本校は令和元年度からSSH(スーパーサイエンスハイスクール)の指定校になっており,数学の分野でも様々な活動が行われている。今回,主に夏休みを利用してSSH数学講座「黄金比」と題して講義を行った。 前編では,その教材の前半部分を紹介し,主に黄金比と自然界のつながりについて述べている。後編では教材の後半部分(15)~(26) を紹介し,黄金比を数学的に分析している。それに併せ,実際に講座を受けた生徒の感想や講座の意義についても述べる。
講 座 名: | SSH数学公開講座「黄金比」 |
日 時: | 令和2年8月21日(金)及び25日(火) |
時 間: | 毎回約2時間(計4時間)(興味がある一部の生徒にはさらに2時間) |
対 象: | 1,2年生 16名+理科教員2名 |
配布資料: | A4で約60ページ |
内 容: | 黄金比 |
前 編
(1)ユークリッドの問題から
(2)ペンタグラマの中に現れる黄金比
(3)黄金比と正五角形の作図
(4)もうひとつの比-白銀比-
(5)黄金長方形-正方形がいくつとれるか-
(6)フィボナッチ数列と黄金比
(7)フィボナッチ数列とパスカルの三角形
(8)対数螺旋と黄金比
(9)連分数
(10)黄金比の連分数展開
(11)連分数による有理数近似
(12)黄金比は最も有理数を寄せ付けない
(13)植物の葉の並びと黄金比
(14)ひまわりと松ぼっくりにでてくる螺旋
後 編
(15)黄金比にさらなる数学的メスを入れる
(16)フィボナッチからの分数列が最も黄金比に近いことの証明
(17)T 値で黄金比に近づく数列を分類する
(18)フィボナッチからの分数列が黄金比に近づく速さ
(19)黄金比の周りの有理数分布
(20)白銀比に数学的メスを入れる
(21)白銀比とペル数
(22)ペル数による分数列が白銀比に近づく速さ
(23)青銅比に数学的メスを入れる
(24)分数列が青銅比に近づく速さ
(25)貴金属比の中の黄金比
(26)神様が造った黄金比が自然を操る
さて,前編の(6)でも論じたように,フィボナッチの数列は,で表され,はより大きくなったり,小さくなったりを繰り返しながら,に近づいていく。
黄金比は無理数で,の正の解である。したがって,整数に対してになることはない。換言すれば,になることはない。
しかし,がの“よい”近似値であればの値は0ではないが値は整数でたとえれば±1等,その絶対値は小さい数でなければならない。
フィボナッチ数列から導かれる分数について,この計算をすると のように,その値は±1である。
いまのとき,であることを示そう。
はこの順にフィボナッチ数列の途中の項とする。 隣接するに対しての値を考える。
次の隣接するに対しての値は,
つまり隣接する項では,絶対値は同じで,マイナスをかけたものである。実際,フィボナッチの数列で最初から計算すると,
よって,フィボナッチの数列ではが成り立つ。
よって,フィボナッチ数列から導かれる分数はの“よい”近似値である。
一方,なので,としての値を計算すると,となり,分母が500と大きい割には“よい”近似値とはいえない。
ところで,前述したユークリッドが黄金比について言及した図形の問題で,一辺がの正方形と,縦が横がの長方形の面積が等しくなる場合,であることを述べたが,同じ図形で一辺がの正方形と縦が横がである長方形を考えると,であるので,2 つの面積は等しくはならないが,差が1 になる。
図はの場合を示したものであるが,確かに面積の差は1である。ユークリッドはこのような背景から,あの問題をつくったのかもしれない。
また,以上の議論の副産物として,は既約分数であることがわかる。なぜなら,もしの公約数をとすれば,も約数としてをもつことになる。しかしであるから,である。
よって,は互いに素である。
さて今度は隣り合うフィボナッチからの分数の差について考えてみよう。
よって,
さらに,はに交互に大きくなったり小さくなったりして近づいていくから,
よって,が成立する。
