6年
問題解決に適した観察・実験と一体化したものづくり活動
          〜 電磁石のはたらき 〜          
石川県A小学校教諭
1.単元の目標

電磁石の導線に電流を流したときに起こる現象に興味・関心をもち,自ら電流のはたらきを調べようとしたり,電磁石の性質やはたらきを使ってものづくりをしたり,その性質やはたらきを利用した物の工夫を見直したりしようとする。(関・意・態)
電磁石に電流を流したときの電流のはたらきの変化とその要因について,条件に着目して実験の計画を考えたり結果を考察したりすることができたり,電磁石の強さと電流の強さや導線の巻き数,電磁石の極の変化と電流の向きを関係づけて考えることができる。(思考)
電磁石の強さの変化を調べる工夫をし,導線などを適切に使って,計画的に実験やものづくりをすることができたり,電磁石の強さの変化を調べ,定量的に記録することができる。(技・表)
電流の流れている巻き線は,鉄心を磁化するはたらきがあり,電流の向きが変わると,電磁石の極が変わることを理解したり,電磁石の強さは,電流の強さや導線の巻き数によって変わることを理解する。(知・理)

2.指導にあたって

 本単元では,電磁石の導線に電流を流し,電磁石の強さの変化を調べ,電流のはたらきについての考えをもつようにする。具体的には,導線に電流を流したりモーターに電流を流したときに回る現象を見たりすることによって,電流を流すだけで磁力を生じ,流れる電流の方向や強さによって磁石の性質の現れ方にはちがいがあるという理科で大切にしたい「簡単な規則性」を見いだすことができることがねらいである。

 しかし,ここで,巻き数を多くしたり,電池を多くしたりすると,強い電磁石になることや電池を多くすると,モーターが速く回るといった個々の現象を追究しているだけでは,実験結果に満足できても,電流が流れたときに,磁力の強さによるはたらき(磁力と力の関係)として見ることができないと予想される。そこで,それらのはたらきを利用した自作モーター作りの活動とそのコイルの強さを調べる活動を一体として考えることにした。そして,電磁石の性質を調べる過程を経る中で,「モーター作りとパワーアップ」という単元を通した課題を設定し,そのはたらきを表現し続けることを大切にしていきたい。そうすることで,1本の導線であっても電流が流れれば,磁力が生じることに気づき,モーターの回転力も流れる電流の強さと電磁石のはたらきによってきまるという本単元のねらいにせまることができると考えた。

 子どもたちは,4年生のときに,乾電池の数を直列つなぎに変えると,豆電球の明るさやモーターの回り方が変わることを学習し,電気は光ったり回ったりするはたらきがあるととらえている。しかし,電気によって,磁力が生じることには気づいていないし,電流のこのはたらきを利用した電気製品が身近にあるとは思っていないだろう。また,本校の6年生の児童は,様々な教科において,知識・理解に優れた定着を示しているものの,理科に対する興味・関心が芳しくないことも現状である。そこで,次のような指導方法を図ることで,自己の変容へとつなげていきたいと考えている。

(1) 興味・関心を促し,持続するために,単元を通して,技術目標を設定していく。

   単元の導入から,コイルの取り外しが可能であり,しかも,分解や組み立てが簡単にできる「手作りモーター」を提示する。また,乾電池1個で比較的速く回るモーターを児童に体験させたい。そして,単元を通して,技術目標「自分のモーターを作ろう」,「もっとモーターをパワーアップするにはどうすればよいか」を設定していく。初めは音を立てて回っているモーターそのものに興味を示していても,導線や磁石,くぎなどの存在に気づくとともに,電磁石の強さと電流の強さや導線の巻き数との関係にも気づき,意欲的に取り組むことができると考えられる。
 
(2) 自分なりの「こだわり」を生かした学習の構想(単元の複線化)に留意する。

   本単元で,「もっとモーターをパワーアップするにはどうすればよいか」を個の「こだわり」として,単元の複線化を図ることが必要となってくる。自分のモーターをいかにして回そうとするために,また,もっとパワーアップする電磁石を考えるために,「乾電池の数及びつなぎ方かな」,「導線の巻き数かな」,などと,その個のこだわりとして追究していくことが予想される。子どもの「こだわり」を生かした学習の構想に留意することが変容を促す学習の前提になると考えた。
 
