比の3用法の指導では,「問題文の意味が捉えられない。3用法の相互の関係が理解できない。」等で,子どもたちが学習の内容を理解する過程において,困難を伴う。そこで,「○○の・・・といったら掛け算。」として,□を使った式に問題の内容を当てはめさせる指導をおこなうことが多い。また,小数の乗除の計算がまだ正確におこなえずに,理解を妨げている場合も多い。そのため,子どもの気付きを重視するために,単元全体で小数の乗除の計算と表と線分図を多く取り入れ,割合の見方や考え方を指導する方法を試みることにする。
ワークシート(3)
定価 | 1000円 | 2000円 | 3000円 | 4000円 | 5000円 | 6000円 | 7000円 | 8000円 | 9000円 |
売値 | 600円 | 1200円 | 1800円 | 2400円 | 3000円 | 3600円 | 4200円 | 4800円 | 5400円 |
上の表は,第3時間目の「定価9000円のネクタイを5400円で購入したときの割合を百分率で求める学習」で使用する表である。割合の見方や考え方を育てる指導として,4年「2つの数量を関係付ける。」(本年度に限って,5年「公倍数」の学習内容が既習である。)学習を既習事項として,定価と売値のどちらも変化させ,2つの数量の関係をつかませる。
そして,1000円から9000円までの全ての2つの数量の対応関係をつくりだす。第一時間目で割合の見方や考え方を学習しているので,(売値)÷(定価)=0.6になることは,理解できる。しかしながら,まだ,「何故このような計算をするのか。」については,十分に定着していないと思われるので,左の表のような計算を多くさせる。そして,小数0.6と60%とが結びつくことを気付かせることによって,全体の構造がわかり,「割合としての百分率の意味」が身につくようになる。このような計算をする活動によって,60%までの理解に至らなくとも,0.6が何かしらの意味を持つ数値であると考えるようになる。
しかしながら,今までおこなわれていた指導方法の多くは,9000円と5400円を使って,公式に数値をあてはめすぐに計算し,2つの数量の関係をどうみるかという見方を指導が多かった。そのため,割合の考え方の理解が得らないままに,比較に入り,さらに学年が進むにつれて,関数の考え,関数の見方や考え方に発展してしまうのである。「割合」の学習は,〔A 数と計算〕領域と〔D 数量関係〕をつなぐ学習内容である。したがって,多くのデータを計算によって数値化する活動を通して,2つの数量の関係を考察する場を多くつくる指導が大切である。
一方,2つの数量の関係を考察するために,子どもたちの既知の経験から得られる100%,50%,0%に対する感覚を引きださせる指導が大切である。
定価 | 9000円 | 9000円 | 9000円 | 9000円 | 9000円 | 9000円 | 9000円 | 9000円 | 9000円 | 9000円 | 9000円 |
パーセント | 0 | 10 | 20 | 30 | 40 | 50 | 60 | 70 | 80 | 90 | 100 |
売値 | 0円 | 900円 | 1800円 | 2700円 | 3600円 | 4500円 | 5400円 | 6300円 | 7200円 | 8100円 | 9000円 |
そのためには,まず,9000円の100%,50%,0%に対する数値をつくり,この2つの数量関係をもとにして表の全ての数値をつくりだす学習活動が可能になる。そして,上下の表の9000円と5400円の部分をつなげる。この際, 9000×1=9000 のように,全体を1(つ)とみる考え方, 9000の半分は,4500で,0.5という考えは,割合の考え方の基礎として,極めて重要である。
先の計算式とこの表をつなげる指導により,子どもは0.6=60%に気付く。さらに,上記のような複数のデータによる数値化・抽象化の活動から,表の一部を取り出し,線分図に表すことで,「もとにする量」「比べる量」「割合」の関係を身に付けさせていくこともできる。
この資料の場合の指導は,比の第1用法の学習に相当するが,同じ資料を使って,定価を求める問題にしたり,売値を求める問題にしたりする学習を繰り返すことによって,公式に当てはめさせるための指導ではなく,割合の見方や考え方を身に付けていく指導をすることができる。
割合の見方や考え方を表現させるためには,線分図を使って表現させる必要がある。表の2つの数値に,数量の大きさを加えた図が,線分図であると解釈できる。
したがって,全体である9000円を 9000×1=9000 を使って,「1」を決めて表したあとに,5400円を求めるために,「?」を使って割合を表すようにさせる。
そして,このような表と線分図を結びつける活動を多くする指導形態を取る。
さらに,上のような式を,表の一部と線分図からつくり出し,「?」の場所を入れ替え,整数・小数の乗除の計算をすれば,今までの既習事項を活かし,役立てることができ,比の第2・第3用法の学習内容を身に付けることになる。
ワークシート(6)
比の第3用法の指導(第2用法とどのように結びつけて指導するか)
比の第3用法の指導は,困難を極めるとされる。そこで,何故指導が難しいのか,何故子どもの理解が困難なのかを,第6時の(消費税込みの品物の値段)素材を使って説明する。本時の素材は,b;「遠足のおやつを消費税込みで500円まで購入できる。」という問題である。比の第2用法なら,a;「おやつを476円分まで取り,消費税を加算し(476×1.05)500円で購入する。」となる。しかし,子どもは,消費税は定価と別である経験を持っている為,a;「おやつを500円分まで取り,…。」とし,考察する。
<比の第2用法と比の第3用法の違い>
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a; | 子どもたちの思考は,「既に500円という金額が存在し,おやつを500円分購入した後,消費税分を加算(結果)」し,支払うとなる。 |
b; | 子どもたちの思考は,「支払う金額(条件)が既に500円と示されていて,幾らまで購入できるか。」と考えることになる。 |
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両者を比較すると,
aは,決定問題ともいえる結果(買い値)を求める問題である。
bは,証明問題ともいえる結果から条件(定価)を導く問題になる。
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したがって,操作の手順で考えれば,まさに逆思考になり,時間的な経過を考えれば,未来と過去にあたる。そのため,「振り返ってみる。」という活動が子どもにとって理解できれば,困難は解消し,「振り返ってみる。」という指導ができる。つまり,決定問題と証明問題といった逆試行であるが,逆から見れば同じであるという見方を変えるだけで,「同じと見られるという指導」ができれば,指導は難しくなくなると考える。
そこで,前に記述した以下の表と式を使って,比の第2用法と比の第3用法の違いを明確にしながら指導していく必要がある。
比の第3用法の指導では,上記のように,比の第2用法と比の第3用法の違いを明確にしながら,表と(線分図)と式を結び,「違うところはどこで,どのように考えれば同じと見られるのか。」を,子どもとともにつくりだしていきたいと考える。
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