問題12点,であるとき2点間の距離ABを求めよ。
問題22点,であるとき2点間の距離ABを求めよ。
これらの問題をベクトルで考える場合は,双方とも原点Oからの位置ベクトルを用いて,の成分を求めて,その大きさを求めることが一般的であると思われる。
しかし,例年の本校生の授業中の発問に対する返答や定期テスト・小テストの記述をみると,平面の場合の公式と,空間の場合の公式を別々に暗記しているという生徒が少なくない。一例として,上に示した問題1は正解できているのに,問題2は空白のまま提出など。
これでは,ベクトルの有効性を理解できず,ベクトルが便利なものであることを認識できない。
この原因は,生徒達の学習の仕方と教科書の順序によるものと考えた。というのも,数学Bの教科書ではベクトルの学習を行う際に,まずは平面上のベクトルを学習し,その後に空間のベクトルを学習する。この順の通り平面上のベクトルで学習した内容を,さらに空間に拡張し,次元が変わってもベクトルは同じ扱い方ができるということを最終的には理解することが教科書のねらいである。これらを指導する際に,上手く平面上のベクトルと空間のベクトルの扱い方を関連づけることができれば,教科書のねらい通りになるのだが,公式と例題の暗記を頼りに学習を行う生徒が多い本校では,ねらい通りにいかないことも多い。
そこで,今回の実践報告では,平面のベクトルと空間のベクトルを同じ扱い方で理解することを促し,本校生が教科書のねらいにより近づく取り組みを行った。
空間のベクトル
空間のベクトルも,平面上のベクトルと同じ扱い方ができることを理解させ,実際に使えるようにさせる。
対象生徒は,平面上のベクトルの授業を終えたところである。2時間をかけて平面の知識を空間に拡張する学習を行った。
1時間目:平面上のベクトルの公式から,空間のベクトルの公式の導出
2時間目:問題演習・グループ学習
①題材
平面ベクトルと空間ベクトルの同じところ・異なるところ<資料1>
空間のベクトルの練習問題<資料2>
②導入
【1時間目】
先の授業までは平面のベクトルを学習していたので,その復習もかねて<資料1>を生徒へ配布し,平面上のベクトルで学習した種々の公式と扱い方の復習を行った。資料のプリントでは,平面上のベクトルで用いた扱い方と空間のベクトルでの扱い方を比較し,同じ扱い方で問題を考えることができることを説明した。その上で,平面上のベクトルの公式から,空間のベクトルの公式の導出を行った。また成分表示した公式を導かせた。
本来ならば,教科書で1つ1つ学習し,それぞれに該当する例題・練習問題を学習する事項であるが,今回はこのプリントを基にいきなり空間のベクトルの問題演習を行った。
③グループ活動
【2時間目】
グループに分かれ,教科書の問題をプリント<資料1>(生徒に渡したときは教科書の番号は書いていない状態)にしたものを順に解かせた。教科書の例題では,どの公式を使用するのかと言うことが明示されているが,今回の演習では例題を設けていない。そこで,前時の<資料1>を頼りに,平面上のベクトルの知識と関連付け,どの事項が今解いている問題に使用できるかを自動的に考えさせるようにした。考える活動であるので,ベクトルへの理解が高い生徒と苦手としている生徒が混ざるようにしてグループを作り,例題のない状態から問題を考えさせた。
座標などの問題では,比較的にどの公式を使ったらよいかということを見つけ,どの生徒も答えまでたどり着けていた。しかし,後半の問題に進むにつれ,グループ内で差ができ始めた。そのときは,教科書の平面上のベクトルの例題を参考にするようにアドバイスをし,平面上のベクトルの知識から考える作業を続けさせた。
④考察
教科書の例題を用いて説明していたときは,生徒達の頭の中で空間のベクトルの公式は新しい公式という認識が強かった。特に成分表示された公式は,平面と空間で異なる式で表されることから,どちらも別々に覚えて別々に使うということになりやすい。今回の指導方法では,ベクトルを用いた表現がまずは基本であることを強調しており,それを見て考えるので,以前よりは平面と空間の繋がりを意識して,取り組めたように感じた。
問題点は,あらかじめ予想していた通り,ベクトルに苦手意識を持つ生徒がついて来ることができないことだった。平面上のベクトルを苦手としている生徒については,ベクトルの基本事項を理解できていないこともあり,その知識を用いることが基礎となる今回の授業では,お手上げとなってしまった。今回の指導方法では,平面上のベクトルをどれだけ理解させているかによって,大きく効果が変わることを実感した。また,平面上のベクトルの知識が定着していない生徒は,後続する空間のベクトルの授業でも,「~はどうしてこうなるの?」と質問を何度もしており,後々個別に質問に答えることで対応した。
以上のことから,今回の指導方法では「平面上のベクトルと空間のベクトルを同じように扱う」というねらいを達成できたが,その効果を十分なものとするためには,平面上のベクトルを指導する際に基本の徹底を行う必要があり,それなしでは生徒のベクトルに対する苦手意識をさらに増幅させることにもつながってしまう。今後,ベクトルを指導する際にはこのことを十分に注意したい。
平面ベクトルと空間ベクトルの同じところ・異なるところ<資料1>を見ながら,グループで話し合い問題を解いていた。以前の学年の時よりも,多くの生徒が公式の暗記ではなく,既知である平面上のベクトルと関連付けて考えるようになった。その後の小テストの結果をみても,冒頭の問題2のような問題に対して,空白の解答が明らかに減少した。少なくとも,ベクトルの成分を求めるなどの記述はできていた。
対象生徒は理系クラスであるが,中学校まで公式暗記と問題暗記で学習をしてきた生徒も多い。しかし,そのような状況でも,既知の分野との関連性や,それを拡張し新たな知識を得ることができるなど,数学としての楽しさを味わえるような授業を行うことが,生徒達の数学への見方を変え,ひいては数学への取り組み方を変え,最終的には数学力向上につながると信じている。これからも,そのような授業を考えていきたい。
【参考文献】