1.はじめに
新しい学力観に立つ教育の深化・充実が理科教育においても大きな課題であり,授業の改善が必要不可欠になっている。小学校理科の改善の基本方針として,まず自然に親しみ,観察や実験などの直接経験を重視しながら,問題解決の意欲や能力を育てることが重要なねらいであることが学習指導要領で示されている。
それにともなって,評価の基準も「知識・理解」第一主義から,「関心・意欲・態度」「思考」「技能・表現」の重視へと変わってきたのはいうまでもない。つまり,結果だけを評価するのではなく,学習の過程を重点的に評価しようというものである。
そのためには,単元の目標に即した具体的な評価の基準を設定し,それを取り入れた指導計画及び指導案を作成する必要がある。
そこで,ここでは4年の単元「流れる水のはたらき」を例にとって考えてみたい。
2.単元の概要
ここでは,雨水の流れや川の流れの様子と地面や川原・川岸の様子とを関連づけて調べ,流れる水は流れの速さや水量の違いによって地面や土地を変化させるはたらきが違うこと,流れの速さや水量は,降水量等によって変化していることをとらえられるようにする。
これらの活動を通して,流れる水のはたらきと地面や土地の変化との関係についての見方や考え方を養うとともに,土地の変化を興味・関心を持って追究する態度を育てることがねらいである。
展開にあたっては,雨の日の校庭から始める。ここでは観点を記した個人表を用いて,子どもたちの「関心・意欲・態度」の評価について行動観察を中心にして行う。そのために,雨水の流れについての観察カードを用意し,子どもたちが意欲的に取り組めるようにするとともに,その他の観点についても評価が行えるようにカードを工夫する。(資料1)
溝を作って流れている雨水が,最終的には川に流れ込んでいることから,増水時の実際の川の様子を観察する。平常時の川の流れとの違いから,川の水が上流から土や砂,その他いろいろなものを運んできていることに気づかせるようにする。気づきにくい子どもについては,平常時の川の流れと比べて,水量・かさが増したり,濁ったりしていることなどのヒントを与え,個別に援助する。
次に,水のはたらきを詳しく調べるために,土を盛って川を作って水を流す流水実験を行い,傾きが急なところや緩やかなところ,流す水の量を多くしたり少なくしたりしたときの土の削られ方や運ぶ力の違いなどについて調べる。ここでは,水が土や砂を削ったり運んだりするはたらきを調べることを中心に評価を行う。
子どもが実験を行っているときの行動の様子は勿論,子どもたちに自分の行った実験について,観察カードに絵や文で結果をまとめさせるようにする。(資料2)
さらに,どの部分がよく削られるかを詳しく考えていくことにする。大きく曲がる川を作って水を流すと,よく削られる部分が決まっていることがわかるし,「おがくず」を使うことによって,どの部分が積もりやすいかもわかる。
流水実験が終わったところで,そこでわかったことと本物の川とを比較するため,現地学習を行う。先ず,川全体を眺めさせスケッチを行う。
そして,調べる視点を示した観察カードを用意してスケッチの中に書き込ませ,個人別にチェックをする。うまく書き込めない子どもには,教師が個別に援助する。そして,実際に川原に下りてみて,石の様子や川岸の様子を観察することにより,流れる水のはたらきについて気づかせるようにする。(資料3)
資料3 | 4年理科学習プリント | 4年 組 氏名( ) | ☆ 川の様子を調べよう。 |
1. | 流れの速いところはどこですか。じっさいに調べてみて,図の記号でかっこの中に答えなさい。 |
( )と( )
2. | 川岸の様子は,川の曲がっているところの内側と外側とでは,どうちがいますか。また,そうなったわけは,どうしてですか。 |
3. | 気づいたこと,ふしぎだと思ったことがあったら,書きましょう。 |
|
現地学習が困難な場合には,視聴覚教材(TP,スライド,ビデオ等)を活用する。
最後に,流水実験に使った山の溝がほとんどなくなっていることから,これらが水のはたらきであることに気づかせ,前の現地学習と併せて,この単元のまとめとする。
3.評価を生かした本時の指導の展開
本時(第1次 1/2)・・雨が地面を流れる様子を観察し,雨水の行方を調べる場面
(1)目標
<関心・意欲・態度> | ・ | 進んで雨の日の校庭の雨水の様子を調べようとしている。 |
<科学的な思考> | ・ | 雨水が校庭を流れるときの水の色から,雨水が校庭の土を削っていることに気づくことができる。 |
<技能・表現> | ・ ・ | 雨水が流れた後の筋状のものを見つけることができる。 雨水が流れた後の様子を,記録することができる。 |
<知識・理解> | ・ ・ | 雨後の校庭の様子から,水が土地を削っていることがわかる。 雨水の濁りから,水が土等を運んでいることがわかる。 |
(2)評価基準(本時のみ)
関心・意欲・態度 | 科学的な思考 | 観察・実験の技能 | 知識・理解 |
