高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
 探求活動(課題研究)

休校期間中における課題研究の工夫と教科等横断での課題研究メソッドの活用

元群馬県立中央中等教育学校教諭 松井 孝夫

1.取り組みの概要

中央中等教育学校は,2012年から総合的な学習の時間を中心に「課題研究」に取り組んできた。生徒が,自らの興味・関心にもとづく課題(個人テーマ)と,学年ごとに設定された探究課題(学年テーマ)をもとに,自分自身がそれらのテーマにどのように関わっていくのか,生徒同士のディスカッションを繰り返しながら,自らの「在り方生き方」を探究するという内容である。
2014年からの5年間はSGH(スーパーグローバルハイスクール)の指定により,総合的な学習の時間における個人研究の他に,学校設定教科「World Citizen」や課外活動「明石プロジェクト」によるグループ研究も追加するとともに,教科のSGH化にも取り組んだ。
SGH指定終了後はFEWCプログラム(注1)として,総合的な探究の時間の個人研究として課題研究を中心に,SGH指定時と同様に生徒同士のディスカッションや発表会の機会を多く設定するとともに,教科での探究を推進している。
2020年はリサーチクエスチョンの設定に重点を置いて指導を行った。ここでは,コロナ禍における工夫を含めた実践記録を紹介したい。
(注1)FEWC(Frontier Education for World Citizenship)プログラムは,2019年度より,SGHの後継として実践している,中央中等教育学校独自の教育プログラム。

2.課題研究の指導

課題研究で最も重視しているのは「課題設定」と「研究計画」であり,実施初年度にあたる2012年は2学期の終わり(12月頃)まで研究計画書の修正を繰り返したほどである。また2017年には,3学年のグループ研究の単元において,研究計画をゴールとする方法で「グローバルなビジネス課題」と「グローバルな社会課題」を探究課題として取り組ませるなど,研究計画の作成を重視してきた。
また,中等教育学校であることのメリットを活かし,前期課程生(中学生相当)の「理科と社会科」が後期課程生(高校生相当)の探究を支えることを担当教員が強く意識し,積極的に自由研究等に取り組む機会を作ってきた。例えば,理科では1・2年生の夏休みに行う自由研究の研究計画について事前に授業内で発表して助言しあったり,3年生の2分野や4年生の生物基礎では,「科学的探究を評価し計画する」能力の育成に重点を置き,研究計画についてのディスカッションや計画発表後の評価・修正に重点をおいたりしている。

3.「課題研究メソッド」の導入

当初(2012年)は,教科書や資料集等に記載されている自由研究等の資料では不十分であると考え,後期課程生にはWeb上に公開されている大学院の入学試験(院試)に使われる「研究計画書」の書き方などを参考に指導していた。
2017年からは,3年生の課題研究のテキストとして「課題研究メソッド」(啓林館)を導入し,継続的に質の高い課題研究(探究活動)を行えるようにした。
現在は,前期課程生の1・2年生が「課題研究メソッド スタートブック」(啓林館)を,3年生以上が「課題研究メソッド」を使用している。

4.「課題研究メソッド」の活用と新型コロナウイルス感染症対応

150ページ以上もあるテキストを,座学等で教員が指導することは難しいと考え,生徒が自ら活用する機会を作ることを重視した。
2017年には他校と共同で,内容の理解度を把握するためのアンケート(自己評価)の作成を試みた。同じアンケートを何回も実施することで,テキストの内容を生徒が知る機会となり,必要な時に活用できるようになると考えたからである。なお,テストではなくアンケートにしたのは,テストにしてしまうとテスト直前で知識として詰め込む生徒がいるため,生徒の理解度等を正確に把握できないと考えたからでもある。
2020年は新型コロナウイルス感染症の関係で,最も大切な導入の時期(学年末の振り返りや学年初めの課題設定)に長い休校となり,対面での直接の指導ができなかったため,4年生(高校1年生相当)には,次のような指導・支援をした。

(1)「課題研究メソッド」第2章<課題から研究テーマを決める>

高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 総合的な探究の時間編には,「高等学校における総合的な探究の時間の目標では,『自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を育成することを目指す』としている。高等学校では,生徒自身が自己の在り方生き方と一体的で不可分な課題を自ら発見し,解決していくことが期待されることを意味している。それにより,高等学校の総合的な探究の時間における探究が自己のキャリア形成の方向性と関連付き,学ぶことと生きることの結び付きが推進される。」とある。
本校のような普通科の学校においては,高校2年生のクラスが文系と理系に分かれることが多く,高校1年生の秋には文系・理系を選択しなければならない。つまり,自分の生き方を考え,将来のことをある程度決めなければならない。
そこで休校期間中に,保護者とともに進路(将来や卒業時)について考えるための資料を提供し,将来のことを考えながら,「課題研究メソッド」の序章やコラムを踏まえ,「課題・テーマ一覧」「学術分野を知る」などを活用して,追究すべき「課題」に出会うための課題を出した。

