三角形の重心について語りたい.
三角形の重心については次の定理が知られている.
定理 三角形の3本の中線は共通の1点で交わる.この点は各中線を2:1に内分する.
数学ではこの点を重心と定義する.しかし,この点をなぜ重心というか,数学書には書いてない.このページでは,このこと(なぜ重心というか)にこだわってみよう.
重さのない三角形△ABC の各頂点に,1kgずつのおもりをぶら下げた場面を想定する.
点 G は物体全体が釣り合う点である.この点を力学的重心または物理的重心という.
線分 AG の延長と辺 BC との交点をDとする.△ABC には重さがないので,△ABC を2本の棒 AD,BC におきかえても3つのおもりの釣り合いは保たれよう.
点 D のところにひもをつけ辺 BC をその下にぶらさげる.
こういう模型をモービルという.
この場面で点 D’は明らかに辺 BC の中点である.もとの三角形でいえば,AD は中線である.
また,次の場面から分かるように,点 G は線分 AD を2:1に分ける点である.
以上のことから,次のことが分かった.
力学的重心 G は中線 AD の上にある
力学的重心 G は中線 AD を2:1に分ける
同様の場面を想定すれば,同様のことが分かる.
力学的重心 G は中線 BE の上にある
力学的重心 G は中線 BE を2:1に分ける
力学的重心 G は中線 CF の上にある
力学的重心 G は中線 CF を2:1に分ける
はじめに考えた力学的重心 G は,
3点 A,B,C に同じ質量が分布するときの力学的重心
である.この点 G は三角形の重心というよりはむしろ「3点の重心」といったほうがぴったりする.
三角形の重心ということばにとらわれず,発想を転換して3点の重心という立場で考えると,重心の定理は自然な意味をもつ.しかもその事実は数学以前に明らかなことなのである.我々は重力のある世界に住んでいるのでこのことが理解できる.
ところで,幾何学で考える世界には重力などというものはない.幾何学で考える平面は仮想の世界である.例えば,無限に長い直線というものを見た人は,アダムとイブ以来だれもいない.数学や幾何学の世界は完全に頭の中にだけ存在する世界である.ところが,高校生をはじめ多くの人が,この非現実の世界をそれぞれの頭の中に共有している.すばらしいことである.それが文化というものである.
しかも,この(手段や法則の)限られた非現実の世界において,現実世界と同様のことが起こる.つまり,純粋に論理だけで,重心の定理の成り立つことが証明できる.そこが数学の面白いところである.
発展問題 四角形 ABCD の辺 AB,BC,CD,DA の中点をそれぞれ E,F,H,G とし,対角線 AC,BD をそれぞれ M,N とする.このとき,3つの線分 EG,FH,MN は共通の1点で交わる.
(1) 4点 A,B,C,D の座標を決めると,Pがどんな点か簡単に想像がつく.この方法で上のことを証明せよ.
(2) モービルを使って,上のことを説明せよ.
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