はじめまして,市立札幌旭丘高等学校の角と申します。今回このような報告の場をいただき,皆様に読んでいただけることを大変嬉しく思います。私は4月から現職場に異動しており,この報告は3月まで在職していた市立札幌清田高等学校における実践事例です。
当時,私が暗中模索で動画を作り,配信したものを,生徒は学校のホームページ内「学習支援資料集」から視聴していました。生徒達の意見や反応も参考にしながら合計600本ほどの動画を作成しましたが,現在は,個人のチャンネルでこれまでの動画の再アップ,ミスの訂正等をしつつ,活動を続けております。
2020年4月から6月までの「緊急事態宣言」に伴う一斉休校によって,本校も全く授業ができない状態になってしまいました。当時,私は2学年主任だったのですが,漠然とした不安を抱えているであろう生徒達に何かを伝えねばならないと思い,毎日授業を届けることを考え,動画を作成することにした次第です。結局授業が再開した後も,彼らが卒業するまでの2年間,数学Ⅱ,B,Ⅲほぼすべての授業の内容,放課後に行っていた講習,特に必要と感じた内容等を動画にして伝え続けました。現在も試行錯誤の連続ではありますが,指導の報告をさせていただきます。
休校中における課題として,参考書・問題集(アドバンス:ページを指定)の演習を指示しました。ただ,教科書等を読み,自力で問題演習できる生徒はそれ程多くはないと予想できたので,動画を見ることによって教科書程度の内容を理解し,自力で問題集に取り組めるようなものを目指して作成しました。
具体的には,
図1
7月に入り授業は再開されましたが,このあと速いペースで進まねばならないこと,学級閉鎖や出席停止で授業を受けられなくなる状況もあり得ることを想定して動画作成を続けることにしました。普段は予習用・復習用の動画として,休んだ生徒にとっては授業の代わりとなり,Zoom等によるリアルタイムでのオンライン授業ではありませんが,その都度その都度設定する必要もなく,一度動画を作ってしまえば教員側の負担は殆どないといえると思います。また,これも予想していたことですが,視聴回数が伸びるのは次の場合でした。
図2
2021年度となり,引き続き先行きが見通せない状況の中で,何が何でも数学Ⅲの授業は無事に終了させねばならないと考え,教科書を新編数学Ⅲ改訂版(啓林館)に変更しました。できるだけ薄い教科書を使用し,少ない時間で一通り終わらせることを優先しました。この年度の3年生は例年よりも数学Ⅲの履修者が多く,学力の幅も大きかったので,優しく薄い教科書にしたことはよい判断だったと思っています。尚,数学Ⅲ履修者の大半が国公立大学志望者であるため,多少発展的な内容や,計算に負荷がかかるようなものも動画で対処することにしました(図3)。
図3
生徒にとっては何を考えてどのように立式し,どんなところで間違えそうになるのか等,実際に解きながら解説することが納得しやすいそうです。(私が実際に間違ったりもしますが,途中で訂正したり,こちらが慌てたりする様子も恥ずかしいですがそのままだったりします。)
実際,旧帝大をはじめ難関校を目指す生徒が割と少ない本校では,難易度の高いものを扱った動画はそれ程視聴回数が増えていませんでした。だからこそ,普段の授業はその分基礎計算や定理・公式の理解に重点をおくことができたと思っています。一人一台端末が達成されていれば,予習動画の内容を前提とした反転授業をすることもできるのではないかと思います。それについては今後の実践としたいと思います。
幸いこの年度については大きく授業が削られることもなく,結果的には数学Ⅲを途中であきらめる生徒は最小限に抑えることができました。
授業ができたとしても,放課後の活動や長期休業中の講習,居残って学習することが制限される状況であったため,「少ない時間で効率化を図る」を重視し,動画を活用しました。共通テストのための講座では,演習に十分な時間を割くため,用いる基礎知識については「予習動画」を作成し,講習に出席したときは予備知識をもっていることを前提として問題演習と詳しい解説に時間をかけるようにしました。
また,ⅡBまでの復習の相談に来た生徒には,相談内容によって見ておくとよい動画をリストアップして伝えると効率よく復習することができるかと思います。一度作成した動画は無くならないので生徒は何度でも見ることができ,同じことを何度も質問に来る生徒は以前よりも減ったという感じがします。(理解しているかは不明ですが。)
試行錯誤の中,動画制作を続けながら通常の授業を続けてきました。しっかりと検証できたわけではありません(まだ実践の途中)が,気づいたことをいくつかお伝えしたいと思います。
【良かったと感じた点】
図4
図5
【残念な点】
本当に私が目指さなくてはならないのは,自分で教科書や参考書を読みながら自学自習できる生徒を育てることのはずで,今回の実践ではそこにつながっているのかがずっと疑問に感じたままで,今でもそこが引っかかっている点です。私は日本の参考書・問題集は世界一だと思っており,生徒の学習状況にあっているものであれば,それだけで学習できることが最も望ましいと考えています。ですから今後しばらくの間,動画を利用しながら,どのように書籍での自学自習につなげていくかを考慮しながら教育実践を継続したいと考えております。最後までお読みいただきありがとうございました。