(3) 自己の「こだわり」を追究する場を保障する。

   「もっとパワーアップするためにはどうすればよいか」を,回っているモーターの様子から,また,電磁石の性質を追究している過程から,電池の数などと,様々に考えるであろう。こういった個のこだわりが科学的なものの見方や考え方を育成することにつながっているものと考えている。
 
(4) 互いの「こだわり」や考えを交流する場を設定する。

 

 自分なりに追究を進めていくうえで,自分の考えた解決方法がこれでよいのか,あるいは,ちがった視点からの追究は考えられないのかなど,他からの情報を求めたくなったり,より高まった「こだわり」となっていくために,互いの追究過程について情報を交流する場の設定が必要となるだろう。単なる個の思いで追究していても,個のこだわりなりその方法において,どの程度のものなのか,また,正しい考え方なのかを考え直したり,また,検証の仕方に再認識する必要のあるものなのかを確認する必要がある。実験をする際の条件統一も同様である。

 以上,理科として,一人一人の子どもの個性が発揮されるなかで,自然事象の中の簡単な規則性の現れをとらえるために,学習指導要領の内容と合わせて,1事実を客観的に観ること,2現れの事実と事実を比べること,3事実を適切に再現したり表現したりできること,4事実と事実を結びつけて考えたり,新たな問題を見つけたりすることなどが,理科の基礎・基本としてとらえている。よって,モーター作りの過程やその原因の追究において,また,個の思いを大切にする過程で,理科教育の確かな学力の向上に努めていきたいと考えている。



3.授業の様子と成果と課題(※)

モーターの組み立て(課外)

自分たちで切った木やベニヤ板を木ねじを使って組み立てた。普段使ったことがないねじ回しに戸惑いながらも,設計図の線に沿って締めていた。結構強く締めたため,丈夫な本体を作り上げることができた。

コイルづくり(3,4時/12時間)

各自,3mほどのエナメル線を使ってコイルを作っている。電気を流すことで,本当に磁石になるのかな等と思いながら作っていた。できたコイルに電気を流すと,クリップが数個引きつくことができたことから,確かに磁石になったことが確認できた。また,電磁石はその他,どんな性質があるのかを共通の課題として取り組んだ。さらに,「自分のモーターを回してみよう」にも取り組み,みんなの興味・関心をそそることになり,かなり真剣な様子であった。

電磁石の性質調べ(5時/12時間)

【南北を指す性質】 【熱を持つ性質】
【鉄などを引きつける性質】
電磁石の性質見つけでは,永久磁石と同様の性質,南北を指す,クリップを引きつけるなどの他,電磁石特有の性質,熱を持つ,電気が流れている時磁化する,電気の流れが反対になると極が変化するなどを見つけることができた。この作業は,「モーターのパワーアップ」と同時に進めていった。

モーターのパワーアップ調べ(6,7,8,9,10時/12時間)

【公開授業当日 18.1.27 】 【公開授業の全体の様子】
「もっとモーターをパワーアップするためにはどうしたらよいかな」を共通の課題として,また,自由試行実験として各自に取り組んだ。エナメル線の「巻き数かな」,「太さかな」,「電池の数かな」,「鉄心の量かな」などとした考えに基づいて,基準の回路と比べながら検証していった。また時間も十分保障していった。各自の優先順位にそって調べていった結果,各グループとも,データの違いはあるものの,パワーアップする方法を導き出すことができた。さらに,今までの学習を生かして,1人1個,最も強いモーターを作り上げることができた。

一番強いモーター作り(11 ,12時/12時間)

【太いエナメル線のモーター】 【巻き数を増やしたモーター】
今までの学習を生かして,一番強いモーターを作ってみた。エナメル線の巻き数を300回近く巻く子もいたり,太いエナメル線を使う子もいたりなど,各自の考え方を生かして取り組むことができた。さらに,電源装置を使って,流れる電流の強さを少しずつあげていくと,うなりを上げて回り始めたモーターのそのいきおいに,ほとんど全員の児童が喜んでいた。手作りモーターから始まった今回の学習に,理科としての興味・関心が増えていったことに満足している。

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