以下の表は分母を1,2,3,4…と動かし,との差が最も小さくなるように分子を定めている。明らかに数列はに近づく。しかし,その近づき方は緩慢である。なぜならば,が近似値になるためには,図の網掛けの中にがあればよい。よって,である。
しかし,フィボナッチからの分数の場合には,が成り立つので,分母が小さい割に,はるかによい近似値となることがわかる。
さてもう一度,前述したフィボナッチ数列からできる隣接する分数の差について再び考えてみる。
前述の式:から分母はそれぞれの分数の分母の積,分子の絶対値は1 である。
次のような問題を考えてみよう。
は自然数は既約分数は自然数は既約分数
においての距離を求めよ。
の距離とはに対して,を意味する。
であるので,の距離になるには,の絶対値が最小にならなければならない。21と13は互いに素であるので,は必ず解を持つ。これは不定方程式の問題である。
実際となり,の距離はとの距離に等しく,その距離はである。
こうした観点からみると,の絶対値はフィボナッチの分数において,分母がからに変わるときどうしの距離になるようになっている。換言すれば,分母が変わるとき,一番近い相手になるよう分子が変化していることがわかる。
ところで,の両辺をで割ると,
・・・①
一方,は・・・②を満たす。
上式で①から②を引くと,
ただし,
に気をつけるとは
より大きくなったり小さくなったりを繰り返しながら,に近づくことは前にも述べたが,
さらに,
より,
との距離より次の分数ととの距離の方が必ず小さくなることがわかる。
ところで,フィボナッチの数列での値を考えた。
次の隣接するに対しての値は,
であったので,フィボナッチの数列でなくても,フィボナッチ型の数列,つまりを満たす数列ならば,の絶対値は一定で,プラスマイナスを繰り返す。つまり,は初項と第2 項によって決まり,である。よって,が成り立ち
が成立する。
したがって,フィボナッチ型の数列も,プラスマイナスを繰り返しながらに近づいていくことがわかる。しかもが増加すれば確実にとの距離は縮まる。
次の表はにおいて分母を1 から34 まで連続的に変化させ,それぞれに対してが一番黄金比に近くなるように分子を選んでいる。そしてに対しての値を計算している。表からわかるように,この値が±1 になるのはフィボナッチの数列のところだけである。それ以外のところは±1になっていない。なぜだろうか。
ちなみにフィボナッチの数列のところが±1になるのは,前に示している。
それ以外のところが±1にならない理由を考えたい。
そのことを示すためにに対してこれから示す一連の操作を行う。
― 操作 ―
フィボナッチの数列から導かれる分数の数列での次に現れるのはである。
逆にの前の分数はである。
そこで,分数に対してを対応させる関数を考える。
いわば,フィボナッチの分数列を1つ前に“逆流”させる関数である。
(既約でない場合は予め約分する)
前掲の分数に対して関数を含んだ以下のようなアルゴリズムを考える。
まずを計算し,その値がかどうかを判断する。
もしそうならばに対して,つまりを新しい分母に,を新しい分子にしてを施す。つまり
を計算する。そして再度かどうかの判断を行うループを行っていく。
もし,でないならば,次の判断かどうかの判断に進む。もしそうなら再びを施し,
を施すループに戻っていく。もし,でもないしでもなければそこで終了する。
具体的に,上掲の表にあるでこの操作をしてみよう。
に対してを考えたが,に対してもこの値を考えるととなり,プラスマイナスで変化していて絶対値は変わらない。
実際,上の例では
となり,その絶対値は保たれる。
さて,この操作をもとにいくつかの命題を証明し,下準備をする。
【命題1】
最初にの判断は繰り返されるが,この回数は有限である。
【証明】
最初であるから,である。
であるから次の分数の分母は正である。
また,であるので,
よって,分母は必ず小さくなる。したがって,この操作は有限回である。
この判断操作を続け,終了した値を考える。その値は2以上であるか,1以下である。
もちろん,そのときのの値も,直前の値にマイナスをかけたものである。
