これまでの理科教育の反省点は,一方的に知識を教え込む授業だったことでした。改訂される学習指導要領では,「実験や観察を通じて」,「なぜを重視」するように求められています。このような探究的活動が重視されるのは,時代が求める必然でしょう。ところが,現場ではそう簡単にはいきません。これまで,決まった答えにどのようにたどりつくかを教えてきた教員が,急に,答えがわからない問いに対してどのようにアプローチするかを指導するようにと言われても困惑するのは当然かもしれません(図1)。そこで,ここでは,探究的な実習例を示したいと思います。キーワードは,「なぜ」です。
図1 これまでの学習とこれからの学習の重点の違い
これまでの多くの授業は,教科書で正しい知識を学んだ後に,それを実験や観察によって確認する,という方向でおこなわれていました。ですから,実験や観察にも,正しい答えがあり,教科書通りの結果が出ないと「まちがい」とされてきたわけです。ところが,新しい学習指導要領では,実験や観察を通じて,さまざまな規則性を発見する,という方向性が示されています。実験や観察をした結果から,「なぜ」このような結果になったのかを考えることで,事象を深く理解するわけです。知識通りの結果が得られなかった時こそ,複眼的視点から考察する力を養う絶好の機会なのです。このような力の育成を目指しているのが「探究」で,その考え方は理科にとどまらずすべての教科に流れている基本的な考え方です。
「探究」は,すでに答えがわかっていることを追認するものではありません。自然現象の解明されていない部分を明らかにすること,あるいは,解明されていることがらであっても,視点を変えて,あるいは実験の方法を変えて追認することが求められます。特別な分析機器を用いることが必須なのではなく,身のまわりにある道具を使うだけでも,柔軟な発想と工夫で,大きな成果を得ることができます。探究の目的は,そのような活動を通して,論理的な思考力や多角的な視点をもつことの訓練,プレゼンテーション能力の育成,ができるようになることなどがあげられます。教えるのではなく,自ら疑問をもち,自ら調べたり考えたりして,その結果をまとめる力を育成することが重要です。もちろん,理科ではこのような探究の思考が求められています。
ここで示す授業例も,取り扱っているテーマは小学五年生で学習するもので,すぐに試料を入手でき,特別な分析装置や観察機器は必要ありません。簡単な実習ですが,さまざまな「なぜ」を喚起することで,高校の授業内容の探究的学習にまで内容を引き上げることができます。
この実習では,自ら疑問を持ち,自ら考えて解決する力を問います。結果がさまざまに異なりますから,その違いの原因はなぜなのかを考えさせることが重要です。なお,対象とする生徒には,まだ岩石の成因や組織は教えていません。
兵庫県の中央部から南に流れる1級河川である加古川沿いに,いくつかの岩石を採取してきました。教材として岩石を購入するのもよいですが,探究を意識すると,地元に産する岩石を題材として扱いたいと考えるからです。この例で準備した岩石は,以下の通りです(図2~図5)。図2から図4に向かって南側(つまり下流側)に産する岩石になります。同じ種類の岩石でも,見た感じが相当異なります。図5の花崗岩は,兵庫県南部の姫路市から採取したものです。これらの岩石試料をテーブルの上に並べて,グループを構成した生徒に「分類してください」といいます。いくつに分けられるのかとか,分ける基準などは生徒に考えさせます。
図2 角礫凝灰岩
最大で10cmをこえる角礫を多く含む凝灰岩。角張っていることから,河川で運ばれて堆積したのではないことがわかる。密度が大きく,体積の割にたいへん重い。兵庫県中部西脇市から採取した。
図3 粗粒凝灰岩
噴火の際に飛散した小さな礫を含んでいる。右側の岩石は,堆積したときの熱で,小さな礫が一方向に引き延ばされている。兵庫県中南部の加西市で採取した。
図4 細粒凝灰岩
岩片を含まず均質で,青色が本来の凝灰岩の色,風化や変質で黄色くなり,熱の影響を受けると赤くなるが,すべて同じ露頭から採取した同じ岩石。兵庫県南部高砂市産で,「竜山石」の名称で販売されている高級石材である。
図5 花こう岩
凝灰岩は主に火山灰が堆積して固まった堆積岩だが,これは深成岩。よく観察すると,含まれている黒いものは礫や砂ではなく鉱物であることに気づく。兵庫県南部姫路市から採取した。
これらの岩石をひとまとめにして4人~6人からなる生徒のグループに提示し,科学的基準に基づいて分類するように指示します。机の上には,白い紙やルーペなど,分類するために自由に使用してもよいとしておきます。
