段ボールとゴミ用ビニール袋を用いた無菌箱と100円ショップの除菌スプレーを用いて植物の組織培養を簡単にできる方法を開発した。この方法で無菌操作の成功率は98%以上,カルス化率も98%以上の成果をあげ,授業実験として十分取り入れることができる結果を出した。この方法で組織培養の基本技術を習得させ,課題研究へと発展させることが可能であることを報告する。
組織培養実験は無菌操作の難しさ,カルスになるまでの成功率の低さなどから敬遠される。しかしバイオテクノロジーの技術を体験するには非常にいい実験である。これらを克服する方法を開発することが生徒に組織培養を体験させ,生命の神秘さを学ぶ機会を増やすことにつながると考える。
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① 無菌箱は手製でビニール袋を内張りして手・器具を入れられるように二つ穴を開けておく(図1)。
② 50mlビーカーはピンセット・カミソリをつけ置き殺菌するために100円ショップ除菌スプレー(図2)の溶液を入れて使う。
③ キクの花弁は開ききってない内部の花弁を用いると成功率が上がる(図3,4)。1年中手に入るというメリットがある。
図1 段ボール無菌箱
図2 100円ショップ除菌スプレー
④ MS培地は市販の10L用で粉末のものがあるので溶かすだけで簡単に作れる(図5)。
⑤ 植物ホルモンは京都科学のホルモンセットが扱いやすい(図5)。
図5 左からホルモンチューブ,
MS培地,寒天
① 培地作成
ガスコンロで湯煎を行って培地を作る(図6)。その後シャーレや試験管に分注して滅菌する。滅菌は蒸し器で40分行う。
② 無菌箱に器具・培地・キクの花弁を入れ,除菌スプレーで吹きつけ箱内を除菌する。
③ 除菌したカミソリで外側の花弁は切り捨て,できるだけ内側のキクの花弁を切りとり,除菌スプレーの溶液入りフタ付きガラスビンに入れて3分間シェイクする(図7)。
図6 培地の湯煎
図7 ピンセットの除菌と花弁の
組織殺菌
④ 除菌した花弁を箱内で培地に植え付ける。ピンセットを一動作毎に除菌することを忘れない(図8)。
⑤ 植え付けた培地を27℃暗所に静置する。 定温機がない場合は電気アンカと水槽か発泡スチロール箱を使って定温状態を作る。
⑥ 10から14日後カルスに分化したものがみられる。2日後ぐらいに無菌操作失敗したものはカビが生えてくる。
図8 植え付けの様子
この方法で始めて実験をする生徒達(6クラス240名)の無菌操作成功率は98%,カルス化も98%であった(図9)。除菌スプレーが次亜塩素酸ナトリウム殺菌剤よりも組織にダメージを与えないことを確認した。
図9 キク花弁からのカルス
無菌操作の成否は手早くすることで雑菌が入り込むチャンスをできるだけなくすことが肝心である。今回ピンセット・カミソリの火炎滅菌も不要で,除菌した花弁を滅菌水で洗うことも不要にすることで手間を削減した。70%エタノールを使う作業も削減できた。このように手軽に行うことができた要因は除菌スプレーの活用と考える。また組織,器具などの殺菌を一括してこの100円ショップの除菌スプレーで賄えるので素人でも手早く行えることができるようになったと考える。
敬遠される組織培養実験の普及につながる工夫を研究開発した。長崎県高等学校理科教育研究会生物部会で先生方に行っていただいた実験でも98%の成功率であった。生徒の中には絶滅危惧種を救おうとナガサキギボウシの組織培養に挑戦してカルス化まで成功している(図12)。授業実験として十分取り入れることができる結果を出した。この方法で組織培養の基本技術を習得させ,課題研究へと発展させることが可能であると考える。
◆参考文献 古川仁朗著 「図解 組織培養入門」 誠文堂新光社