【命題2】
を施して,
となって終了することはない。
【証明】
のとき
となり,これはあり得ない。
のとき,分子は正なので分母が負。よって,
よって,の手前のは
であり,この段階で終了していたはずである。
よって,あり得ないことが示された。
もし,値が2以上ならばもう一度を施すが,施すべき2以上の値に対して場合分けをして考察してみる。
【命題3】
のとき,この操作はを1回施して終了になる。
【証明】
このときつまり
を施すと
より,分母は正である。また,
により
分子<分母になり,
である。よって,
と
の判断をNoで通り,終了することになる。
【命題4】
のとき,これはフィボナッチからの分数の流れで
になって終了する。
【証明】
このときから
は既約より,
これはフィボナッチの数列からの分数からの流れである。
に施され,
になる。フィボナッチからの分数はここにたどり着き,ここで終了することになる。逆の操作を考えれば,それ以外の分数列が1となってたどり着くことはない。
以上,すべてこの流れが終了するときにはとなっている。特にの場合はフィボナッチからの分数のときで,それがになることはない。
最後にとなって終了する列を考える。
【命題5】
のとき,
である。
【証明】
のとき,
である。
なぜなら,
において,において
である。よって,とおけばよい。上の不等式の分母を払って,
つまりなので,よって, がいえた。
まとめると手続きが終了した値についてであるか,または である。前者はである。後者はフィボナッチからの分数列で,である。よって,次の目標としていた定理がいえたことになる。
【定理】
となるのはフィボナッチの数列からの分数のときのみである。
これで長い証明が終了した。
前掲した表での値をみると,
±2や±3はない。このことはこの後の証明の途中にも使うので,なぜないのか示しておく。
【命題6】
の値は±2になることはない。
【証明】
とする。 (複合同順)
は整数なのでは平方数でなければならない。
(複合同順)であるが,を整数として
(複合同順)
となるので, が平方数になることはない。よって,が±2になることはない。
同様の理由での値が±3になることもない。
さらに次のこともいえる。
【命題7】
が互いに素ならば,の値は±4になることはない。
【証明】
なぜなら,が共に奇数ならば,は奇数である。またの一方が偶数で,一方が奇数の場合もは奇数になる。
よって,が偶数の場合は,が共に偶数のときである。しかしが互いに素なのでこれはあり得ない。よって,証明された。
命題6,命題7をあわせて,次のことがいえる。
【命題8】
の近似分数については,がフィボナッチ数列以外の数で,互いに素であるとき,
である。
もう1つ,証明して本題の証明に入る。フィボナッチからの分数列について次のことがいえる。
【命題9】
のときが成り立つ。
【証明】
より
は単調に増加するのでの絶対値は0に近づく。
また,のとき
よって,のとき
よって,証明できた。
さて,以上のことを踏まえて,次の最終的な定理がいえる。
【定理】
との間にある近似既約分数つまり,である分母とする近似既約分数において
である。
【証明】
命題9よりのとき,
なので,のとき,である。
また,であることを示す。
とすると,
よって,
よって,
近似値としてであることはあり得ない。よって,
さて命題8より,
が成り立つ。
なので,
よって,
との間に現れる近似分数はすべてを満たすことがわかる。
(証明終了)
下図はこの定理を視覚的に表したものである。
横軸を分母とし,近似分数に対してをグラフにしたものである。分母がフィボナッチのときそのときに限り,距離の最小値が更新されているのがわかる。
換言すれば,フィボナッチからの分数列がに近い最も内側の有理数である。
下のグラフは前のグラフに,の場合(青で表示)との場合(緑で表示)を表示したものである。であるので,フィボナッチからの分数に次いでが,次に が0に近づくことがわかる。の値が大きいほど,近づくスピードは遅くなる。