小単元の 評価基準 | 具体的な 評価基準 | 小単元の 評価基準 | 具体的な 評価基準 | 小単元の 評価基準 | 具体的な 評価基準 | 小単元の 評価基準 | 具体的な 評価基準 |
水の流れや流れた後の様子に関心を持ち,流れのはたらきについて進んで調べようとする。 | 進んで雨の日の校庭の雨水の行方を調べようとしている。 | 流水のはたらきは,流水の速さによって変わることを観察結果から考えることができる。 | 校庭を流れる雨水が濁っていることを考えることができる。 | 水が地面を流れた様子から,流水のはたらきを捉え記録することができる。 | 雨水が流れた後の筋状のものを見つけることができ,また雨水が流れた後の様子を記録することができる。 | 流水には土地を削ったり,削ったものを流したり積もらせたりするはたらきがあるといえる。 | 雨後の校庭の様子から,水が土地を削っていること,また雨水の濁りから,水が土砂を運んでいることがいえる。 |
* 小単元 1) 雨水の流れ 2) 川原や川岸の様子
(3)指導計画(8時間扱い)
・第1次 雨水のゆくえ・・・2時間(本時1/2)
・第2次 川をつくろう・・・3時間
・第3次 まとめ ・・・3時間
(4)展開
学習活動 | 教師のはたらきかけと児童の言動 | 留意点・評価 | 時間 |
1.雨が降っているときの校庭の様子を高いところからながめる。
2.学習課題を知る。 3.校庭へ出て観察する。
4.観察からわかったことを観察カードにまとめる。
5.本時のまとめをする。
6.次時の予告をする。 |
○ 雨が降っているときの校庭が,ふだんとどう違うか見てみよう。
・水たまりができている。
・小さいけど,川みたいなのができている。
・地面の色が変わっている。
・土が柔らかくなっているんじゃないかな。
・雨が土の中にしみこんでいるんじゃないかな。
○ 校庭へ行って調べてみよう。
・砂つぶも流されている。
・周りよりへこんでいるところに水が流されている。
・土がいっしょに流されている。
・流れが速いと,土や砂がたくさん流れる。
・排水溝に流れこんでいるぞ。
・地面が柔らかくなっている。
・いくつかの流れがいっしょになっているところがある。
○ 観察したことをカードにまとめてみよう。
<校庭の様子>…絵のなかに書き込む。
・鉄棒や遊具の下に水たまりが多い。
・タイヤの間に水たまりができている。
・サッカーゴールの前に大きな水たまりができている。
・校庭の周りの排水溝に水が流れこんでいる。
・水たまりから排水溝まで,川になって流れている。
・排水溝の前で川がいっしょになっている。
・水が濁っている。
<溝ができたわけ>
・雨水が地面を削っているから。
・雨水が川になって,地面の土を運んでいるから。
・雨水が濁っているから,雨水が地面を削って土や砂を運んでいる。
<気がついたこと>
・排水溝がある方は,地面が低くなっている。
・砂場には水たまりがなかった。
・雨水が地面にしみこんでいる。
校庭に降った雨水は,溝をつくって流れ,排水溝に入るものがある。 |
○ 今度は川へ行って,雨が降った後の川の様子を調べてみたいと思います。 |
・安全に注意させる。
・ながめて気がついたことを自由に発表させる。
・校庭の排水能力に合わせて,観察の日時を決める。
・雨水の流れについて予想させてから観察させる。
・観察カードを渡し,観察する視点を指示する。
・児童の観察している様子を個人表にチェックする。
[関心・意欲・態度]
進んで雨水の行方を調べようとしている。
<おおむね達成>
雨水が地面が削ったり土を運んだりすることを予想しながら,雨水の流れる様子を調べようとしている。
・観察したことのまとめがなかなか書けない児童へは,教師が個別に援助する。
・観察カードをもとに評価を行う。
[思考]
校庭の雨水が濁っているわけを考えることができる。
<おおむね達成>
校庭の雨水が濁っているのは,土や砂などを運んでいるからだと考えることができる。 |
8'
20'
15'
2' |
4.おわりに
自分では,理科の授業で,以前から問題解決学習を行ってきたつもりであった。しかし,新しい学力観に立った授業と比較してみると,授業の中での自分の指示や命令がいかに多かったか,また,子どもに自ら気づかせ,考えさせる時間がいかに少なかったかがわかった。
子ども一人ひとりが自ら問題を発見し,それを解決する時間を与えていなかったということである。
私の多過ぎる注意が子どもたちのやる気を失わせ,子どもの意見発表の機会を奪っていたことに気づき,反省した。私は,これからも,新しい学力観に立って,常に評価を生かした授業の展開を図り,一人ひとりの子どもの考えに耳を傾け,実験・観察の時間を十分に与えて,子どもが自ら問題に気づき,それを解決していけるような授業を実践していくつもりである。
最後に付け加えるが,自由に実験・観察をさせている間に子どもたちをよく見ていると,それぞれの子どもの新しい面,意外な面に気づくということがわかった。
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