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数学

ICT機器とアプリケーションを活用した授業実践例

山口県立宇部高等学校 板倉 淳介

1 はじめに

新学習指導要領の実施や大学入試共通テストの問題傾向の変化に伴い,「生徒が自ら主体的に学び,考える」ことが必要不可欠であるといわれている。そのためには生徒が問題をどのようなアプローチで解法するのか,どのような記述をするのか,問題の解説をどのように読み取るのかを,私たち指導者が把握し,生徒の実情に応じた授業をデザインしていくことが求められている。
2020年度,本校は山口県ICT研究指定校として認定され,1人1台端末が県内の他校に比べていち早く導入された。コロナ禍で日本の教育現場が大きく変化していく時期と同時期であり,本校もICT機器やアプリケーションを活用して新たな教育を導入していくこととなった。ICT教育のメリットは「時間削減」,「演習時間の確保」,「伝達事項の明確化」,「反復講義」,「資料整理」など様々あり,今まで行われていた授業形態が大きく変化していった。特に,生徒に「教える」授業から生徒に「主体的に学び考えさせる」授業へ変えることができるのではないかと実感している。まだ,ICT研究指定校として2年目であるため,新学習指導要領に対応した授業を確立したとはいえないが試行錯誤しながら授業をデザインしているところである。

2 実践する上で考慮したこと

(1) 学習指導要領

新学習指導要領の数学の見方・考え方を働かせ,「知識及び技能」,「思考力・判断力・表現力等」,「学びに向かう力・人間性等」の3つの柱を育成されることを目標にされているが,私は特に「思考力・判断力・表現力」,「学びに向かう力・人間性等」を育成するためにどのような取組を行っていくかに注目している。数学は基礎的な計算力や思考力が必要であるため,得意な生徒,苦手な生徒がはっきりと分かれる教科である。苦手な生徒は「数学ができない」という固定観念的なものからなのか,授業では主体的に学ぼうとする姿勢が見られず,板書を写す,解説を真似て解答するなどして満足していることが多いと感じていた。そこで私が授業を編成する上で考慮していることは「考えさせる時間」と「正しい理解の共有」である。今まで受け手として授業に参加していた生徒の思考時間を大幅に確保することで,目標とする力の育成が可能であると考える。
思考する習慣の確立やお互いが正しい理解を共有する時間を確保することは,「思考力・判断力・表現力等」,「学びに向かう力・人間性等」に結びつく。「主体的」という言葉は「生徒が自ら学ぶ」ということである。様々な意見の中で正しさを導き出すことがこれから生徒に求められることと感じている。

(2) ICT機器とアプリケーションの活用の留意点

・従来の教育とICTを活用したハイブリッド的授業編成
まず念頭に置いていただきたいのが,ICTを活用すれば,確実に生徒の成長につながるというわけではない。なぜICTを活用した方がよいのか,ICTを活用して生徒にどのような力を身に付けさせたいのかを指導者が認識し,ICTを活用した場合と活用しなかった場合どのような授業になるのか,生徒はどのような変容があるのかを考え,もしICTを活用した方がより生徒の数学的な見方・考え方の育成の充実を図られると考えるのであれば,従来の教育とICTを活用したハイブリッド的授業編成にしていくことが必要ではないだろうか。

・教科の特性に応じたICTの活用方法の把握
他教科でも多くの場面でICTを活用した授業が行われているが,特に数学という教科は解答へのプロセスが非常に重要視されるため,「数学的な見方・考え方」を身に付けさせるためにグラフを視覚化するアプリケーションや動画配信の活用,データサイエンスにおける資料提示など,主に生徒が事象を論理的に考察するツールとして扱うことが効果的と考える。
他教科でも様々なアプリケーションやICTの活用方法が挙げられているが,いろいろな実践例を参考にすることは大事であるが,すべて活用するのではなく,教科の特性を把握しICTを活用しなければ,授業でどのような力を育成したいのか不明瞭となるので注意した方がよいと思われる。

・ICTの設備充実と他教科との連携
本校ではICT機器を活用した授業を充実させるため,他教科の教員と幾度の協議を重ね,下記の設備とアプリケーションを導入した。

【ICT機器】
  • 1人1台端末(Surface Go 2)
  • 各教室の黒板をホワイトボード化
  • 無線LAN接続可能な常設プロジェクター
【アプリケーション】
  • G Suite for Education
  • Libry
  • スタディサプリ