近似分数をの値ごとに場合分けして表示すると,意外なことに気づいた。
となる近似分数は以下の通りであるが,すべてがなる操作でつながっている。
しかしの場合には,なる操作でつながっている“枝”は 2 本ずつ存在しているようである。これらはこの操作でつながっていない。なぜこのようになるか,次回までの課題としよう。
ちなみにそれぞれの分数列において,ある程度分母が大きい値から始まっている。たとえばの場合,から始まっているが,逆操作によって
ところで,を曲線として描くと右の図のようになる。それぞれ双曲線になっていることがわかる。それらの双曲線の漸近線は,
さてここでが
に近づいていく“速さ”を考えよう。ここで“速い”とは,この場合,分母が小さい割に,よい近似値になっているということである。
前述した式から,
を限りなく大きくすると
より,
より,
よって,を限りなく大きくすると
よって
,
が十分に大きいとき,
はどんどん0に近づくが,それは分母の2乗に反比例し,その係数は である。次の図はフィボナッチからの分数列が に近づくイメージである。
に
をかけても
の値に近似しながら0になる。
しかし,に
をかけるとその値は発散してしまうこともわかる。
下のグラフは横軸を分母として,
に分母である
をかけたものである。
分母がフィボナッチ数列のとき0に近づいているのがわかる。
フィボナッチからの分数列ではなく,たとえばであるリュカ数からつくられた分数列の場合は,
が十分に大きいとき,
となる。
リュカ数からつくられた分数列の場合も,分母の2 乗に反比例するがその速度はフィボナッチ数列の場合に比べ5倍遅い。
一般にフィボナッチ型の数列の近づく速さは,フィボナッチ数列の場合に比べ,倍遅くなる。既約分数の場合,
の値は以下の数である。
そしてに近づくフィボナッチ型の数列はが十分に大きいとき次のものに限る。
1種類(フィボナッチからの分数)
1種類(リュカ数からの分数)
2種類
2種類
2種類
の周りの分数は,その分数の分母に着目すると,
より大きく
より小さく,
より大きく
より小さい値である。
これをイラストしたものが右図である。
フィボナッチ数列以外の分母はここからは隠れて見えない。
は と
の間を,
と
の間を進んでいくが,それを上から見た図が下図である。わかりやすいように,各分数の間の幅(本来なら縮まるところ)を一定に描いている。
さらに分母を拡張してパソコンで描いたものが下図である。中央の横線であるに近接しているところはフィボナッチからの分数列である。
参考までに,で同様な操作をすると次の下図のようになる。この“模様”は,無理数によって特有なものになる。またについては次頁の図のようになる。
黄金比は連分数で次のように展開できる。
また,
はコンピュータのシュミレーションにもあったように
のように展開できる。よって,を考えると,
のようになる。整数がすべて2になる。その意味でを白銀比と定義する流儀もある。
この場合,はと区別して「大和比」とよばれることがある。
は一辺が1の正八角形の高さに相当し,時計等安定した置物の比にも使われる。
ちなみに,を解に持つ2 次方程式はである。
これはまた,から
よって,次のように変形されることからも裏付けられる。
ここから数列を構成していく。
は
に近づくと思われるが,
この数列をとおくと,
と表すことができる。
連分数のつくり方から,ある項の分子が次の項の分母にまわることは明らかである。
この
についてみていこう。
なので,が成り立つ。ここから,
が出てくる。つまりこの数列はで定まる数列である。
の番目の項を式で表す。
実は,はを計算したときのの係数に一致する。つまりとなる。
なぜなら,とおけば,
は
の解なので,
が成り立つ。よって
の係数に着目すれば,
が成り立つことがわかる。
しかもであるからである。
であったから
とは一致する。
また,であるので,よって,
が成り立つ。この数列は「ペル数」とよばれる。
そしては次の計算から
