授業実践記録 | |
「ベクトル方程式」の指導事例 |
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神奈川県立相模原総合高等学校 國松稔之 |
「ベクトル方程式」は生徒に理解しにくい単元のひとつであるように思います。そこで,以前から私なりに工夫をしてきたことをご紹介いたします。 |
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1.直線のベクトル方程式
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「直線」というと生徒たちにとっては,1次関数の式 y=ax+b こそがそれを表す式であって,他の式にはなかなかなじみにくいものです。そこで,授業では先に媒介変数表示に関して説明をしておきます。つまり y=ax+b から,x=x1+lt,y=y1+mt という x 座標,y 座標の関係式が導かれ,逆に,x=x1+lt,y=y1+mt から y=ax+b が導かれることを示しておきます。これはお察しの通り,直線のベクトル方程式を示したあとに媒介変数表示を通じて y=ax+b という式が導かれることを示すことの準備です。事前に一度教えておくことで,媒介変数表示に対する抵抗感を少なくし,思考回路にかかる負担を減らしてやることが目的です。こう言うと,「媒介変数表示は難しくて,かえって生徒の負担になる」という意見を聞くことがあるのですが,教え方の工夫によってはそれほど理解しがたいものではありません。(今回は字数の都合で割愛しますが・・・)また,たとえ完全な理解が得られなくても,形式的な処理はできるようになりますから,その後のベクトル方程式になじむためには役立ちます。 さて,いよいよベクトル方程式を教えることにします。あまりはじめの式 にはこだわらず,一気に ,,までもっていきます。すると,生徒は という式に不自然さを感じるようです。「1−t と t とは一体何なんだ」ということですが,これはすでに学習している内分点,外分点の公式と同じものであることを説明してやると納得します。1−t と t が足して1になる関係であることを説明し,内分・外分の公式を変形した式 の と の係数が足して1になることを確認します。2点A ( ),B ( ) を通る直線が,線分ABの内分点や外分点の集まり(正確には,端点A,Bも含めないといけないわけですが)であることを認識させます。この作業によって,1−t と t を不自然に感じる気持ちが解消されるようです。
さらに,軌跡との関連を示しながら,直線のベクトル方程式にいろいろな形の式があることを示します。たとえば,条件AP=BPをみたす点Pの軌跡は線分ABの垂直二等分線ですが,これを次のように左右に対比させながら解説します。
問:2点A(1,4),B(5,2)について,条件AP=BPをみたす軌跡の方程式を求めよ。(条件からわかるように,線分ABの垂直二等分線の方程式を求めることになる)
このように示すことで,媒介変数表示から y=ax+b を導く際にも とすることの補強ができます。また,円のベクトル方程式を学ぶ際に, ,または をその答とすることへの抵抗感を抑えることにもつながります。また,なぜ を用いるか,なぜ とするかの回答にもなります。 |
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2.円のベクトル方程式
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事前に軌跡の復習をしているために,ここは普通に教えても大丈夫なようです。問題演習を通じて,さまざまな形の円のベクトル方程式に慣れさせます。その際,必ず として, (x−a)2+(y−b)2=r2が得られることを確認させます。ベクトルの基本計算の復習にもなりますので,一石二鳥です。 これまでの指導内容の関連を図にまとめてみましょう。
このようにして,ベクトル方程式に関連する事柄のネットワークを構築するわけです。関連性の無い独立した知識はすぐに失われてしまいますが,すでに持っている知識に関連付けられた事柄はなかなか失われることはありません。指導に多少時間はかかりますが,生徒のためになると思って続けています。 E-mail:kunimatu@iris.dti.ne.jp |