり方のきまりの式化について考えていきました。
指導書には「一方の値が変わると,それに伴って他方の値も変わる2つの数量に気づくことが,関数的な見方の第一歩となる。」と書かれています。今回の数学的な考え方の「内容」に関するものは,この「関数的な見方」でしょうが,「方法」に関するものは何なのでしょうか。片桐氏は,次のように述べておられます。
帰納的な考え方とは,次のような考え方である。
(1) |
幾つかのデータを集める。 |
(2) |
それらのデータの間に共通に見られるルールや性質を見出す。 |
(3) |
そのルールや性質が,そのデータを含む集合(変数の変域全体)で成り立つであろうと推測する。 |
(4) |
この推測した一般性が真であることをより確かにするために,新しいデータで確かめる。 |
・・・帰納的な考え方は,それが有効な場面でさせることが大切である。すなわち,帰納的に考えるよさを分からせることである。・・・ |
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これは,今回の授業の展開そのものであると言えます。つまり,「関数的な見方」を学びつつ「帰納的な考え方」も学んでいくという,数学的な考え方の内容面・方法面両方についての学習であったということです。
授業終末に児童は「いちいち数えていたのでは,段数が増えたときに大変だ。幾つかのデータからきまりを見つけて,それに当てはめる方が簡単で速い。」という意見を発表していました。これは,帰納的に考えるよさを味わえたことの証しであろうと思います。終わりに,「これって,何段になっても使えるんだよね。100段になっても? 数えようと思っても,100段だともう大変すぎるよね。」という話もしました。後で児童のノートをよく見てみると右のような記述が…。これは,帰納的な考え方の簡潔さを,意欲的に確かめている姿であると思います。「いつも使える」ということを味わっているのでしょう。
以上の例では,何とか「数学的な考え方」の中身を明らかにできたのですが,このように見ていくことで,児童につけたい力やそのための授業が見えてくるように思います。
4.課題意識が湧く導入の工夫
児童にとっての課題は,ありきたりなものではなく,できるだけ意欲が湧く具体的なものでありたいと,指導者ならいつも考えたくなるものです。「もっと簡潔・明確なものにしたい」などの数学的態度を働かせるという意味で,楽しいものにしたいと。なかなか上手くいかないこともありますが,今回は児童が意欲的に取り組もうとした課題や導入を幾つか紹介します。
班の分のテープをmで表すには?
4年生での,分数の導入です。教科書と少し違い,自然と「はした」が出るようにしました。 1メートルのテープを4等分し(一枚25cm ),それを一人一枚ずつ持って歩き,他の班の友だちとジャンケンします。勝ったら相手からテープをもらいます。時間内で,班の合計がどれだけの長さになったかを,mで表すよう伝えます。結果を発表し合うなかで,「1mを四つに分けた二つ分は4分の2mになる」ことなど,児童の生活経験の中にある分数が自然と登場してきました。
同じく分数の学習で,真分数,仮分数の意味理解を図る際の課題です。教科書をそのまま使ってやるのも楽しいのですが,あえて教科書は開かず,その数値だけは使いながら「小さい順にならべてみよう」とよびかけて,取り組ませていきました。数値をランダムに示して考えさせることで,3分の3や5分の5を1にしていく必然性がもて,曖昧・複雑な状態を簡潔・明確にしたいという態度がよく働いていたように思います。
これも,教科書の数値を使いながら,最初教科書は使わずに数値のみ写させます。そして,「この9この分数は,変身できるの?」と問いかけ,仮分数を帯分数や整数に,帯分数を仮分数に「変身」させていきました。また,答えだけではなくその方法(やり方のひみつと称して)もノートに記述させ,その関係について話し合わせていきました。「帯分数に直す→仮分数に直す」という具合に指示通り取り組むよりも,これはどちらの変身になるのかと考えていく方が,児童にとって意欲的に取り組める設定となったようでした。中央で分けて板書することで,帯分数・仮分数それぞれへの変身の方法は表裏の関係になっていることも,気づき易くなったようでした。
(4) |
広さをくらべて,どれが一番広いかはっきりさせよう |
面積の導入場面です。教科書の場面設定をほぼそのまま使い,広さの順位をはっきりさせるためにグループで画用紙に考えをまとめさせました。課題を具体的な言葉で示すことで,児童はより意欲的に解決に臨み,小グループ→全体へと話し合いの場を広げていきました。
以上のように,教科書に掲載されている内容について,指導者のねらいや児童の実態に合わせて一ひねりすることで,より楽しく,思考を促す授業になるように思います。
5.自己評価力のために
児童に,自分にとって今日の授業はどんな意味があったのか,今日の成果などは何なのか考えられる子になって欲しい。このことは,児童が学び方を学ぶという意味において,また,成就感を得るという意味においても非常に大切な視点であると思います。このように児童が自己評価をする力を,授業でどのようにつければよいのでしょうか。
私のこれまでの実践では,
(1) |
授業の最後に,児童自身の言葉で自由に分かったことを書く時間を設定する。 |
(2) |
それらを聞き合わせ,まとめとなることを発表させる。(はじめは難しいですが)という流れで自己評価や授業のまとめを行なうことが多いです。 |
まず,自分の言葉で今日の授業を振り返るということが,時間はかかりますが自己評価力を鍛える一番の近道であるように思います。一方,これらの記述から教師が児童を他者評価したり次の授業を考えたりすることができるという利点もあります。どちらにせよ,必要不可欠であることは間違いなさそうです。
普段の授業で児童が「楽しく力のつく学習」になるようにと,稚拙な実践例を紹介してみました。今後も「今日の数学的な考え方とは何か」を,明らかにしながら取り組んでいきたいと思います。(文責 吉栖 和哉)
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参考文献: |
片桐重男著「数学的な考え方を育てるねらいと評価」(明治図書) |
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