に限りなく近づくことがわかる。
実際,
なので,分母の値は正の値で1に近づき,分子は正負を繰り返しながら0に近づく。
つまり,はの値より大きくなったり,小さくなったりを繰り返しながらに近づいていく。
ところで,はの解である。
は無理数であり,有理数は解にはならないので
にはならない。
換言すれば,
にはならない。
しかし,もし
であれば,そのような
は
の“よい”近似値であると考えられる。
先に導いたペル数に対してがこれにあたるかどうかを計算すると,以下のように±1の値になっていることがわかる。
図式化すると次のようになる。
なぜならば,はこの順に白銀比を構成するペル数の途中の項とする。隣接するに対しての値を考える。次の隣接するに対しての値は
つまり隣接する項で,この値は絶対値は同じで,プラスマイナスを繰り返す。
よって,ペル数ではが成り立つ。
は変形すると となり,これを図式化すると,右図の灰色の正方形の面積と,L字型の面積の差が1という解釈になる。次の図でもわかるように,実際に確かめてみると確かに面積の差は1である。しかも正方形の面積の方がL字型に比べて大きくなったり小さくなったりしている。
なお,少し蛇足になるが,においてはを満たす。ただし,とする。
なぜなら,
よって,となるからである。
このは,を満たす。
実際,
また次の図からも明らかである。
整数について不定方程式をペル方程式という。(一般に形では平方数でない自然数に対して)
はこのペル方程式に解を与える。具体的にはである。
さて,話を元に戻そう。黄金比のときも考えたが,とその次の項の差について考える。
より両辺をで割ると,
・・・①
一方,は・・・② を満たす。
上式で①から②を引くと,
ただし,
に気をつけるとはより大きくなったり小さくなったりを繰り返し,に近づく。
さらに,
よりとの距離より次の分数ととの距離の方が必ず小さくなることがわかる。
また次のように変形でき,
を限りなく大きくするとより
またより
よってを限りなく大きくするととなり,次のことがいえる。
が十分大きいとき
はどんどん0に近づくが,それは分母の2乗に反比例し,その係数はである。にをかけてもの値に近似しながら0に近づく。
下の表は分母を1から40まで動かして,に最も近くなるように,分子を選んだもので既約分数のみを挙げている。ここでを計算すると,分母がペル数の時に限り±1になっていることがわかる。このことの証明は,黄金比の場合と同様であり,証明もかなり長くなるのでここでは省略する。
ここまでは黄金比の場合と類似していることがわかる。しかし,ペル数による白銀比の場合,黄金比の場合と異なるところもある。
黄金比のときは,の値が,フィボナッチの数列のときに初めてその最小値が更新された。換言すれば,
との間に現れる近似分数 はすべてを満たす。
しかし,次の表からペル数に出てこない分母が3と17において最小値が更新されることが確かめられる。このときの値は-2である。上の表では大きく□で囲ってある。
換言すれば,との間に現れる近似分数 はすべてを満たすとは限らない。
次の折れ線グラフの青い中が空の円のところが例外である。連分数から漏れた分数であり,とである。この後も現れる可能性がある。ただのとき,最小値が更新されるかというとそうでもない。のときはであるが,最小値は更新されない。
なぜ連分数から漏れる分数があるかはなぞである。次回への課題としよう。
白銀比(ペル数)のみから構成される分数ではが成り立つが,分母をスライドさせて,の最小値が更新される数列すべてを入れると,係数の値はさらに下がるかもしれない。
同様にと展開できる数は青銅比という。
この比の値はでなければならないので,の正の解であり,である。
はに近づいていく。
連分数のつくり方から,分数列の分子が次の項の分母にまわることは明らかである。
この数列をとすると
これを変形して数列の分母に現れる1,3,10,33,109・・・の一般項は,
を満たす数列である。
この数列はとしたときのつまりの係数に現れる数に一致する。実際,はの解であり,
