2022年3月でCOVID-19の全国的な感染拡大から3回目の卒業式を迎えた。現在の授業設計のヒントをえられたのが,2020年5月中旬から本格的にオンライン授業を実施したことによるものである。ここでは,現在の授業設計に至った経緯とその授業実践例の一部を公開する。
COVID-19の全国的な感染拡大により,2020年3月初旬から全国一斉に3ヶ月間学校が休校になった。そのため,本校も教職員等は原則として在宅勤務となった。
できるところから始めるために2020年4月の新学期から,SHRは全クラスでZoom1)を利用したオンラインで実施することになった。以前から本校では,教職員等,生徒たち及び保護者における相互連絡にClassi2)を導入していた。そのためパソコン機器等の活用及び操作自体は慣れていた。また,2018年からノート型パソコンは教職員に1人1台貸与されていた。したがって,例えば教科担当者からすれば,①担当生徒の顔が見えること,②双方向のやり取りができること,③操作が比較的簡単であること,④通信量がかからないこと,⑤セキュリティが十分であること等さえ満たしていればZoom以外でも良かった。しかし,当時いくつかのものを試してみてSHRで活用するものは,原則として文書はClassiで,音声と映像による連絡はZoomによることに落ち着いた。なお,現在も本校では原則としてこの形態である。
新入生の入学後,3学年が揃った4月の中旬までは,SHRはZoomで行い,教科の課題は,動画を含めClassiで配信していた。4月下旬に1日間だけ試験的に1限目から4限目までオンライン授業を実施することになった。このときオンライン授業で使用したものは各学年によって異なっていた。この試みで発生した問題点を教職員で共有した結果,Zoomを全学年で使用することに決定した。本格的なオンライン授業は,5月の連休明けから開始することになった。そのための準備期間は約2週間である。
私自身は,第2学年の1クラスを教科担当としてオンライン授業を実施することになった。その授業期間は3週間である。該当クラスの年間計画によれば,その期間における進度は,数学Ⅱの「三角関数」であった。なお,その当時オンライン授業は,授業時間として認定されるかなどは流動的であった。3)
1) ネットを通じてコミュニケーションを行えるオンラインミーティングの一種のこと。
2) クラウドサービスの一種のこと。
3) その後の経緯等は,文部科学省Q&A(学校設置者・学校関係者の皆様へ)
https://www.mext.go.jp/a_menu/coronavirus/mext_00041.html#q1.2022年3月7日を参照のこと。
次に,当時の私自身の授業設計は次のようであった。
プリントの形で定義,定理,例題,問題はそれぞれ[図1],[図3],[図4],[図5]のような形のものを,その都度生徒たちに配布する。他に用語,公式も同様である。
(定義のプリント(実物大のプリントを写真で撮ったもの)例([図1]参照;紙の大きさはB5を基本とし,文字の大きさは,【定義】,[注意],[用語]及び用語はすべて18ポイント,本文は12ポイントであり,全体を□で囲っている。以下[図3],[図4],[図5]のそれぞれ【定理】,【例題】,【問題】の例も同様である。)
[図1]
この形式にしたのは,6年前に担当した第1学年の最初の授業で,彼らのノートを書くスピードが速くないことに気がついたためである。板書を書写することが目的ではないため,第2回目の授業からは,定義,定理,公式,例題,問題はプリントにして配布する形に変えた。なお,プリントには必ず,学習する内容のタイトルと使用教科書のページを記載することにした。以下,便宜上,生徒たちに配布するプリントはカギ括弧「 」で表すものとする。
「定義」を穴埋め形式にしているのは,生徒たちにそれらを調べる習慣を身につけてほしいことと,1回はそれらを書いてみること等を目的としている。なお,どのプリントにも後で補えるような図やグラフは載せていない。授業で提示したあと,生徒たちが,定義,公式,定理の内容を理解するように役立ててほしいからである。これも授業目的の1つである。毎授業後,2~3問の提出課題問題を文書をPDF化してClassiで生徒たちに提示した。各学期の終わりに生徒たちにアンケートを実施して,その記載内容から指摘されたことで,徐々に改善できるところは実行していった。
その結果,3年後には授業設計が次のような形でまとまり,授業が進行していった。
4) トニー・ブザン.神田 昌典(翻訳).(2015).『勉強が楽しくなるノート術』.ダイヤモンド社.p61