図6 生徒に提示した一式の岩石
ところで,試しに高校生で実施する前に教員に分類してもらいました(図7)。教員は,さっそく岩石を手に取って,構成鉱物は何かとか,岩石の構造が等粒状だとかいって,これらを分類しようとしましたが,残念なことに,教員が目指していた火成岩とか堆積岩とかいう岩石の成因で正しく分類することはできませんでした。そして,「地学はもうずいぶん昔に習ったから忘れてしまった」とおっしゃるわけです。ところで,わたしは岩石の成因で分類してくださいとは言っていないのですが,すべての教員がそう分類しようと考えたのは,おそらく,教科書でそのように分類されているからでしょう(図8)。
図7 教師に分類してもらいました
図8 教師が分類しようとした教科書の分類法(左が堆積岩,右が火成岩)
ところが,まだ岩石の成因や組織を教えていない生徒に同じ課題をしてもらうと,結果はまったく違います。岩石の色の違いで分けたり(図9),手に持ったときに感じる重さで分けたり(図10),おもしろいのは岩石をこすり合わせて硬いものとやわらかいもので分けたりするのです(図11)。もちろん,岩石を構成している粒子(鉱物)をもとにして分類するグループもありました(図12)。大切なことは,岩石をよく観察して,明確な基準に基づいて分類していることです。「なぜ」そのように分けたのかが大切です。
分類させたら,生徒に,「なぜ」そのように分けたのかを発表してもらいます。そしてその基準について,生徒どうしで議論してもらいます。たとえば,岩石の色で分けた班の説明に対しては,風化したら色が変わったりする,とか,同じ墓石でもいろいろな色のものがあるので,分類の基準としてはよくないのではないか,という意見が出ました。たしかに,色で岩石を分類する方法は適当ではないとされています。含まれる鉱物の状態(変質が進んでいるかどうか)や粒子の大きさによって,見た目の色が異なるからです。同じ岩石でも,分布する地域によって特徴的な色を示すことがあります。しかし,逆にいえば,岩石の色は産地の情報を含んでいるともいえます。特に,白黒なのかカラーなのかは,含まれる鉱物の種類やその状態を示していますから,近接した場所で採取した岩石であれば,色で分けるというのもまちがいとは言い切れません。これは現在の状態の違いをもとにして分類していることになります。
図9 岩石の色の違いで分ける(左は色彩的,右はモノトーン)
また,持ってみて大きさの割に重く感じるか軽く感じるかで分類する方法は,岩石の比重を基準にした考え方です。鉱物が熱を受けたり圧力を受けたりして圧縮されたり,鉱物間の隙間がなくなったりすると,もとは同じ岩石であっても,岩石の密度が高くなります。また,火山灰の中に礫が含まれていると,礫は密度が高いので,全体として重く感じます。きちんとした測定をする道具が準備されていないので,感覚的だという問題点が指摘されましたが,これも相対的な比較分類法として意味があります。
図10 持ってみて重いか軽いかで分ける(左は軽く,右は重い)
密度が高くなると硬くなるので,互いにこすり合わせたときに,硬い岩石は弱い岩石を削って粉末にします。白い紙の上でこすり合わせて,どちらの粉末が出てくるかで,相対的な硬さの順番をつけていく方法です。どちらの粉末が出てきたのかをどのように判断したのか,とか,こすり合わせ方によっては硬いほうの粉末(破片)が出てきたりはしないのか,という意見が出ましたが,粉末の内容はルーペで確認したとのことでした。岩石を重さや硬さで分けるというのは,なかなか高度な分類法です。これは,堆積物が岩石になっていく過程の状態の違いをもとに分類していることになります。
図11 硬いか柔らかいかで分ける(左は柔らかく,右は硬い)
岩石を構成している粒の大きさで分けるというのも,岩石の成因を反映していて,よい分類法です。堆積岩の場合,同じ岩石であれば,構成する粒が大きいほど下に,小さいほど上に積もります。これは垂直方向にみた場合です。また,噴火口から遠ざかるにつれて,火山灰に礫が混じる→火山灰に砂が混じる→火山灰だけ,と変化すると考えられます。これは水平方向にみた場合の考え方です。このように,粒の大きさは,堆積順序や噴火口からの距離といった堆積環境の違いを反映しているので,分類の基準として成り立ちます。
図12 粒が小さいか中くらいか大きいかで分ける(左は細粒で均質,中央は小さな岩片を含んでいる,右は大きな岩片を含んでいる)
