本校は中高一貫校であるが,私が高校で理科を担当したときに,中学での既習内容が定着していないため,その内容の復習から入ることが多い。また,4単位の生物を教えるときの生物基礎についても同様である。ここでは,生徒のインプットとアウトプットの回数や質を今までの授業と変えることで,教科内容が生徒に長期間定着することを目指した。以下にその具体的な方法を紹介する。
①授業の1コマ目に,今回の定期試験範囲で学習する内容の全体像を大まかに教員から説明する。つぎに定期試験の範囲を,内容の区切れが良い2〜5ページくらいに分けた表を示し,各自が教科書の内容を見ながら,生徒自身それぞれが興味を持った内容を分担できるように話し合いで分担表を作る。
②次の1〜2コマは,担当した教科内容の授業準備の時間とする。この間,生徒は参考となる動画を自ら探して視聴し,教科書や図表を読み込んでスライドを作成する。必要に応じて,問題演習プリントやワークシートを作成し,印刷を教員に依頼する。実験を担当する生徒は,放課後に検討実験を行い,実験の留意点や,事故の予防についてまとめる。これらの準備過程で有用であった資料やウェブのリンク等は,Google ドライブ内に共有し,すべての生徒が予習や復習に活用できる環境を整える。
③次に,1コマあたり2〜3グループの生徒が授業をしていく。前後の内容を担当する生徒同士が,事前に打ち合わせをして,内容がつながるような工夫をしている。教員は,それぞれの担当生徒の説明が終わったあとに,生徒が作成したスライドやプリントを用いて,フィードバックや補足を行う。これを6〜7コマ実施すると,試験範囲の内容の説明が終わる。
①~③の手順で授業を展開することにより,インプットとアウトプットの回数を増やすことができる。また,他者の前で説明するためには,その内容に対する深い理解を求められるので,生徒は予習を丁寧に行う。また,理解が不足している内容について,授業を担当していた生徒に質問をできるので,教えあいにより理解が定着しやすい。
生徒が授業を担当すると,こちらの予想を超えて深い内容を紹介することがあり,私自身の勉強になることもしばしばである。「このあたりまで理解できればよいだろう」という,教員側の思い込みが生徒の成長をいかに阻んでいるかを確認する場でもある。
2.の①〜③が終わると,2コマ前後,問題を解説する時間を取っている。取り扱うのは,教科書の章末問題や生徒から要望があった問題集の大問である。このとき,問題をあらかじめ私がノートに解いたものをPDFにして,プロジェクターで投影する形で解説し,授業前後にGoogle Classroomで生徒に配信する。板書を写すことに気を取られることなく,説明に集中し,問題を解くときの思考のステップを生徒と共有することを重視している。
また上記2.や3.の取り組みにより,生徒は授業で扱った内容にいつでもアクセスできるので,授業を欠席しても授業内容のカバーをしやすい環境となっている。
生徒が生物の定期試験対策をするときに,用語の意味の把握や暗記に時間を取られ,その結果,生命現象の流れやしくみそのものを理解できていないように感じていた。そこで,生命現象の理解を促すことを狙って,定期試験を実施する際に資料集を持ち込み可として実施した。教科書に説明されている内容を理解しながら問題演習をして,その説明が図表のどの部分にあたるかを,試験前に知っていないと,答案の内容に反映することが難しい。このことを生徒は十分に理解しているので,生徒は定期試験に向けて時間をかけて準備する。また,資料集持ち込みで試験を実施しても,生徒が試験範囲についてどの程度理解しているかを測定するのは十分可能である。
以下は,資料集持ち込みの試験についての生徒の感想である。
【1学期中間試験終了後】
【2学期中間試験終了後】
上記の感想と分布(5がポジティブ,1がネガティブ)である。1学期も2学期も,ポジティブな意見もネガティブな意見もある。私が1学期と2学期のアンケート結果を比較したとき,生物を学ぶときにどのくらい図表を活用できるか?ということに変化があったと分析している。図表の使い方に慣れてきて,教科書本文や問題集の問いとの関連性をつなげて理解することができるようになったことから,5段階の分布が右に移動したと考えている。
今は,さまざまな情報へのアクセスが簡単にできる。情報を細かく記憶するよりも,その情報が確かなものかどうかを判断し,編集して,発信する力が今の高校生が社会に出たときに求められる力であると,私は考えている。
生物学はとても魅力的な学問で,生命の神秘は不思議なことばかりである。その,学ぶ動機をひきおこす要素がたくさんある生物学を,用語の暗記によって魅力がない学問にしてはいけないと考えている。