が成り立つから,が成り立つ。
また,であり,を満たすので,とは一致する。
さらにであるので,
が導ける。
がに近づいていくことも以下の計算から確かめられる。
はに対して大きくなったり小さくなったりを繰り返しながら近づいていくことがわかる。
ところで,はこの順に青銅比を構成する数列の途中の項とする。
隣接するに対しての値を考える。次の隣接するに対しての値は,
つまり隣接する項で,この値は絶対値は同じで,プラスマイナスを繰り返す。実際,この青銅比からの数列で最初から計算すると,
よって,が成り立つ。
よって,両辺をで割ると,
・・・①
一方,は・・・②を満たす。
上式で①から②を引いて,黄金比や白銀比と同様に計算すると,
ただし,を得る。
に気をつけるとはより大きくなったり小さくなったりを繰り返し,に近づく。
さらにであり,
であるので,との距離より次の分数ととの距離の方が必ず小さくなることがわかる。
ところで,から
を限りなく大きくするとより
よって,黄金比や白銀比と同様に計算して次のことがいえる。
はどんどん0に近づくが,それは分母の2乗に反比例し,その係数はである。
にをかけてもの値に近似しながら0になる。
下の表は分母を1から40まで動かして,に最も近くなるように,分子を選んだもので既約分数のみを挙げている。
ここでを計算すると,分母がこの数列のときに限り±1になっていることがわかる。このことの証明は,黄金比や白銀比の場合と同様に,証明もかなり長くなるのでここでは省略する。
ここまでは白銀比と同様に黄金比の場合と類似していることがわかる。しかし,ここでも青銅比を構成する分数の場合,黄金比の場合と異なるところがでてくる。
黄金比のときは,の値が,フィボナッチの数列のときに初めてその最小値が更新された。
しかし,下のグラフからはに出てこない分母が2と7と23のときも最小値が更新されることが確かめられる。
このときのの値は±3である。前の折れ線グラフの青い中が空の円のところが例外である。ととである。
換言すれば,との間に現れる近似分数はすべてを満たすとは限らない。
これも白銀比のときと同様になぞである。次回への課題としよう。
ところで,青銅比のみから構成される分数では,が成り立つが,分母をスライドさせて,の最小値が更新される数列すべてを入れると,係数の値はさらに下がるかもしれない。
この青銅比は現実の世界ではあまり使用されていないようだが,例えば,横長の窓や壁の全体を活用した掲示やデザイン等を考える場合に1つの参考比率となっているようである。またホームページ作成で,ウィンドウ幅いっぱいのメインビジュアル(トップページのヘッダーの下に表示出来る画像)の高さを決める時など,参考にするようである。
これまで,黄金比をはじめ,白銀比,青銅比をみてきた。
黄金比 | の正の解 | ||
白銀比 | の正の解 | ||
青銅比 | の正の解 |
一般にの正の解はであり,その連分数は表される。これらの比のことを「第貴金属比」という。
第1貴金属比は黄金比,第2貴金属比は白銀比,第3貴金属比は青銅比にあたる。
第貴金属比を連分数から構成する数列は,
であり,はに近づいていく。よって次のことがいえる。
いずれの場合も,数列と,その数列が近づく値の距離は,数列の分母の2乗に反比例する。そのときの係数は,
黄金比白銀比青銅比で,この後も小さくなるばかりである。この値は黄金比が一番大きい。
その意味で,黄金比はこの中で,有理数と一番距離を取っている無理数であることが裏付けられる。そして黄金比と一番近い距離にある有理数はフィボナッチから構成された分数である。
ところで,これまでといった,すべて出てくる値が同じ連分数のものを考えたが,数によって連分数にでてくる数字は当然何種類もでてくる場合もある。たとえば,
と連分数展開できる。ここからでてくるに近づく数列は
である。この数列に対して,がどう変化するかを考える。
途中計算は省略するが,が十分大きい数のとき,は次のようになる。