次に,先に示した花こう岩を除く6個の凝灰岩(図2~図4)を,兵庫県中部(加古川の上流側)から南側(下流側)の順に机に並べてみました。角礫凝灰岩(西脇市/図2)→粗粒凝灰岩(加西市/図3)→細粒凝灰岩(高砂市/図4)の順番です。そして,生徒にこう質問しました。「これらの凝灰岩は同じ時期に噴火した火山灰が,ほぼ同じ時期に積もってできたのだけれど,どうして北側ほど粒が粗い凝灰岩が見つかるのだろうか」。生徒はグループで議論して,考えられる結論を出しました。「北側ほど山が高くなって表面が削られたから,粒が粗い凝灰岩が見えるようになった」。これは驚きです。
正しく説明するためには,いろいろと解決しなければならない問題がありますが,簡単に説明すると,図13のように考えられます。同時期に堆積した凝灰岩なので,北側の西脇市でも南側の高砂市でも,角礫凝灰岩の上に粗粒凝灰岩が,その上に細粒凝灰岩が堆積しています。つまり,西脇市にだけ火山灰が飛んでこないわけはないので,西脇市の角礫凝灰岩の上にも,粗粒や細粒の凝灰岩が積もっていたはずです。ところが,西脇市では角礫凝灰岩が露頭でむき出しになっていて,岩石を採取することができた。それは「なぜ」でしょうか?それは,地盤が隆起して持ち上がったために,上に積もっていた粗粒や細粒の凝灰岩が削られて(浸食作用)失われてしまったからだ,と考えられます。加西市では,上に積もっていた細粒凝灰岩が削られたが,高砂市では,地盤の隆起が起こらず,浸食が進まなかった,と考えられます。ですから,高砂市を深く掘っていくと,そのうち,粗粒凝灰岩層が出てきて,さらに掘り進めると,角礫凝灰岩層が顔を出す,つまり,北ほど隆起した可能性が岩石の観察によってわかるのです。
図13 凝灰岩の産状から推定できることを考える(南北方向に隆起と浸食が起こった?)
このようにして,日常の経験をもとにして,岩石や地層の見方を引き出すことができます。生徒の思考は柔軟で,さまざまな可能性を発表してくれます。
生徒に見せた岩石(図4)は,同じ地域で採取した細粒凝灰岩なのに,青,黄,赤の3色のものがあり,生徒の間でも不思議だという声が上がりました。よく観察したグループは,同じ地域で採取した細粒凝灰岩でも,色によって硬さが違い,青色→黄色→赤色,の順に粒子間の隙間が広く,岩石はやわらかくなることに気づいていました。そこで,青と赤を比較して,「なぜ」赤い凝灰岩ができたのかについて,仮説を立ててもらいました。さまざまな意見が出されましたが,その中に「マグマの熱で焼かれた」というものがありました。確かめる方法を考えさせたところ,あるグループから,バーナーで加熱してみればよいという提案が出されました。
そこで,まず,普通のガスバーナーで,固定した青色凝灰岩を焼いてみます(図14)。炎の上2~3cmくらいのところに凝灰岩を固定して,3分程度加熱します。冷却して観察すると,赤く変色しているようすが確認できます(図15)。青色凝灰岩は地下で何らかの熱によって焼かれて赤くなった,と結論つけましたが,こちらから「もっと高温の炎で焼いたらどうなるだろうか?」と質問を投げかけます。生徒は,真っ黒に焦げる,真っ赤になって溶ける,など,答えました。そこで実際に,高温バーナー(市販されているガラス細工用バーナー)で青色凝灰岩を加熱してみると,中央だけが青色のままで,周囲は赤く変色します(図16)。
図14 高温ガスバーナーで青色凝灰岩を加熱してみる
図15 加熱した部分全体が赤く変色する
図16 加熱した中央部は青色のまま残り周囲が赤色化する
予想と違ったことで,生徒は「なぜ」と考えます。そしてガスバーナーの炎の性質についてヒントを与えると,生徒は,ただ加熱されただけでは赤色化せず,酸素が必要なのだということに気づきます。バーナーの炎の中心部は,酸素が不足している還元炎で,炎の外側は酸化炎です(図17)。炎の温度を上げても,炎の中央部には酸素が不足しているため赤色化しないのです。この実験は,岩石の色は曖昧なものであり,岩石の状態が変化する原因にはさまざまな要因があることを生徒に示すものです。
図17 ガスバーナーの炎の構造と温度
なお,グループによっては,ガスバーナーの炎の構造と温度の図を見せて説明すると,炎の中心部は温度が低いから青色のままだったのではないかという疑問を発表する生徒もいます。これは,最初に弱い炎で焼いたときに赤黒くなったことから,温度が300℃もあれば赤くなるのに十分であることがわかっていますから,高温での加熱実験は,バーナー中央部の炎の温度が低かったためではないことを示す対照実験でもあったわけです。
探究の考え方に基づくと,結論が正しいかどうかよりも,どのような方法で疑問点を明らかにすることができるのか,得られた結果からどのようなことが考えられるのか,を考えることが重要です。ここに示したような単純な観察実験でも,探究に結びつく多くのヒントが隠されていると思います。