4年
「くらしと水研究所」in 加茂名南       
─ わたしたちのくらしと水のかかわりについて調べよう ─      
徳島県徳島市加茂名南小学校
糸田川 裕史
1.はじめに

  平成10年7月29日の教育課程審議会答申において「総合的な学習の時間」の創設が明示された。そのねらいとしては(1)自ら課題を見付け自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てること,(2)学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的に取り組む態度を育て,自己の生き方を考えることができるようにすることが示されている。現行の学習指導要領でこのような総合的な学習を行う場合,各教科や領域などで獲得した固有の資質や能力を基本として,それらの資質や能力を多面的,総合的に適用できるような活動を目指すことになる。

 そこで,この観点から第4学年の学習内容を見直してみた。理科では「流れる水のはたらき」・「水のすがたとゆくえ」で,水を性質面からとらえている。社会では「水はどこから」で,上水道・下水道の面からとらえている。また,「用水をひく」で校区内の袋井用水,「水と緑のまちづくり」で徳島市内の新町川を教材として学習することになっている。これらのことから,今回の総合的学習の実践を環境学習とし,その中の「水」を核として多面的な観点から体験を通して切り込み,水全体を見通して見たり考えたりする力を育てようと考えた。

今回はその足がかりとすべく,年間計画の中の「生活はい水研究室」を第4学年全体で実践したので,以下にその概要を述べてみたい。

2.実践の概要

(1) 「くらしと水研究所」年間計画

第1学期 鮎喰川研究室
第2学期 袋井用水研究室
第3学期 生活はい水研究室


(2)

 「生活はい水研究室」指導計画

一次 身近な川や用水のよごれを調べよう…3時間
二次 生活はい水のゆくえを調べよう …3時間
三次 生活はい水は川をどれぐらいよごすのだろうか …2時間
四次 「生活はい水研究室」を終わって…1時間


(3)

 「生活はい水研究室」の実践

1) 身近な川や用水のよごれを調べよう。

 児童は1・2学期の学習を通して,自分たちの身の回りの川や用水の汚れに気づき,関心を持ち始めている。しかし,その汚れがどの程度のものなのか,その汚れの度合いはどのように変化しているのか,自分たちの生活がそれらの水の汚れにどのように関係しているのかといった点について,掘り下げて考えてみようとする児童はまだ少ない。そこで,児童自身に透視度計を自作させ,その透視度計を使って水の汚れを調べさせるとともに,その調べる川や用水の水は,児童たち自身が自分たちの家の近くから手分けしてくんできたものを用いることにした。これらのことにより,児童の興味や関心が増すと考えたのである。また,調べる水は児童が集めた校区内のものだけでなく他地域との比較及び二次の「生活はい水のゆくえを調べよう」への発展の意味を込めて,「きれいな水の川」と「地域の用水が流れ込んでいく川」の水も教師が採取し,検査に含めることとした。

・ペットボトルを利用した簡易透視度計を各班ごとに自作
・川や用水の水の採取(名東2・3丁目,袋井用水,佐古川,田宮川,園瀬川)
・水の汚れの検査 (透視度)…簡易透視度計
 (COD,BTB,NH4)…パックテスト


2)

 生活はい水のゆくえを調べよう。

 自分たちの身の回りの川や用水の汚れを検査した児童は,当然,「なぜそんなに汚れているのだろうか。」と考える。加茂名南小学校の校区は住宅地であり,工場はほとんど存在しないことは児童自身もよく知っている。そうなれば,当然,家庭排水に考えが及ぶことになる。事実,一部の児童からそのことに類した意見も以前から出ていた。しかし,児童自身の家から出た生活排水が川や用水の水を汚しているという実感には乏しい。そこで,まず,地域の保護者の方にゲストティーチャーとして来ていただき,十数年前の校区の川の様子や校区の背後にある眉山から流れ出る水をいまだに飲料水として利用していることなどを話していただこうと考えた。その上で,児童を地方別子供会のグループに分け,各グループごとに実際に自分たちの家から流れ出る水を追跡させようとしたのである。ただし,児童グループでの生活排水追跡は,安全の面を考慮して近くの用水までにとどめることとした。その各グループの調査結果を校区の地図にまとめた上で,その用水の合流地点を見つけ,さらなる流れ込み先を求めて,学年全体でその用水の流れを追うことにした。

