5年
既習事項を大切にした三角形の面積の指導     
〜第一時から三時まで、導入場面の数値をそろえた展開〜       
港区教育研究会算数部(東京都港区立青山小学校 高橋 丈夫)
1.はじめに

 啓林館の教科書では,この単元の学習は,直角三角形を長方形の半分とみて,求積するところから始まる。次に,直角三角形を背中合わせに2つ合わせたものとして,鋭角三角形の面積を学習する。最後に,大きな直角三角形から小さな直角三角形を引いたものとして鈍角三角形の面積を学習し,三角形の面積の学習を終える。

 この展開の難しいところは,鈍角三角形の扱いである。具体的には,以下の点が,子どもたちにとって難しい。

  (1) 鈍角三角形の高さを認めること

  (2)

 公式にまとめること

2.工 夫

 そこで本実践では,次のような工夫をした。

  (1) 教具の工夫と動的な扱い

 本時では,上の図のように,長方形ABCDの底辺BCと向き合う辺AD上から,BCを底辺とした三角形PBCの頂点Pが飛び出た場合,面積はどうなるだろう?という問題を,下の写真のような教具を用いて動的に扱い,導入した。その際の子どもの反応(つぶやきも含む)は次のようなものであった。

T:底辺は動かさない,高さも変えない。さて,三角形の頂点は,この間(AD上を指でなぞって)にしかないでしょうか?新兵器登場(底辺が固定で高さが動いていく教具)。徐々に図のように高さが外へ飛び出ていく。

C:

ああ

C:

飛び出るんだね。

C:

飛び出るなんて知らないもん

C:

ずるいもん

C:

こんな三角形もあるんだ

C:

ああ,いくつでもあるね,そういう三角形

T:

そうだね,今日は1cm飛び出た時の三角形の面積を考えます,これが今日の課題です。

  (2)

 単元の指導順序の変更


 子どもたちは,a×c×1/2―b×c×1/2=(a―b)×c×1/2という,「差の分配法則」に困難性を示すようである。そこで,単元の指導順序を変更し,「式と計算」の単元を「面積」の単元の前に学習した。


  (3)

 数値の固定


 全ての授業の導入問題に6cm×4cmの長方形に直すことのできる三角形を用いた。数値を固定し,「公式化をスムースにする工夫」をした。これによって,「底辺と高さが今までと同じで変わっていない」ということから,面積の予想がつく。ここで問題になるのは,底辺BC,高さPHを用いて,底辺×高さ÷2として,よい理由である。この理由を考えていく中で,公式化が進んでいくと考えた。

3.授業の実際

  (1) 課題の発生

 課題を把握した際の様子は,「ずるいもん」の発言に代表されるように,子どもたちにとって,鈍角三角形はなじみの浅いものであった。鈍角三角形の場合,高さが三角形の外部にある。この日常的な意味の高さと異なった高さを,底辺との関係の中で認めていくには,それまでの指導の中で,三角形は,垂直関係にある底辺と高さで面積が求められるということを,しつこいほど確認しておくことが大切と考えた。

  (2)

 自力解決と求積公式ができるまで

 最初に出てきたのは,底辺と高さの位置を変えて,鈍角三角形を鋭角三角形とみて,考えるというY児の意見だった。この考え方を用いて求積した児童は,Y児以外にも3名ほどいた。また,前の時間の学習から,A子は底辺×高さ÷2で面積が求められることを主張したが,理由が上手に言えずに,他の児童には受け入れてもらえなかった。A子は,自分の考えについて,学習感想の中で次のように述べている。「私が考えていたのと最後は一緒だったけれど,その前に『分配法則』があった。」

 さて,ここからが本番である。面積の値は12cm2になるらしい。でも,いちいち三角形をひっくり返すのは嫌だ。M子は,鋭角三角形に直す考え方に対して,「わかりにくいし面倒くさい」と素直な意見を投げかけていた。

 ここで,教師からの「この三角形は,いちいちひっくり返さないと面積を求めることができないのかな?このままでは面積は求められないのかな?」という発問に,子どもたちがもっとよい方法を?と解決を深めていく。数分間の自力解決の後,Y子とE子が自分の意見を発表した。それは,下のようなものであった。

C:このままじゃあ,計算しにくいから,もう一つ直角三角形をつけて,ここが4cmで,ここが1cmで,ここが6cmだから,7cm,7×4÷2,でもここの直角三角形は本当は無いもだから,ここの直角三角形をひきます。それで,7×4÷2―1×4÷2=14―2=12です。質問はありますか?

C:

わかりやすいです。

C:

わかりやすい

C:分配法則

C:

分配法則,で具体的には?