このような授業設計及び実施形態で4年目を迎えたところでCOVID-19による感染拡大の影響で全国一斉に休校になった。そこで,2週間の準備期間で,5月の連休明けから始まるオンライン授業で「三角関数」の章を終わらせる計画を立てた。回数は17回である。幸いにして4月下旬の試験的なオンライン授業で弧度法の導入は終わっていた。指導要領に基づいた解説書5)では,配当目安時間が章末問題を除いて,17時間であることは知っていた。教科書の目次の流れでは,17回で「三角関数」の章が終わらないことは分かっていたので,次のように配列を変えた。
第1回 | 一般角と弧度法の定義 |
第2回 | 三角関数の定義 |
第3回~第5回 | 三角関数の加法定理 |
第6回~第7回 | 三角関数の加法定理の活用 |
第8回 | 三角関数の合成 |
第9回 | 三角関数のグラフのかき方 |
第10回~第12回 | 三角関数のグラフと周期 |
第13回 | 正接の話題 |
第14回 | 三角関数の応用 三角関数を含む方程式 |
第15回~第16回 | 三角関数の応用 三角関数を含む不等式 |
第17回 | 三角関数の応用 三角関数の最大値・最小値 |
このような配列にした目的等は次のようである。
1999年 前期日程 東京大 文科・理科第1問
(1) 一般角に対して,,の定義を述べよ。
(2) (1)で述べた定義にもとづき,一般角に対して
を証明せよ。
2003年 前期日程 東京大 理科第6問
2006年 後期日程 京都大 文系第5問,理系第6問
の3題である。生徒たちが,第7回まででこれらの問題群にある程度の答えを出せるように組み立てた。
5) 高橋陽一郎 ほか.(2012).『数学Ⅱ 教授資料』.高橋陽一郎 ほか33名/啓林館編集部編著者 p14
6) Zoomのレコーディング機能を活用した。
7) 当時Zoomは1回のミーティングで40分間という制限時間があったので,授業時間は30分間となった。
ここでは,第3回三角関数の加法定理についてその実践例を開示してみる。なお,第1回のオンライン授業で「三角関数」学習のためのマインドマップ([図2])を生徒たちに提示している。
[図2]「三角関数」学習のためのマインドマップ8)
前日に「定理」(図3),「例題」(図4),「問題」(図5)を配信した。
[図3]
第3回の授業では,[図2]の右下の部分の1つ目の定理を学習することを再確認したあと,「定理」(「図3」)の証明例を次のように提示した。
【証明】
とおく。
ここで,のなす角はとしても一般性を失わない。
よって,が成り立つから,
が成り立つ。
この証明を採用したのは,生徒たちが平面上におけるベクトルの内積を学習した後だったから可能となった。特に第8回の三角関数の合成で,コサインでの合成の方が自然にできることを示す予定だった。さらに三角関数の合成は,サインでもコサインでも問題に合わせて自在に選択できることのほうが自然だろうと考えていたからでもある。(もちろん,三角関数の合成は,通常通り,三角関数の加法定理を「ジッ」と見つめて求める方法も紹介する予定だった。)
「例題」([図4]参照)は「定理」の理解ができる典型的なものを選んだ。なお,単位はあえて弧度法にした。
[図4]
[図5]
【問題】の(1)と(2)の証明例は,次のものを生徒たちに提示した。
【証明】
……(*)
とおく。
(1) (*)でとおくと,
ここで,であるから,
(2) (*)でとおくと,
ここで,であるから,
あえて「例題」の文章内に,その問題を解くためのヒント(ここでは,恒等式)も記載しておいた。
ここまでで,30分間が経過した。「問題」の(3),(4)は次回までの課題とした。さらに,生徒たちには,提出課題問題として,教科書記載のコサインの加法定理を使う問題を2題提示した。
大体,第4回以降も以上のような形で進んだ。毎回,前日に配信した「問題」の解説はそのいくつかを,あえて次回に持ち越した。オンライン授業のため,接続率は,第1回~第17回まで各回とも100%だった。
8) 澤幡 通正.(2020).『三角関数 全17回』.自費出版.p10
なお,全国一斉の休校期間は初めての経験だったので,はしがきに「オンライン授業の実施は,対面授業の実施以上の準備が必要だ。ヤレヤレ」で始まるZoomによるオライン授業録として『三角関数』([図6]表紙 ,[図7]裏表紙)を自費出版した。試験範囲が「三角関数」の1回目の定期考査前に受講した生徒たち全員と希望者に配布した。その内容は,17回の授業で配信したプリントに解答例等をつけたものである。なお,その後,『三角関数』は2022年3月に卒業した彼らの指摘によって複数箇所訂正することができた。ここにそのことを感謝の意を込めて記す。
[図6]
[図7]