つまりは偶数と奇数の項で近づく値が異なる。しかし今はとその周りの有理数との距離を考えているので,距離が狭い方を考えるのが妥当であろう。したがって次のことがいえる。
いずれにしても,黄金比のときは,であったので,黄金比に比べて有理数が密着していることがわかる。
数列がに近づいていくイメージ
下の曲線の方がから離れている
一般にと連分数展開できる数に対して,そこに近づく分数の列を連分数からつくったとき,次のことがいえる。これも長い計算が必要なので途中を省略する。が十分大きいとき,
よって,この場合も偶数と奇数の項で近づく値が異なり,有理数との距離は狭い方をとって,
がいえる。仮にの方が小さいとしてであるから,
が成り立ち,黄金比はもちろん,白銀比と比べても有理数に近く,より密着していることがわかる。
これまで,黄金比のほかに白銀比や青銅比について考えてきた。しかしながら自然界に現れるのは,白銀比でもなく,青銅比でもなく,黄金比である。仮に白銀比が現れるならば,その連分数から導かれる比から導かれる数列1,2,5,12,29,70,169・・・が自然界の中に現れるはずが,今のところ見つからない。
また数学的見地から黄金比の周りの有理数を考えると,その最も内側は,フィボナッチ数列による分数列で出来ており,その内側は“空洞”で有理数は存在しない。その空洞の半径は,他のどの無理数よりも大きいのである。そしてこれが自然界に黄金比が現れる原因になっている。
個人的な見解であるが,生物が進化の過程で偶然黄金比になったとは思えない。何か神秘的なものを感じ,自然を造った創造者の存在に思いをはせる。
約4時間の講座の後,生徒に感想を書いてもらった。以下にその抜粋を載せる。なお,この後,希望者4名に対して(16)以降の内容についてより詳しく説明している。
○今回の講義を受ける前までは黄金比は人間が考えた美しい比率だと思い込んでいました。ところが自然界にはたくさんの黄金比が存在していてハヤブサや蜂の飛ぶ軌跡や葉の付き方など,自然において最も合理的な比率であると聞き,とっても神秘的で美しいと思いました。
○自分は高校に入って数学に興味を持った。自分が興味を持った数学がまさかここまで深い学問だとは想像もしておらず驚いた。講義ついての感想は「フィボナッチ数列」という言葉は前々から聞いたことはあった。自分は「なんかの数が規則的に並んでいるだけじゃないか」と思っていたが,全然そんなものではなく,奥が深い数列だと思った。これからも数学を楽しんでいきたい。
○という数にあまりなじみはなかったが,この講話を聞いて黄金比に関心を持った。なぜ黄金比が自然界で深く関わりがあるのかが解明されたら,さらに様々なことが解明されていきそうなので,期待したい。今回の講話を開いていただきありがとうございました。
○以前「数」は単に個数や長さを表すだけのものだと考えていた。有理数,無理数も正直のところ,人間が区別しているだけで,自然界においては大差ないと思っていた。しかし有理数を寄せ付けない黄金比には,葉が重なりにくい等,有理数にはない点があり驚いた。今まで思っていた「数学」とはまた違った数学の見方に気づけました。数学の分野に興味がとてもわいてくる授業をありがとうございました。
○まず第1に数学と自然界の生態系が結びついているということに驚きました。そして「黄金比」の他に「白銀比」,「青銅比」という貴金属比というものがあるということを初めて知りました。また松ぼっくりの螺旋というものは,一般における連分数とは逆に巻いていることが,驚きと疑問にあふれました。地球が誕生してから何億年も経っており,そこにおける生態系の「おもしろさ」というものを学ぶことができました。
○今回講義を受けてみて,数学の意味を,自然と結びつけることで,とても強く感じたと思う。そして今回言っていた内容は,かみ砕いたりしたものであるだろうけども,想像以上に簡単な感じの法則的なものがあるのだと,感動すると共に,これを見つけ出す人たちの見いだす植物,世界などの何とも言えない不思議な神秘的なものが良いなと思う。
