6年
ものづくりで電磁石の意味をより深く理解し,
多くの人に伝えることで自分の力にしていく実践
富山県小矢部市立石動小学校
岡本 昭美
1.はじめに
私たちを取り巻く自然の事物・事象は魅力的で多様である。自然や人とかかわる活動や体験から「おや,なぜだろう」「やってみたいな」という関心や意欲が生まれる。意欲的に活動することで子どもの中に思いや願いが膨らみ,主体的な活動へと変化していく。一人一人が自分なりの問題をもち,解決に向かって観察や実験を繰り返し,追究を深め,人とのかかわりの中でより切実な問題となって解決へのエネルギーとなっていくであろう。問題解決の過程で,自分の考えを見直し,新たなイメージを生み出していくことで,次への活動のエネルギーとなって子どもの追究は意欲的で持続したものになっていくと考える。
私たちのまわりにはモーターを使った電気製品が数多くある。現在の生活はモーターなしには考えられないほどで,これらの電気製品は私達に豊かな生活を与えてくれている。未来の生活も電気や磁石の力,モーターの働きによって,より豊かなものに変わっていくであろう。6年生の時期に自分たちの未来と重ね合わせ,夢の実現に向けて,リニアモーターカーなど,ものづくりを行うことは非常に意味のあることだと考える。
子どもたちにとっては,電気と磁石は別々のものとしてとらえているので,電気を通した導線の周りに磁界ができるという現象を見つけたとき,とても驚くであろう。これは,大変な発見である。その驚きを大切にして,「本当に磁石なのか」磁石なら「どのように磁界ができるか」,「もっと強い磁石にするにはどうしたらいいのか」等の課題をもって,追究を深めていってほしいと願った。
2.「電磁石」の実践
(1)
不思議さを感じながらも子どもの内にある考えを引き出す事象提示
自由に動くアルミ箔で作った棒,その下に磁石を置いて,棒に電気を流した。電気を流していることを始めはブラックボックスで隠し,アルミ箔の棒がくっと動いて止まる現象を提示し,どうして動いたか考える場面である。磁石につかないはずのアルミ箔が,電気を流すことで磁石に反応する現象に非常に興味をもった。
ここでアルミ箔を使っている理由は,アルミ箔は磁石にはつかないものなので子どもとしては磁石についたり,反応したりするはずはないと考える。しかし,電流が流れた瞬間にアルミ箔が磁石に反応するところに不思議さと面白味がある。
そこで,「もしも磁石なら・・・」「もしも磁石でないなら・・・」という考え方で磁石であることを証明していくように実験を進めた。このことは子どもたちの問題解決の力を伸ばし,考えを深めるきっかけになったように思う。3年生で学習した磁石の性質をもう一度真剣に考えなければならないからである。
「もしも,磁石なら方位磁針に反応する。」「もしも,磁石なら砂鉄やマグチップが少し動いているはずだ。」「もしも,磁石でないなら下に置いた磁石と反発するような動きをするだろうか。」といったことを調べていくことで,「アルミ箔に電流が流れると小さな力の磁石ができていると考えることができる。」と証明していくことができた。
(2)
次の疑問を解決するための実験へ
磁石になっているか確かめるために,電流が流れている周りに磁石の力が働いているかどうか方位磁針を使って確めることができることを右の写真のように子どもに示し,「電気を流すとアルミホイルは本当に磁石になったのか」という疑問を解決する実験を考えた。
電流を流すと,導線の周りやアルミ箔の周りに磁界ができることが方位磁針を使うことで確かめることができた。また,マグチップや砂鉄も電流が流れる導線の回りではかすかに反応する様子を子どもが見つけ,「やはり磁石になっている」と磁力がはたらく証拠を見つける子どもが増えてきた。
導線1本でも反応するので,次に「電気を通すと導線で作った空芯コイルは磁石になるのか」という疑問を実験によって確かめた。子どもの考えた実験方法は,
1
虫ピンをコイルに入れる。
2
砂鉄をコイルの下に置く。
3
コイルに方位磁針を近づける。
の3つであった。よく分からないという結果もあり,一人ずつ空芯コイルを作成することにした。