(2)「課題研究メソッド」第2章<リサーチクエスチョンを設定する>

次に,リサーチクエスチョンを設定するために,「先行研究・事例」に関連する内容を参照してワークシートに取り組む課題を出した。
先行研究・事例は,3年次に行った自分の課題研究で参照したものや,進路について考えた今,自分が興味を持っているものなどを扱うように勧めた。また,1年次より指導しているGoogle ScholarやCiNiiなどの論文検索サイトの活用も促した。

<授業担当者が休校期間中の課題に添えた文章①>

研究の柱となる「リサーチクエスチョン」について,先行研究・事例を通して学ぶ課題です。後々,自分で「リサーチクエスチョン」を立てるための練習ですので,ぜひ主体的に取り組んでください。
必要に応じて,「課題研究メソッド」の他のページも参照してください。よりよい課題研究にするため,課題研究で大切なことや進め方について,この休校期間中に改めて学んでほしいと思います。ぜひ自分自身の興味関心,問題意識を見つめ直しながら取り組んでください。

(3)「課題研究メソッド」第2章<身近にある情報源の活用方法を学ぶ>

<授業担当者が休校期間中の課題に添えた文章②>

レターパックに入れたプリントやこのビデオを見て,今年の研究テーマについて,具体的に考え始めてみてください。
一学期中に,研究テーマとリサーチクエスチョンを決めることが目標です。ぜひ「課題研究メソッド」第2章を活用してみてください。
「課題研究メソッド」では,研究テーマや学術分野について知ることができ,これは進路学習にもつながります。また,テーマの見つけ方や調べ方,リサーチクエスチョンの立て方は,大学での学びにつながります。後期課程に上がったので,研究の方法についても,ぜひ改めてしっかり学んでもらえれば,と思います。
私も講義ビデオを見ましたが,どの講義も大変勉強になりました。初めて知ったこともたくさんありましたし,これからの社会のあり方について考えるための手がかりがたくさんあったように思います。皆さんがテーマを設定する上でのヒントもたくさんありますし,テーマとは直接関係がなかったとしても,世界市民として生きていく上で一人ひとりが考えるべき大切な問いがたくさんあります。一年前とはかなり世界の状況も変わってきてしまいましたが,現状と照らし合わせながら考えるのも,多くの示唆が得られると思います。

(4)リサーチクエスチョン設定トレーニング

大人や大学生等の研究論文だけでなく,生徒にとって最も身近な「昨年度の自分の研究論文」や「昨年度の課題研究発表会学年代表者の発表」などを題材として利用することで,学びの連続性や自身の成長も実感することができ,主体的な学習につながると考え,以下の3つの題材を用いて,p.67のワークシートを何回も活用して,リサーチクエスチョンのイメージをつかませようとした。

具体的には,ワークシートに書き出した「タイトル」「目的」「リサーチクエスチョン」「結論」などを,ワークシートを交換して読み,コメントを書き込み,再度,各項目が適切であるか考え修正するというワークを繰り返した。

5.他教科等での活用(連携)

総合的な探究の時間や教科での対面授業(生徒同士が直接学び合う機会)が少なくなった分を,今まで以上に教科連携を推進することで補おうと考えた。
例えば,4学年の生物基礎の探究活動の課題として,総合的な探究の時間で取り組んでいる「課題研究」を題材として,キーワードマッピングのトレーニングを行った。科学的探究の単元に取り組む前に,通年で行ってる総合的な探究の時間での「探究」を題材にした方が取りかかりやすいと考えたからである。
この他には,個人で設定した課題に対しての探究活動を行う際の学習手順を総合的な探究の時間と同じようにして,個人で設定した課題や探究手法について2人組または4人組になってディスカッションを繰り返した後,クラス全体に対して短時間で研究方法を発表するようにした。なお,研究計画の発表は,リサーチクエスチョンを軸にして,研究手法の概要を発表する程度にとどめた。
普及が進んだICTの活用も図り,Google スプレッドシートに,研究タイトル,リサーチクエスチョン,仮説,手法などを入力させて,学年全員が共有できるようにし,対面での意見の交流を補うこととした。
成果発表では,リサーチクエスチョンと結論のつながりを意識させるために,「タイトル→リサーチクエスチョン→仮説→結論→方法→結果・考察→結論」という順に発表させ,より課題設定の重要性を強調した。

6.おわりに

2020年度はコロナ禍における指導の工夫と,「リサーチクエスチョンの設定」に重点をおいて,総合的な学習の時間での,探究を軸とした教科での探究との連携の強化を図った。
この実践のように,「課題研究メソッド」のような共通の教材を複数の教科等で活用することができれば,生徒が繰り返し探究のサイクルを体験したり,意識したりできるようになる。そして,そのことが探究の質を高めることにつながると期待している。

<引用・参考文献>

文部科学省(2018).『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 総合的な探究の時間編』