高等学校においては新学習指導要領が2022年(令和4年)から実施される。現在はその移行期間にあたる。現行学習指導要領の知識及び技能の習得と,思考力・判断力・表現力等の育成のバランスを重視することに加え,知識の理解の質をさらに高め,確かな学力を育成することを目的としている。さらに高大接続改革も進められ,これまで以上に思考力,判断力,表現力が求められている。そのためには,知識や技能の習得もさることながら,生徒自身が生命現象を実体験として肌で感じることに必要性があると考える。生物に直接触れ,生命現象を目の当たりにすることで,思考力,判断力,表現力を育成するための基礎となるのではないか。
「生物基礎」の「生物の恒常性」の分野では,「体液とその循環」について学習する。体液の循環については,中学2年において学習するため,中学の学習内容の復習となることが多い。しかし,これを単に復習で終わらせるのではなく,「発生の過程」「生物の進化と分類」など専門科目である「生物」の学習に接続し,さらに,「心疾患」などの医療や「ヒトの誕生」など,幅広く学習できる内容にしたい。そこで,スーパーなどで安価に購入できる,ニワトリの心臓(ハツ)を用いた解剖実験を行い,その内容を広げて学習した事例を紹介する。
<具体的な授業展開>
(1)心臓の外観 |
(2)心臓の縦断面 |
(3)心臓の横断面 |
(4)爪楊枝を刺した心臓 |
(5)爪楊枝を引き抜く様子 |
「胎児の循環系」についてグループで話し合った結果を,小さなホワイトボードに書かせて黒板に貼ることで発表している。
iPadをはじめとするICT機器を活用することなども考えられるが,本校ではそのようなICT機器が十分に整っている環境ではない。また,ホワイトボートは何度も書き直しができ,さらにグループのメンバーと相談しながら書き込めるため,発表するのに効率的である。ただし,A4版の大きさであるため教室の後ろの生徒には見えにくいという欠点はあるが,一つ一つ読み上げたり,グループに補足説明してもらったりすることでカバーしている。この授業を通して,胎児の心臓の仕組みを理解することが,自分自身の体を振り返り,生命の神秘を感じる生徒もいたようである。
中学校新学習指導要領では「消化や呼吸についての観察,実験などを行い,動物の体が必要な物質を取り入れ運搬している仕組みを観察,実験の結果などと関連付けて理解すること。」となっており,中学校学習指導要領解説においても「循環系については,物質を運搬する仕組みとして,心臓のつくりとその働きを中心に扱う。」とある。新学習指導要領に移行し,中学校でニワトリの心臓の解剖実習が行われることになる。同じ解剖実習であっても,目的や視点を変えることによって,高等学校においても実習可能で,新しい発見もあり有意義である。また,ニワトリの心臓は「ハツ」と呼ばれ,スーパーなどで販売されているものである。日頃から見慣れている食材であるため,他の解剖実習を行うための練習という一面もあり,その後の解剖実習もスムーズに行える(解剖に苦手意識がなくなる)という側面もある。情報化の発展は,今後より一層高度に発展し,経験しなくても,バーチャル世界で疑似経験できるようになる。しかし,そういう時代だからこそ,自分の感覚を伴う体験活動を大事にしたいものである。
「心臓の形を科学する―心臓の環境適応戦略-」小柴 和子教授 生命科学部 応用生物科学科 動物発生システム研究室
http://www.toyo.ac.jp/nyushi/column/video-lecture/20190123_02.html