(3)
マイコイルの製作と実験
一人ずつ空芯コイルを作成して,マイコイルで自分の確かめたいことを実験することにした。
マイコイル作りでは,導線は3mに統一し,コイルの太さは細,中,太の3種からまき数は50回,100回から選んで巻くことにした。一人一人自分の作ったコイルで実験ができるので調べたいことを明確にして実験に臨むことができた。
調べたいことは,電池の数を増やす。方位磁針を近づける。虫ピンをつける。電流計で測る。釘を近づける。クリップを近づける。砂鉄を近づける。などだった。
自分のコイルには思い入れをもって実験をする姿が見られた。
(4)
電流を流すことで磁界ができる驚きから,もっと電磁石を強くしたいという思いへ電磁石を強くする方法を考えるジグソー学習
電磁石のはたらきを大きくするための条件として,電池の数を増やすこと,巻き数を増やすことが子どもの意見として出てきた。その条件のほかに,導線の長さの違い,空芯コイルの太さ,鉄心の太さなどの条件を教師から提示した。実験をするときに電流計を必ずつなげて実験し,回路が切れていないか電流の強さはどれだけか考えながら実験するように促した。
実験では変える条件以外は全て同じにして実験をすることが大切である。そこで,教師が条件を整えたコイルを準備して実験の信頼性が高まるようにした。
実験グループが8つあり,1グループ4人で構成している。一人一人が実験を分担し,責任をもって実験してくる。実験方法や結果については集まった8人が間違いないように検討し,正確に数値が出るように実験を行う。結果について各自がまとめ,元のグループの人たちに報告できるように分かりやすく結果や考察をまとめた。
Aグループ
導線の長さの違いによる比較
Bグループ
電池の数の違いによる比較
Cグループ
鉄心の太さの違いによる比較
Dグループ
コイルの巻き数による比較
Eグループ
コイルの空洞の広さの違いによる比較
条件は次のように統一して実験できるように準備した。
導線の長さ3m,電池の数1個,鉄心の太さ90mmのくぎ,鉄心の本数1本,コイルの巻き数50回,コイルの空洞1cmにする。
比較する値は導線の長さ1.5m,電池2個,鉄心の太さ 小75mm 大125mm,鉄心の本数2本,3本,コイルの巻き数100回,コイルの空洞7mm,1.3cmである。
グループに戻ったときに責任をもって実験の結果を報告しなければならないので皆,真剣に実験の結果をまとめていた。同じ実験をする子ども同士は,仲よく話し合いながら実験できたし,戻って報告し合うときはお互いの報告に意見や質問なども出て,子どもたちのかかわりを深めることができた。責任をもって実験する態度を育てるためにジグソー学習は有効だったと思う。
(5)
発展的な学習としてのものづくり「作ろう!夢のおもちゃや道具」導入の工夫
電磁石についていろいろ学び,生活の中でもおおいに利用されていることを学んだ。そのことを利用して,夢のあるおもちゃや道具を作ろうと投げかける。夢のあるとは,「〜な物があったらいいな。」と思うものや「他では見たことがないから,作ってみたいもの」や「将来〜な物が作られるようになったらいいな。」と思うものなどであると説明し,自分だけのオリジナルなものを作るようにしようと投げかけた。
以上の6種を提示し,動かして見せた。また,それ以外にもいろいろ作られることを図と解説で説明してあるものを掲示し,参考にさせた。
実際にどのようなものが作れるか,教師のほうで準備したおもちゃを提示した。「コイルを輪にして下の永久磁石と反応してゆらゆら揺れるブランコ縦型と横型」「釣りざおのおもちゃ」「コイルで動く船」「くるくる回る空芯モーター」「リニアモーターカーの原理を模型にしたもの」
(6)
自分でおもちゃが点検できるように作成したチェックリスト
電磁石がきちんと働いているか自分で点検できるようなチェックリストを作成することで,子どもたちは自分の作っているもののどこに不備があるか自分で点検できるようにもなっていった。点検事項には下記の9つの点検項目を設け,自己チェックできるようにした。
1
電気の回路
2
電磁石のN極,S極
3
電気を通すものは何?
