4年
潮吹き鯨のひみつをさぐろう         
熊本市立桜木小学校
星川 成人

1.本実践の主張

  (1)  潮吹き鯨の謎解きで知的好奇心を高める

 4年生の子どもたちは事象の原因と思われることを比べたり関係づけたりして解き明かしていく段階である。目の前で起こる現象が「不思議だな」と感じるものであれば,子どもたちにとっての知的好奇心は高くなる。そこで,温度変化に伴う空気の膨張を利用したおもちゃを提示することにした。

 空気と水の温度による体積膨張率は空気の方が明らかに大きい。空気はお湯につけるとすぐに膨張する。見かけはペットボトルに穴を開けているだけであるが,お湯につけると水が吹き出てくる。名付けて「潮吹き鯨」である。下の図を見るとわかるようにペットボトルの中に水を入れ空気の膨張に伴いボトル内の水をボールペンの先から噴き上げる仕組みになっている。

※この装置で水が噴き出す原因について,実際には,空気の膨張の影響だけでなく,ペットボトル内の水蒸気圧の影響(温度が上がることで,水蒸気の圧力も大きくなる)も無視できないが,子どもの知的好奇心を高めるための活動として提案したい。

 子どもたちは,お湯の入った水槽内に浮かぶ「潮吹き鯨」を見て「どうして,水が出てくるのだろう?」「不思議だな」という疑問がわく。そこで,子どもたちに,「どうして,鯨の上から水が出てくるのだろうか,内部を想像してみよう」と投げかけることで学習をスタートさせる。


  (2)  ITを活用し自分の結論の妥当性を問う

 これまでの学習で子どもたちは,自分の考えについて実験を通して検証してきている。自分の学びを振り返り,1人またはグループで自分の学びをまとめる。まとめたものを口頭のみで説明し合うのでなく実験の結果が分かるビデオクリップを使って視覚的に説明する。

 違う実験をした子どもと2人組をつくり,お互いに自分の考えを,映像を見せながら説明する。この活動を複数回行うことで自己評価・他者評価ができ,自分の結論の妥当性を問うことができる。

2.単元の目標

  (1) 空気,水,金属の体積変化と温度の関係を意欲的に調べることができる。

  (2) 空気,水,金属の体積変化を温度と関係づけたり,空気と水を比較したりして観察・実験をすることができる。

  (3) 調べたデータを活用し,わかりやすく説明することができる。

  (4) 空気,水及び金属は,温めたり冷やしたりすると,そのかさが変わることを理解できる。

3.学習の実際

  (1)  不思議な鯨で解決意欲を高める

 下の写真のようにたらいに「潮吹き鯨」を入れ,お湯をかけていった。すると,鯨が勢いよく潮を吹きだす。この様子を見て子どもたちから,「すごいすごい」「どうして」など,感嘆の声が聞こえた。

 この演示実験の後,子どもたちに,潮吹き鯨の内部を学習シートを使って水が出てきた仕組みについて考えさせた。子どもたちの反応は,「空気が温められ,かさが増え,水を圧し出した」というものであった。子どもたちの答えは,1つであった。

 そこで,原因の1つとして水の膨らみも考えに入れるよう,透明のペットボトル(下図参照)を提示した。これは,ペットボトル内の大半を水が占めているものである。しかし,子どもたちの考えは空気膨張のみであり,だれ一人として水が膨らむと考えた子はいなかった。

 整理すると,「お湯で空気が温められ,空気が膨らみ水を圧し出した。」であり,その根拠は,「空気は温められると体積が増える。」「水は温められても体積は増えない。」であった。「水は温められても増えない。」という考えは,子どもたちの素朴概念である。


  (2)  ビデオクリップを活用し自分の考えを明らかにする


 4年生の子どもたちは,これまでの学習においてデジタルカメラで撮影した物を使ってスライドショーなどのプレゼンテーションを作成した経験がある。

 そこで,自分の実験の様子をデジタルビデオカメラで撮影し,発表に必要な部分を選び,教師が編集する。こうして作られたビデオクリップを使って,意見交換を行う。上の写真のように子どもたちの実験の内容が分かる静止画像を1画面に貼り付けた。自分の実験について説明するときにその部分をクリックするとビデオが流れるようにしている。

   できあがったビデオクリップを使い代表児童と教師によるモデリングを行い,これからの進め方について全体で学んでいった。

 交流の際に,各自胸に自分の実験内容が分かる写真をつけることで違う実験をした子どもとの交流ができるようにした。


 交流の一例を挙げると,空気の膨らみを体積に置き換えて調べた子どもは,

「ぼくは,空気が膨らんだものを別のビーカーにとりました。水のかさに置き換えると40mlありました。実験の様子を見てください。また,これを見てください。実験の結果から水も膨らむことが分かりましたが,水は,空気に比べるとあまり膨らみませんでした。このことから,鯨が潮を吹くのは,空気が温められて膨らみ,水を圧し出したと言えます。」

と他の子どもに説明していった。それを聞いた子どもは,

「この方法だと,空気の膨らみについてよく分かるよ。これだったら,空気の膨らみが潮吹き鯨の秘密といえそうだよ。」

と説明に対して納得していた。

 他の子どもたちも同じように相手を捜し自分の結論について説明していった。

 このように,交流を行うことで自分の考えについての妥当性を問うことができ,自分の考えについて自信を持ったり,修正したりしていった。さらに,一斉の場で自分たちの考えを発表し合うことで,学級の結論を見いだすことができた。

4.考察

 今回用いた「潮吹き鯨」は子どもたちに対して「不思議だな」「なぜだろう」という知的好奇心を高めるために効果があった。この学習を通して子どもたちは,「鯨が潮を吹くのは,水と空気が膨らむから」「水は空気に対して膨らみ方が小さい」ということを学んだ。4年生という段階で,要因が複数あるものを整理し,検証していくことは,かなり難しかったように感じる。子どもの思考をより容易にするためにも要因が単純なものを提示し,追究させるようにした方がよいであろう。

 交流を通して自分の考えを深めさせてるビデオクリップの活用は効果的であった。今後さらなるITの活用を考えていきたい。

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