高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
英語

*教室での「マシュマロチャレンジ」を通して得た学びと今後の教育のあり方

埼玉県西武学園文理中学・高等学校 土屋 進一

1.はじめに

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言解除後の学校再開から数ヶ月が経過した。臨時休校中,学校現場では,オンライン授業・動画配信の準備に奔走し,学校が再開すると,教師は新しい生活様式を意識した授業展開を模索した。最近では,リアルな対面式授業が,もはや新鮮な状態ではなくなり,教師・生徒双方にとってあらためて学校の意義についてさまざまな思いを巡らせている。
本稿では,今後の新たな教育のあり方を探るべく,リアルな教室現場で行われた高校1年の「マシュマロチャレンジ」の授業について論じてみたい。

2.コミュニケーション英語Ⅰ「マシュマロチャレンジ」の授業

マシュマロチャレンジとは,パスタ(乾麺),ひも,マシュマロを使い,制限時間の中で自立可能なタワーを立てることを共通の目標としたチームワークやコミュニケーション能力が必要とされる活動である(写真1,2)。筆者は,この活動について書かれた教科書『Revised ELEMENT English CommunicationⅠ』(啓林館)の英文を読み,実際に「マシュマロチャレンジ」の体験,考察を含んだ計2時間の授業を実施した。そこから得た生徒の学びが今後の教育のあり方を考える上で有益であったので,紹介したいと思う。授業の概要は,おおよそ次の通りである。

【1時間目】

教科書本文のルール説明に関する部分を読解し,実際に「マシュマロチャレンジ」を体験する。

【2時間目】

教科書本文の結果と考察が書かれた箇所を1時間目の自分の体験と照らし合わせ,読解活動を行う。さらに,Authentic materialのTED Talksを視聴し,マシュマロチャレンジ全体を考察し,振り返りとWriting課題を行う。

1時間目は,教科書本文前半のルール説明に関する部分を読解し,実際に「マシュマロチャレンジ」を体験した。この活動では,メンバー全員の共通の目的があり,協力しなければ勝てない仕組みとなっている。あるグループは,入念な計画を話し合い,少なくなった残り時間の中で実際に塔を建てる活動に入った。別のグループでは,グループの中でいくつかのチームに分散し,prototype(試作品)の制作を,試行錯誤を繰り返しながら行った。
制限時間が来ると,出来上がったパスタの塔の高さを計測する。すべてのチームが成功まで至ったわけではないが,成功したチームの計測の瞬間の盛り上がりは頂点に達する。これで1時間目は終了である。

2時間目は,結果と考察が書かれた教科書の後半部分の英文を読み,生徒は実際のマシュマロチャレンジの体験と照らし合わせ,読解活動を行う。自分で体験した内容の英文だけに,内容理解はいつもよりずっと内面に入り込んでくる深い学びとなったようだ。
Q&Aを通しての内容理解後,発展としてAuthentic materialのTED Talksを視聴させ,異なる角度からマシュマロチャレンジを考察した。発話速度や使用語彙・表現などは,難易度が高かったが,生徒は興味を持って最後まで視聴した。

(写真1)

(写真2)

3.マシュマロチャレンジの活動を通して得た学び

学習者は,体験と知識がつながる瞬間を体得すると深い学びを獲得し,それはやがて主体的な学びへと展開していくであろう。活動の中で,この体験と知識がつながる瞬間を目の当たりにしたとき,筆者は,今後の教育のあり方を示唆していると感じた。すなわち,知識・理解の習得は,自宅でのオンライン授業の受講で可能である一方,対話的なリアルな体験を通しての深い学びは,学校の教室でしか起こりえないのである。わざわざ時間とお金を使って学校に来る価値を考えたとき,学校でしか学ぶことのできない対話的な深い学びを今後の学校教育の価値と位置づけ,精査しながら授業を考えるべきではないだろうか。もちろん,知識・理解の習得にもリアルな学校でこそ促進されることもあろう。しかし,学びのレベルを精査することで,自宅でのオンライン授業とリアルな学校での対面授業をシラバスや年間授業計画に落とし込んでいくことが近い将来,十分起こりえるのでないだろうか。

4.生徒の振り返りを通して得た教師の学び

授業の残り5分程度で,振り返りも行った。生徒の振り返りから今後の新たな教育のあり方を示唆すると思われる主なコメントを以下に挙げておく。

「振り返りシート」より

今日の授業の中で「学んだこと」・「気づいたこと」・「深まったこと」を書いて下さい。

  • このような協働作業によってチームに協調性が生まれたと感じた。
  • 「とりあえずやってみる」ことが大事だと思いました。動いていると新たな発見があったので,話し合いで時間を使うよりも動いて成功に近い道を探す方がいいと思いました。
  • 私のチームは失敗でしたが,一人一人が仕事を見つけて動いていたので,全員で作ったという達成感を感じることができました。
  • マシュマロチャレンジを通して人と一緒に考えることの大切さを改めて学ぶことができました。

また,動画を見た後での感想を英語で書く宿題を課したところ,思わぬ副次的な効果があった例を紹介したいと思う。それは,この「マシュマロチャレンジ」の授業を実施する前に,「Lesson 6 The Story of PlayPumps」で,世界の水問題を解決する1つの方法としてプレイポンプの考え方を理解し,さらに,失敗から学ぶことの重要性について学んでいた。その内容も加味し,Writing課題を書いた生徒がいたことは,注目に値する(下線部がその該当箇所)。

(What impressed me most in the video) is that kindergarten students are better at the marshmallow challenge than business school students. Certainly, when we tried this challenge, we put the marshmallow on the top only once. I learned that we should try several ways to reach our goal. Also, we didn’t give up even if we failed and it is important for us to learn from failures. Furthermore, the key to success is to cooperate with teammates in a short time. In this point, I think kindergarten students do better than adults.
(注:英文はALTによる若干の修正が加わっています)

このように,1つのLessonでの学びが別のLessonで有機的に繋がることは,学習者にとって知識や技能の習得の点から非常に有効であり,文科省の掲げる「各教科等において習得する知識や技能であるが,個別の事実的な知識のみを指すものではなく,それらが相互に関連付けられ,さらに社会の中で生きて働く知識となるものを含むものである。」と合致するのではないだろうか。

おわりに

本稿では,マシュマロチャレンジの活動を通して,今後の新たな教育のあり方を論じてきた。先の見えない時代に突入し,学校も何が最善解なのかを探る上で,まさに,「マシュマロチャレンジ」の状況に直面しているのではないだろうか。私たち教育関係者も,さながらマシュマロチャレンジで試行錯誤を繰り返すように,この難局を乗り越えなければならない。


*本稿は,土屋 (2021)をもとに,授業の詳細について加筆修正を施したものである。

謝 辞
本授業を行うにあたり,本校1学年担当の英語科の先生方には,授業のアイディアや授業実施に至るまでの打合せ,教具の準備において多大なるご協力をいただきました。ここに心より感謝申し上げます。

◆参考資料

土屋進一 (2021) 「教室での「マシュマロチャレンジ」を通して得た学びと今後の教育のあり方」『英語教育2021年1月号』(大修館書店)

文部科学省 (2018)『【総則編】高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説』

◆参考映像

トム・ウージェック (2010)『塔を建て,チームを作る』(TED Talks)