数学切り抜き帳
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数学のことば 1
桜花学園大学教授
岩井 齊良
 あらゆる学問にとってことばは重要な手段である.
 ことばがないと,私たちは考えをまとめることはできないし考えたことを伝えることもできない.
 それどころか,ことばがないと,考えることもできないであろう.

 ことばですべてのことが解決するかというと,そうではない.
2×0=0(2 掛ける0が0になる)や,20=1(2 の0乗は1)は「なぜそうなるのか説明してください」と言われても難しい.

 君は小学生に 2×0=0 であることを説明できるだろうか.教科書を見ると一応の説明は書いてある.しかし,その説明で小学生は納得するだろうか.これははなはだ疑問である.
 私たちが即座に説明できないということは,私たちがこれ(2×0=0)を完全には理解していないということを示している.私たちが理解していることは,「数学ではそのように考える」,「そうした方が都合がよい」,「数学はそういう環境にある」ということである.

 20=1 を認めることは高校生にとっての問題である.教科書には指数法則

  am×an=am+n

を用いた説明が書いてある.この説明を見てすぐ理解できる人とすぐには理解できない人がいる.話が難しくなるが,教科書に書いてあることは,いかに高校生に理解させるかという説得の文章であって,論理的な議論ではない.

 数学を学ぶときにはしばしば上のような場面に出会う.
 「0.9999…=1」という関係も,「数学ではそのように考える」,「そうした方が都合がよい」,「数学はそういう環境にある」,「数学はそういう文化である」という立場で理解してもらいたい.

 数学はリクツ(論理)の世界である.しかし,リクツですべてを決めようとするのは無理である.ときには妥協も必要である.慣れ親しんでいるうちに分かってくるということもある.