主体的・対話的で深い学びを実現するためには,教える場面と生徒に思考・判断・表現させる場面の両立が必要である。しかし,生物分野においては,分子生物学的な内容が増えるなど,教える内容の増加や高度化が進んでいる。教えることを疎かにし,対話的な時間を増やしても生徒の理解につながりにくいところがある。そこで,タブレットを活用し,教授方法を効率化することで,分かる授業を目指しつつ,思考・判断・表現につながる展開の時間の確保を目指した。
パワーポイントを用いて内容を説明し,生徒はそれに対応したプリントで学ぶといった授業を展開している。この方法の利点はいくつかある。まず板書やノートを書く時間の削減である。内容を投影することで,板書する時間を減らす。またプリントに図や線などを入れることで,生徒は必要な内容だけ書くことができ,生徒のノートを書く時間を減らすことができる(図1,図2,資料1参照)。
図1 同化と異化を説明するスライド
図2 ATPの構造の説明をするスライド
他の利点として,図や動画を簡単に活用できる。生物は,図や写真を活用する機会が多い。従来であれば,教科書の該当ページを指定したり,拡大した写真を用意し,黒板に貼っていた。しかし,パワーポイントの中に組み込むことで,それらの準備する時間(教科書の該当ページを開く時間など)を減らし,全員が,同じ所や同じ図で理解することができる。また,アニメーションや動画を入れることが容易であるので,現象の説明も理解させやすい。(図3参照)
図3 アニメーションを利用した説明図
左図は,生態系における作用と反作用の関係を説明したパワーポイントの一部である。アニメーションを用いて,図を動かしていくことで,現象を分かりやすく教えることができる。
主体的な学びを実現するためには,学びのふり返りや見通しをもった取組が必要である。授業の冒頭に,前回の授業で活用したパワーポイントの内容の一部を抜粋し,投影することで,簡易に復習することができる。また学びの過程で,以前の内容を復習したいときや休んでしまって授業に参加できなかった生徒に,パワーポイントを見せるだけで,授業に近い内容を提供することができる。
教科書の内容を,ジグゾー法で理解させる取組を試みている。未修の内容に対して,生徒だけで学んでいくことは難しい。そこでジグゾー法を用いて,友達に分かりやすく教えるために理解することを目標にさせ,より自分たちだけで学ぶことへの意欲が高まるように仕向けている。
自分たちだけで説明できるようにする手立てとして,パネル(絵)を用意する。例えば,「体液性免疫」と「細胞性免疫」の授業の時は,細胞の情報伝達のパネルを用意する。生徒は,教科書やクラウドサービス上から配信される資料を見て,パネルの中の細胞の名前や働きを理解する。その理解した内容を,紙芝居のようにパネルを用いて,友達に伝える。そのように,学ぶことを明確にする誘導や,教えやすくする資料を与えることで,生徒だけで学びあえるようにする。
その後,パネルとして提供した絵を用いながら,教員が講義で補足しながら説明することで,生徒は教えあったことが正しかったかどうかを確認したり,分かりにくかったところを踏まえながら講義を聞くことができるので,より集中して聞くことができる。教員の説明が補足やポイントだけで済むので,学びがより深まる。
以上のように,教科書の内容を教えあいで学ばせることで,教授型の授業だけの展開にならないようにしている。余裕があるときは,ジグゾー法で学びあった後,それに関連した発展的な内容を考えることで,より生物学的な視点で事象の理解を深める活動も展開している。例えば,SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」の解決策を考えさせる授業を行った(資料2参照)。この解決策を考えるための必要な知識を,先ほどと同様にジグゾー法で学ばせた。その後,同じメンバーで解決策を考えさせたところ,学んだことを生かした科学的な解決策が多かった。今後も,授業で学んだことが,社会を生きていく上で役立つこと,更なる学びが必要であることを体感させることで,生物学への確かな理解と探究心を高めていきたい。
タブレットには様々なアプリがあり,パワーポイントと合わせて活用している。よく使うアプリは,タイマーである。演習やグループワークをする際に,時間を明示していく。アプリによって表示することで,生徒は残り時間を踏まえて取り組むことができる。教員としてもタイマーが鳴ることで,質問対応などで気がつかないうちに予定時間を超過することも防げる。
写真のアプリもよく使用している。実験時の色の変化のイメージや顕微鏡で拡大した対象物を撮影し,後日,その変化について解説を行う。また,グループワーク等でまとめたプリントを撮影し,投影することで全体の共有を簡単にできる。撮影した内容を,クラウドサービスを通じて全体に配信することで,個々のフィードバックにも活用している。
最近では,色覚特性を体験できるアプリなど優れたアプリも多く,いくつかのアプリは授業でも活用している。紹介したアプリを生徒が自分自身の端末にダウンロードし,探究活動に活用するなど,授業外の取組にもつながっている。学びにつながるアプリを紹介することも今後の理科教育にとって重要である。
年間を通してジグゾー法を用いた授業を展開している。生徒の様子を見て,与える資料やプリントの誘導を変えている。