4
コイルの巻き数
5
電池の数,電流の強さ
6
鉄心の太さ
7
永久磁石とのつりあい
8
電気を通さないものが入っていないか
9
あきらめていないか
チェックリストを使うことで,おもちゃを作るときにどのようなことに留意することが大切か自分で点検でき,対処できるようになっていった。動かない場合はどこに原因があるのかを多様な視点で確めることができ,有効に活用できた。
(7)
説明活動を取り入れた学習形態−「電磁石展示館」の準備をしよう−
説明文,実物の演示,仕組みがより分かりやすいための資料や図の作成が必要であることを話した。文を書いていると仕組みについて本当に分かっていたか見直すことができ,図を描くことで,磁力をどのように捉えていたか作るときに考えていたことが明らかになり,気付かなかったことに気付く機会となった。
説明文ができあがったら,見えない磁力をどのように考えたらよいか,電流の流れと共に目に見えない部分を自分のとらえ方で図に表すようにした。
描く前は電流の向きがあいまいであったり,磁力の強い部分がはっきりしていなかったり,N極やS極がどのようにできているか明確でなかったりしたものが,図にすることで明確になり,理解が深まっていった。
(8)
電磁石展示館を開こう
「電磁石展示館」では自分の作ったおもちゃや道具を説明し,質問を受ける時間と友達の作ったもので遊び,感想を言い合う時間を設定した。説明活動は自分の作ったものを実際に動かしながら作りや性能を示す時間である。また,自分が電磁石をどう使っているのか仕組みについて友達にも分かるように説明する機会でもある。
子どもが説明したおもちゃのしくみについて,教師が取り上げもう一度考える場を設定することで,自分が作ったおもちゃ以外のおもちゃの仕組みについても考えることができた。電磁石がどの部分であり,永久磁石と電磁石が反発してどのような動きになるかなどおもちゃの仕組みからもう一度電磁石について考える機会となり電磁石を発展的に多様な見方で捉えることができた。
友達のおもちゃを使ってみて賞賛する姿がみられた。どの子どもも製作段階では困ったり,悩んだりしながらうまく動かせるように改良をしてきた。その自分の努力が自分だけではない友達もよく頑張っているなと共感できる気持ちが賞賛の姿になっていったと考える。
このおもちゃづくりを通して6年3組の子どもの関係が強くなり,仲良くなった。苦労をともに味わった仲間同士としてお互いをより深く理解し合えるように成長していったのだと考える。
教室の子ども同士で展示館を実施し,その後6年1組の人たちへ展示館を開いた。
(9)
6年1組の友達へ全校の友達へ 電磁石展示館を開こう
自分たちで試したおもちゃを今度はまだ学習していない1組の人たちに見せ,説明活動をする機会を設けた。
説明活動の準備をするときも「みんなは6年2組の人たちからおもちゃを見せてもらったから,今度は6年1組の人たちに作ったおもちゃや道具を見せてあげようね。」ということを話していた。
全員が自分のおもちゃを説明するために場所を決め,発表時間を設定し,準備を進めた。遊んでもらったり,使ってもらっての感想をもらうために感想カードを準備して,電磁石展示館を開いた。
どの子も嬉しそうに自分のおもちゃの説明をしていた。聞いてもらうことが本当に嬉しいことだと感じているようだ。それは,作り上げるまでの学習を想起し,その総まとめとしてのこの場があるからであろう。
どの子もこれまで学習したことを背負って自信に満ちた表情で説明していた。
その後,全校の子どもたちに電磁石展示館を開き,多くの友達に作ったおもちゃを公開できた。そこで,面白いこととか楽しいこととかは理屈がよく分からなくても子どもの心を捉えてくれることを実感しただろうと思う。そして,伝える喜びを味わい,作った喜びを味わうことができ,自分の可能性を信じることができたのではないかと思う。こういった場でこそ作った喜び,科学する楽しさを味わえるのではないかと改めて思った。
参考文献
小学校授業クリニック理科6年 筑波大学附属小学校 露木和男編著 学事出版
使える理科ベーシック2 作り直しでアイデアがどんどんふくらむ楽しいモノづくり 末永昇一
学事出版
使える理科ベーシック5「わかったつもり」に自ら気づく科学的な説明活動 森田和良 学事出版