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科学の本質を外さない授業を目指して 〜「ものが燃えるとき」の実践〜 |
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北海道室蘭市立海陽小学校 | ||
中尾 英一 |
1.はじめに
現行の学習指導要領では第6学年の「燃焼の仕組み」について次のように記述されています。これは新指導要領でも全く変わっていません。 (2)燃焼のしくみ 「物を燃やし」という記述からは燃焼一般についての概念や法則を追究するように受け取れますが,アでは植物体の燃焼に限定されています。「酸素が使われて二酸化炭素ができる」のは何も植物体に限ったことではなく,有機物一般についていえることなのでせめて「生物体」とするべきであると思います。 旧指導要領では「鉄が燃焼するときには二酸化炭素ができない」ことが記述されていて,教科書にもそうした実験が取り上げられていました。啓林館の教科書では発展としてこの実験が今も残されていますが,「物が燃えれば二酸化炭素ができる」という誤った認識を子どもに与えないためにも,授業で取り扱っていく必要があると思います。 教科書をベースにしながらも,指導要領の枠にしばられない「科学の本質を外さない授業」を目指したい。以下はそのためのささやかな試案です。
2.指導計画(啓林館の教科書をもとに) 全10時間
3.指導方法の工夫・改善について
[第1・2時] 教科書では,キャンプの時に薪を燃やすという経験を例に空き缶に入れた木ぎれを燃やす実験で導入を図っています。 しかし,実際のキャンプでも熟練によって燃焼に差が出るように,缶に開ける穴の位置や大きさ,木ぎれの配置のしかた,その日の天候など様々な要素によってこの実験はうまくいかないことがあります。 そこで,ここは子どもたちに自分の経験を出させ合う程度にとどめ,いきなり実験1(右図)から入ることにします。 しかし,この実験も実際には[ア]のろうそくが消えてしまうことが多かったり,仮に[ア]が燃え続けても同じ空気の出入り口が一つの[エ]はなぜ消えてしまうのかということについての説明が難しいです。実際の自然は複雑なものだからこそ,理科実験は観察要素を絞り込んで結果が明快なものが望ましいと思います。この実験の場合は「空気の入れ替わりによって物は燃え続ける」ことがねらいですから,[イ]と[ウ]の実験を行えば十分だと思います。線香を用いて[ウ]での空気の流れはしっかりと観察させます。 [第3・4時] 空気の成分を約80%の窒素と約20%の酸素,そして微量の二酸化炭素などであることを示し,空気が混合気体であることを教えますが,空気というものの本質的な理解を図るには酸素や窒素・二酸化炭素の単独での性質をしっかり教える必要があります。(第5時〜) 教科書では気体検知管を用いて,燃焼前後の空気中の酸素・二酸化炭素量を調べています。気体検知管は確かに便利ですが,高価なこともあってなかなかグループ実験などに使わせにくいので教師実験として結果を示し,子どもたちには二酸化炭素が簡単に確認できる石灰水を使用させます。そして酸素の減少については第10時に見せてあげたいと思います。 [第5・6時] 酸素の中でのろうそくの燃焼実験です。空気中とちがって,まぶしい光を放ちながらあっという間にろうそくが燃え尽きてしまうので,子どもたちにとって楽しく印象的な実験です。 ここで注意すべきは「酸素が燃えているわけではない」ということです。気体の可燃性と支燃性の違いは,燃える気体(ブタンガスなど)との比較でわかります。ブタンガスを水中で集めて酸素と同様の実験をしてみると,集気びんの口から炎が出て,ブタンそのものが燃えていることがわかります。びんの中ではろうそくが消えていて,ブタンの可燃性と酸素の支燃性の違いが明確にわかります。この実験はぜひ行いたいものです。 [第7時] 窒素・二酸化炭素の中に点火したろうそくを入れます。ろうそくは気体に入れた瞬間に消えてしまいます。この実験から,これらの気体には可燃性も支燃性もないことがわかります。ここでも石灰水を使って,窒素と二酸化炭素は「違う気体である」ことを確認しておきたいです。同じように無色透明で自分自身燃えないし,ものを燃やすはたらきもないということで窒素と二酸化炭素は同じものと考える子どももいるからです。 [第8・9時] ここで教科書の「はってん」を取り上げます。酸素の中ではろうそくの他に線香やわりばしや紙が燃えたときに二酸化炭素が生じることを石灰水を用いて確認したあとに,スチールウールを酸素中で燃焼させます。この実験自体も「花火みたい」と子どもたちに好評なものですが,燃焼後に石灰水で調べてみると二酸化炭素ができていないことに子どもは驚きます。「酸素の中でものが燃えるといつでも二酸化炭素ができる」と思っていた考えがみごとに打ち破られるからです。ここで,わりばしや紙がもともとは何からできているかを考えさせ,植物体(や動物体)には炭素という物質が含まれていて,これが酸素の中で燃えたときに二酸化炭素が生じるのだと教えます。 最近の子どもたちは環境問題への意識の高まりから「CO2」という言葉を聞いたことがきっとあると思うので,Cが炭素,O2が酸素であることを教えてあげてもよいと思います。金属などの無機物は炭素が含まれていないので酸素の中で燃えても二酸化炭素ができないということは小学生でも十分納得できますし,中途半端に「燃えると二酸化炭素」という誤った認識を与えるよりも,ずっと大切なことであると思います。 [第10時] 空気中で赤リンを燃焼させるこの実験は「おまけ」的な要素が強いのですが,気体検知管を使うよりもはっきり目に見えて「酸素は空気の約5分の1含まれている」ことがわかるのでぜひ行ってみせてあげたいです。 実験は右図のように水に赤リンを入れた王冠を板にのせて浮かべ,これに点火した後メスシリンダー(500ml)をかぶせるだけです。白煙があがって赤リンは酸素と化合し五酸化リンとなって水に溶けます。内部の気圧が減少した分だけ水が上がってきますが,これがおよそ酸素の減少分の5分の1になります。 くわしいメカニズムは説明しませんが,「燃えるのに使われた酸素の分だけ,中の空気が減っている」ことで空気中の酸素の量が確認できます。(空気が減ると水が上がることは4年生で扱っておきたいことの一つです)赤リンはマッチ箱に塗られている薬品で危険はありません。ただし,同素体の黄リンには毒性があるので間違えて使用しないことです。
4.おわりに
私は科学教育研究協議会という民間教育団体に所属しているのですが,このサークルから学んだことが自分の実践の根幹になっています。指導要領の枠にしばられず,子どもたちに「楽しく,本質的な」科学を教えることを目指している科教協の数十年にわたる実践には今日の「理科離れ」を克服するためのヒントが実にたくさんあります。機関誌「理科教室」をはじめ,数多く出版されている科教協会員の著作から,多くの特に若い教師たちに学んでほしいと思っています。(あの米村でんじろう先生も科教協で学んだ人です) 管理強化の進む教育現場ではなかなか創造的な実践が難しくなっていると思いますが,教育研究の自由を尊重する国が本当の意味で創造的な国民を育てるのだということはフィンランドの事実が証明していると思います。授業研究以外のことで多忙化が進む現状を克服して,本当に子どもたちのための理科教育が推進されることを願ってやみません。
5.参考文献
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