C:

4を1個置いておく。

C:

4と2を置いておいて,(7―1)×4÷2
 そして,教師の「この式を見て何か気がつくことがない?」という発問の後,K児の右のような意見が出た。

 この後,「高さが1cm飛び出た場合でも,底辺×高さ÷2で,面積を求めてもよいことがわかったよね。でも,この場合だけかもしれない。もしかしたら,2cm飛び出た場合,3cm飛び出た場合はだめかもしれない。それを確かめよう」という教師の発問で,子どもたちの問題解決は続いていった。

 この際の子どもたちの反応は,「まかせろ」や「俺も簡単にできる。」等,意欲にあふれたものであった。また,この自力解決の中では,「2cm,3cm飛び出たときも,普通の三角形と同じように,『底辺×高さ÷2』っていう公式が使えるよ,先生」や,「できたら,4cmをやってもいいですか?」,「あれ,先生面積が全部一緒だよ。なぜだろう?」「全部12だ。なぜだろう?」などの意欲的な反応も見られた。この質問に対し,「その理由も考えるように」問うと,子どもたちからは,下のような反応が見られた。

C:ええと,簡単な式を見て,注目して欲しいのは,ここがいつも6です。7−1も6,8−2も6,9−3も6です。だから,全部の式が,底辺と高さが一緒で6×4÷2になるから,答えが一緒

C:

そうか

C:

どの三角形でも,高さが4で,底辺が6だから,面積が同じになる。

 最後に教師が,「底辺と高さが同じ三角形は,どんな三角形でも面積は同じだね。それから,みんなは,飛び出ていようと,そうでなかろうと,底辺と高さがわかっていれば,どんな三角形でも面積を求めることができるんだよね。」とまとめて授業は終わった。


4.考 察

 教具の工夫により,子どもたちは鈍角三角形という三角形を容易に意識することができたようである。
C:このままじゃあ,計算しにくいから,もう一つ直角三角形をつけて,ここが4cmで,ここが1cmで,ここが6cmだから7cm,7×4÷2,でもここの直角三角形は本当は無いから,この直角三角形をひきます。それで7×4÷2―1×4÷2=14―2=12です。質問はありますか?

C:

わかりやすいです。

T:

そうだよね,で,これ見て何か気がつくことない?

C:

はい,分配法則

T:

分配法則,で具体的には?

C:

4を1個置いておく。4と2を置いておいて,(7―1)×4÷2
これは,M子の「今日の授業はとてもよくわかった。」やE子の「はみ出た三角形の出し方がよくわかりました。みんなが来て緊張した。」という学習感想からもうかがい知ることができる。

 最後に数値を固定したことにより,「あれ,先生面積が全部一緒だよ。なぜだろう?」とか「全部12だ。なぜだろう?」などの発言が生まれた。このことによって,三角形の面積は底辺と高さできまる,ということの理解が深まり,鈍角三角形も底辺と高ささえわかっていれば,面積を求められることの理解を深めるよい機会をえることができたと思われる。

5.おわりに

 子どもたちは,『既習の図形に直せないか?』,『直角三角形を利用できないか?』,『本当に公式を使っていいのか?』といったことを考えながら,集中し,時には額にシワを寄せながら課題の追求を進めていった。その様子は下のような学習感想からも知ることができる。

 べつに1cm飛び出しているといって,こだわらないで普通に三角形の面積を求めればいいのか(Y子)


 今日のみんなの意見を聞いて,あたりまえのことが大事だと思った。(A子)


 今日はちょっと難しかったけれど,理由を言ったときに,『なるほどー』とわかった。(T子)


 面積が同じなんだろうということをやって,簡単な事で面積が同じという事がわかりました。(E子)


 どうして,3つとも同じ面積かは,飛び出した部分を引いて,全部6になるから(7−1)×4÷2で12だということがわかった(S子)

 「高さ」の認識が「日常的な高さ」から「算数的な高さ」に変わるということは,とても難しいということを,再認識した。事後調査からも,「『高さ』は三角形の『底辺』とくっついているものである」と答えた子どもが2人ほどいた。29名中の2名,割合に直せば7%弱だが,「高さ」に対してのおさえが弱かったように思われる。高さに対する認識を高めることが,今後の課題である。

 最後になったが,港区の先生方他,一緒に研究を進めて下さった先生方,本当にお世話になりました。ありがとうございました。

〈参考文献〉

 小学校学習指導要領解説 算数編 (文部省 平成11年5月)


 山本 直:今月の指導『四角形と三角形―公式の活用を通して,関数的な見方を育てる―』
新しい算数研究No344(1999)東洋館出版社


 指導書 算数 5年下 第2部詳説 朱註と解説 啓林館



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