○黄金比というものが,この世に存在していることは知っていたが,実際にどういうものなのか理解できず,この講義を受けさせてもらいました。黄金比が自然界の様々な場所にあることがわかり,またそれを数学的に解説してもらえたのが,とても面白くためになりました。
○私たちが日頃過ごしている中でも,多くの比が関係していることがわかった。また私たちの身近にだけではなく,様々な図形や歴史的な建築物,自然界にも幅広く活用されていることがわかった。そして今回の講義を受けて,黄金比とフィボナッチ数列の関係性,連分数の関係性などを理解することができ,黄金比に対しての視覚的美しさだけではなく,数学的美しさを感じることができた。
初めに述べたように,この資料は高校生でも理解できるように,できるだけ簡潔に平易に書いたつもりである。黄金比は昔から多くの方が研究されているので,本稿には真新しいものはないのかもしれない。しかし,他の解説よりも,できるだけ証明の方法を独創的に,しかしわかりやすく工夫したつもりである。
例えば,正五角形の作図のところでも,教科書でのやりかたとは異なったものを考案し紹介している。ちなみに,教科書のやり方はの値を知っていることが前提である。
また,フィボナッチの数列のところでも,3項間の漸化式から,あの複雑な漸化式の変形を通りがちであるが,そうした知識がなくても一般項を出せるように工夫した。さらに,黄金比の周りの有理数の分布を論じる際にも,黄金比に近づく数列をフィボナッチ数列の一般項から表して考察しがちであるが,そうすると,式の計算が複雑で膨大になり,証明も煩雑になってしまう。本稿ではという新しい概念を導入しそれを避けている。
こうして,本稿では様々な数学的事実を明らかにしているが,研究を進む中で,またいくつかのわからない事も出てきている。たとえば,黄金比に近づく数列で,を満たす数列は,2種類あることが見いだされている。また,白銀比や青銅比に近づく数列で,連分数展開から漏れる数列,つまり,白銀比や青銅比に近い数であっても,連分数から導き出せない数も見いだされている。研究をしていく際,新しいことがわかる一方で,その先にまたわからないことが見えてくることは,多くの研究の中で見いだされている。それが次の研究へ向かうバネになることも確かである。本稿ではそうした経験もできる。
講義の後,生徒は口々に「深い!」と言っていた。1つのテーマを決めて何時間もかけて突き詰める経験は,普段の授業ではできない。しかしそのような経験により,生徒は数学の奥深さや面白さ,自然等他の事象とのつながりについて学習し,感動につながっている。SSHの数学講座だからこそできる技である。
普段の授業では限られた時間の中で単元の内容を要点をつまんで話をし,そして単元テストを行う。そして次の単元へと移っていく。生徒はこうしたサイクルを何年もの間経験しており,それが数学だと思っている。数学のうわべだけを,“短時間で飛行遊覧して終わっている”と言っても過言ではないであろう。
それなので,生徒に何も教えないでいきなり「黄金比について研究しなさい」と言っても生徒は何をしてよいか戸惑うだけである。この教材は「数学を研究していくということは,こういうことだ!」という1つの模範を示している。単に「上から見下ろして終わり」ではなく,「その地を歩き,土壌を掘り起こしていく」作業をすることが研究なのだということを生徒に知ってもらいたいのである。そしてそこにまで行って初めてわかる数学の価値も感じてほしい。
今後ともこのような機会を設けて生徒に数学で掘り下げることを経験させ,数学観の育成に寄与していきたい。
数年後,生徒達は大学に進学し,様々なことを研究するであろう。ここで学んだ経験が,それぞれの研究の羅針盤として役だってほしいと願っている。
最後に本稿で取り扱った比についてまとめる。長方形の縦は1で,横がそれぞれの比である。
白銀比(大和比) | ||
黄金比(第1貴金属比) | ||
プラチナ(白金)比 | ||
白銀比(第2貴金属比) | ||
第2黄金比 | ||
青銅比(第3貴金属比) |