岐阜県立岐山高等学校は,岐阜市内を流れる長良川に程近い場所にある全日制の高等学校である。各学年に理数科を2クラスと普通科7クラスを設置しており,生徒数が1000名を超える規模の高校である(図1)。
本校は,理工系への大学の進学者を対象に理数教育に重点を置いた普通科高校として,昭和33年に創設され,その後,昭和44年に理数科が設置された。平成15年度からは,文部科学省よりスーパーサイエンスハイスクール(以後,SSHとする)の研究指定を受けており,今年度で10年目となる。その中で,理数科を中心にさまざま講座を展開している。具体的には,以下の通りである(表1)。
1年次 | 2年次 | 3年次 |
---|---|---|
実験観察基礎 野外実習 科学トレーニング など |
先端科学講座 校外実習 (サイエンス リサーチ) など |
サイエンス リサーチ (課題研究) |
【表1 理数科での開設の講座】
上記の講座については,情報科と連携して,講座についての報告書(実験・実習ではレポートなど)を作成している。
(1) 理数科1年生 「実験観察基礎」
「実験観察基礎」は,理数科1年生が入学当初に実施する講座である。本講座では,実験・観察に関する基礎的技能を習得することを目的として実施している。今年度は,物理分野(力学台車の実験),化学分野(化学反応式と量的関係)の内容で実施した(図2)。この講座では,実験で扱ったデータの処理や解析,まとめなどを表計算ソフト,レポートの作成はワープロソフトを利用することで情報科と連携をしている。
表計算ソフトを利用したデータ処理は,「表計算ソフトを使用したことがない」という生徒が多くいるため,情報科の授業内で事前学習として表計算ソフトの基本的な使用方法(表の作成,関数の使用,グラフの作成)を学習した(図3)。その後,実験観察基礎で得たデータを表計算ソフトで処理した。
さらに,表計算ソフトで作成したグラフを利用し,実験観察基礎のレポートをワープロソフトで作成した(図4)。
【図2 実験観察基礎(物理分野)】
【図3 データ処理(情報の授業にて)】
【図4 実験観察基礎レポート】
(2) 理数科1年生 「科学トレーニング」
「科学トレーニング」は,1年生の最後に実施する講座である。科学トレーニングでは,数学,物理,化学,生物,地学の5分野から提示されたテーマから1つ選択し,そのテーマについて,仮説の設定,実験計画の立案,実験・観察の実施,まとめを2名1組で行う取り組みである。
地学分野では,「渦のできるしくみ」をテーマとして提示した。まず,実際の渦(カルマン渦)を観察させて,渦のできる条件を考えさせた。考えた条件をもとに,渦ができるための仮説を立て,その仮説を検証するための実験を立案した。この時,「実験計画書」として,仮説の設定理由から実験計画までの内容を,ワープロソフトを利用してまとめ,その資料をもとに仮説発表会を実施した(図5)。
その後,仮説発表会で明らかになった問題点等をふまえ,実験計画を修正して本実験を実施。各班が行った実験では,流水を観察して渦のでき方を観察する班や,ドライアイスの気体をぶつけ合うことで渦のでき方を調べる班など,班ごとで工夫を凝らした実験を行い,その結果をディジタルカメラやディジタルビデオカメラを用いて記録した(図6)。実験結果は,情報科と連携して表計算ソフトを利用し,実験結果のまとめや解析を行った。さらに,研究の発表用資料としてのポスターをワープロソフトを利用して作成し(図7),そのポスターを使用し発表会を行った(図8)。
【図7 発表用ポスター】
今回紹介した実践事例は,地学としての内容ではないが,これからの理科と他教科との連携を検討する材料である。今回紹介した実践事例は,本校SSH事業での取り組みの一部であるが,本校は平成23年度より終了経過措置としてSSH事業を進めており,これまでのSSH事業で培ったノウハウを今後通常の教育課程で実施していく方法を模索している。
現在,本校の理数科に関しては,実践事例の内容を「総合的な学習の時間」の中で実施している。ただし,「総合的な学習の時間」だけでは十分に時間が確保できないという問題点がある。さらに,今年度より実施されている「新学習指導要領」について,理科では基礎を付した科目は標準単位が2単位である。そのため,授業時間内での実験や実習の時間の確保が難しくなっている。そこで実践事例のように,教科・科目の特性を生かし連携することで,指導内容の充実や時間の確保ができると考える。
しかし,他教科との連携については,問題がないわけではない。今回の実践事例は,理科(地学)を担当していることに加え,教科「情報」や理数科の「総合的な学習の時間」についても指導している。したがって,それぞれの教科・科目の内容をふまえ,教科間の連携を図るためのコーディネーター的役割を果たしており,他教科との連携を進めることができたと考える。しかし,実際にはこのような立場で教科指導を行えるのは希な事例であり,本校以外で同じことができるとは限らない。
新学習指導要領,特に基礎を付した理科の指導を考えたとき,教科間での連携の在り方を学校の実情を考慮し連携を展開していくことが,今後の理科の指導を充実させる一助となると考える。