・地域の保護者の方による,水の汚れについてのお話
・児童グループによる,自宅の排水の行方調べ
・学年による,生活排水が合流してからの行方調べ


3)

 生活はい水は川をどれぐらいよごすのだろうか。

 自分たちの家から出た生活排水が一次で検査した川(大変に汚れていた)につながることを確認した児童に,生活排水がどれほど水を汚すのかを知ってもらい,環境を自分たちの手で守ろうとする態度にまで育てようと考えた。そこで,市の環境保全課の方々にゲストティーチャーとしてきていただき,生活排水による水の汚染の進み具合や汚れた水をきれいにするための苦労等について話していただくことにした。さらに,水道水200に,身近にあって水とともに流しているもの(児童が考えて持参)を二,三滴 (0.2〜0.3)加えて,水の汚れを検査する事にした。

・市の環境保全課の方々による生活排水による川の汚染のお話
・水の汚れの検査 …化学的酸素消費量(COD)
(洗剤,ジュース,牛乳,米のとぎ汁,みそ汁,シャンプー,コーヒー等)


4)

 「生活はい水研究室」を終わって。

 「くらしと水研究所」の学習を自分たちにできることは何かと考えそれを実行していこうとする態度へと昇華させたいと考え,学習を終えての感想をまとめさせようと考えた。さらに家庭への啓発も兼ね,学年便りへの掲載(活動内容や,児童の感想等)も予定した。


(4)

 「生活はい水研究室」の実践に対する考察

 水を核として多面的な観点から体験を通して切り込んだ「生活はい水研究室」,児童の関心の高まりは想像以上であった。自分たちで集めた,自分たちの身の回りの水,自分たちの学習した用水や川の水,色を見て比べ,臭いをかぎ,パックテストで調べ,その汚れが次第に明らかになっていくにしたがって,児童の驚きは広がっていった。自分たちの住んでいる地域の水の汚れは児童にとってかなりショックだったらしく,しきりに悔しがる声が聞かれた。ただ,この時点ではまだ,その水の汚れに自分たちが関与しているという意識は薄かったようである。自分たちの家から出る排水の流れ込む先を調べ,さらにその合流先をたどっていったときも,大部分の児童は第三者的意識であり,ピクニック気分の児童すらいた。

 しかし,三次に入り,日頃自分たちが何気なく流しているものが,ごく少量であったとしても,水中の魚や他の生物に大きな影響を与えることを知ったときは衝撃を受けたようであった。あちこちで,「洗剤はやっぱり川を汚していたんだ。」「コーヒーもすごいぞ。」「みそ汁もだめなのか。」などの声が聞かれた。後片づけをするときでも,あるクラスでは,「実験した水はそのまま下水には流せません。どうしたらいいでしょうか。」という質問が出て,教師が少しの間,考え込んでしまうこともあった。家庭を出た排水は地域の用水へ流れ,その汚れた水は他の地域へも流れていく。自分たちの出した排水について知った今,「考えよう」・「行動しよう」という心が,子どもたちに芽吹きつつあることを感じたひとときであった。だが,水だけに思いをはせていたのでは,環境教育は進まない。これからは,この「水」の学習を手がかりにして,児童の意識をどのように地球環境問題へと広げていくかが課題であると思われる。

 最後に,児童の感想の一部を紹介することでこの実践の結びとしたい。

わたしは今までしょうゆとかせんざいとかなにも思わず流していました。でも,わたしが何気なく流していたものが生き物を苦しめていたと思うととても悲しかったです。わたしはコーヒーやジュースが残っても「一口やけんいけるわ。」と思って,はい水として流していました。わたしたちにとってはたったの一口ですが,川に住んでいる生き物にとっては大量の毒なんだなと思いました。「たった一口」なんだから,これからは残さず飲もうと思います。


生活はい水を調べてみて,牛乳やジュースを3てき入れたぐらいで魚が住めない水になったり死んだりすることは,すごくびっくりしました。また,川や海の生き物を死なせるもとの多くは米のとぎじるなどのはい水とわかって,たいへん驚きました。これからは米のとぎじるを植木や花の栄養にするなど,はい水をいろいろリサイクルしていきたいと思います。みんなが協力すればきっと川や海もきれいになると思います。

参考文献
・ 角屋重樹 現行で志向できる総合的な活動 1998
・ 奥井智久 総合的な学習に期待するもの 1998


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