特に他校と比較したとき,本校の特徴は黒板のホワイトボード化と無線LAN接続可能なプロジェクターとアプリケーション「Libry」の導入である。まず,導入の際に1番に考えたのは「ストレスなくICTを活用した授業編成」である。今まではICT機器を利用しようとすると,ホワイトマグネットシート,プロジェクター,端末,ケーブルといった機材を持って教室に移動しなくてはならない。さらに,設置から投影まで考えれば,授業開始5分前には準備を始めないと間に合わなかった。しかし,無線LAN接続可能なプロジェクターと黒板のホワイトボード化を導入することで,教員端末さえあればICTを活用した授業を簡単に実施できるため,本校では数多くの教員がICTを活用して授業を実施している。また,教育アプリケーション「Libry」の導入は授業で活用するだけではなく,生徒自身が復習すべき問題を把握し,生徒の不正解率を基にした課題作成など今までにない授業デザインを可能にした。さらに,他教科の教員と連携したICTを活用した授業の充実を図る研修は不可欠である。この研修を通して,各教科のアプリケーションの活用実践例や資料提示における注意点等を学び,学校全体でICTを特別なものとして扱うのではなく,学校生活の中で当たり前のようにICTを扱うことが教員だけではなく生徒自身の情報活用能力の向上にもつながると考える。

3 授業実践例

【共有ドライブを利用した授業実践例】

(1) 単元名:データ分析

(2) 評価

ヒストグラム,箱ひげ図,散布図の特徴を理解し,各図表から正確にデータを読み取ることができ,また,与えられたデータから伝えたいことに応じてヒストグラム,箱ひげ図,散布図に使い分けられる。さらに,標準偏差や相関係数の値からデータの傾向を読み取ることができ,数学的に表現する力が身に付いているか。

(3) 授業の流れ

問題1
ある高校1年生の男子,女子の各20人の身長を調べた【表1】。男子は165cm前後の人が最も多いことを示すためにはどのような図を書けばよいか。また,男子の方が女子よりも身長が大きいことを示すためにはどのような図を書けばよいだろうか。

【表1】
男子 153154156158158162162163166167
(cm) 168168169173174178179183162161
女子 139140142145145147148148148149
(cm) 152153154155155159160164165167

問題2
成人男性20人を10人ずつのグループAとBに分け,Aにはサプリを与え,Bにはサプリを与えずに両グループとも1週間同じ方法でダイエットをしてもらい,ダイエットの前後での体重を計測した【表2】。サプリを飲んだグループAの方がよりダイエットの効果が高いことを示すためにはどのような図を書けばよいだろうか。

【表2】
グループA(kg) 81925163765571697786
72804757705365626870
グループB(kg) 80915389596871697770
75835281596066657068

問題3
10本の柿の木について,幹の直径と果実の数を計測した【表3】。散布図を書き,相関係数と標準偏差を求めると,どのようなことが読み取れるだろうか。

【表3】
幹の直径(cm) 32211416223537112730
果実の数(個) 1469884749315015571127133

問題4
成人20人に対し,車を所有しているかどうかと年収の関係を表した箱ひげ図である【図1】。図からどのようなことが読み取れるだろうか。

【図1】

まとめ
上記の授業実践例のポイントはデータを正確に読み取り,図表からどのようなことがいえるのか,データからどの図表を用いて表現すればよいかの使い分け,標準偏差と相関係数の値からデータの傾向を読み取れるかである。パワーポイント資料を利用してデータの整理,グループ内でGoogleドキュメントを利用して意見を出し合うことで,思考力・判断力・表現力を相互作用的に育成されていくのではないか。さらに,このデータ分析で培われた数学的な見方・考え方が「総合的な探究の時間」で実施されている「課題研究」にも活用され,次の学びに向かおうとする力の育成につながっていくと考えられる。

【アプリケーション「Libry」を活用した授業実践例】

(1) 開講時期:3年生次

(2) 評価

複雑な事象の問題に対して,解説から数学における基本的な概念や原理・法則を体系的に理解し,数学的な表現を用いて事象を簡潔・明瞭・的確に表現する力が身に付いているか。身に付いていないのならば,自身の課題として端末に記憶し,次の学びにつなげようとする粘り強く考える姿勢を身に付けられているか。

(3) 授業の流れ

まとめ
上記の授業実践例のポイントは,アプリケーションを活用して解説を正しく理解しているかを確認すること,正しく表現しようとしているかの2つである。冒頭でも述べたように,生徒は解説を写すことが目的となっていることも少なくない。だからこそ,解説を正しく理解させることは課題を与える立場からすると必然的である。この記述はどういう意味なのかが理解できていれば,正しい表現で記述することが可能である。また,「不正解」の問題を端末に記憶させることで,生徒は自身の苦手分野問題の整理ができ,効果的に振り返り学習ができることも大きなメリットである。また,指導者自身も生徒の不正解の割合を把握することができるので,復習問題として扱うことにより,生徒の学力定着につながる。

【授業】
教員・生徒は各自の端末でLibryを起動し,教員は例題の解説を用いて講義
⇒生徒は問題演習⇒生徒は問題の正解・不正解の入力

【授業後】
教員はLibry for Teacherを利用し,授業で生徒が解答した問題の不正解率を把握
⇒不正解率が高い問題は次の授業で再度解説